今昔キャンプ物語









「昔みたいにキャンプがしたい」
そう言い出したのは誰だったっけ。











「……よし、こんなもんかな」

額に滲んだ汗を拭いながら、私の隣でテントを張り終えたヒロトは言った。

ここは私達が住むお日さま園のある町から電車とバスを乗り継いでしばらく歩いた山奥。
昔、お日さま園のみんなとキャンプをしていた場所なので、どことなく面影が残っていて懐かしい。鼻を掠める金木犀の香りもあの時と全く一緒。
ただ昔と違うのは、ここに来ているメンバー。前みたいに、お日さま園全員、という大人数な訳じゃない。


「おー、流石ヒロトだな。30分も掛からずに組み立てるとは!!どっかの誰かさんとは大違い!」

「……おい、それは私に対する厭味と受け取っていいのか?」

「別に風介とは言ってないしー」


私の少し後ろで晴姉と風兄がいつものように言い合いを始める。
そう。今日は晴姉と風兄、そしてヒロトと私の4人でキャンプをするためにわざわざここまで遠出して来たのだ。


「まぁまぁ!2人とも落ち着いて!今日は喧嘩やめようよ〜」

「リュウの言う通りだよ。それに俺が早く組み立てられたのは風介が先に組み立ててくれてたお陰で…」



「「リュウとヒロトには関係ないッッ!!」」


私とヒロトのフォローも虚しく、こんな時だけ息がぴったりの風兄と晴姉は本当にベストカップルだと思う。
喧嘩するほど仲が良いって言うし、私もいつかあんな2人みたいになりたいなぁ…。


そんな事を思いながら、隣で笑うヒロトに目を向けた。
本当につい最近。忘れもしない、ちょうど一週間前の日。
私はヒロトに告白された。

ずっとずっと大好きで憧れだったヒロトから「好きなんだ」と言われて頭の中がパニックになったのは記憶に新しい。混乱し過ぎて、逆に何故か冷静になった私はその時「うん……そっかぁ…」と答えたのだと後でヒロトから聞かされた。
よく覚えてないけど、今考えたら恥ずかしくて死にそうになる。

今だって、大好きなヒロトの隣に自分がいるのが不思議なくらいで。
今日キャンプに行こうと誘ってくれた晴姉にこっそり感謝する。
毎日お日さま園に帰ったら会うといっても、普段は部活で何かと忙しいヒロト。
実はこれが付き合ってから初めてのデートだったりする。…初めてのデートがキャンプっていうのも変な感じがするけど。



「……リュウ?どうしたの??」

「……! あ、いや…えっと、何でもない!!」


テントも張り終わり、風兄と晴姉はいつの間にか水道のある場所へと移動し、今夜の夕食であるカレーに使うであろう野菜を持って洗おうとしているところだった。


「…あの二人がカレーのルウ作るって言ってたから、俺達はご飯炊こうか」

「うん!…風兄が料理するのは心配だけど」

私の軽口にヒロトが笑う。
今だから笑えることだけど、昔お日さま園のみんなと来た時、料理当番だった風兄は、その後お日さま園で伝説になるような見事に不味いカレーを作ったのだ。…カレーを不味く作るのって逆に難しそうなのにどうしてあんなことに…!
思い出しただけでもゾクリとする味。
…できればもう味わいたくない。


「でもまぁ…今日は晴がいるから大丈夫だよ」

私が風兄が作ったカレーの味を思い出して、背中を震わせていると横でヒロトが私を安心させるように声を掛けた。


「じゃあ俺たちは火をおこすために薪でも拾いに行こうか」

「…う、うん……」

後方の水場の方からまた晴姉と風兄の喧嘩する声が聞こえる。
そんな二人に夕飯を任せてもいいのだろうかと若干不安に思いながらも、私はヒロトの後ろにくっついてその場を後にした。










一一一…どれくらい時間がたっただろうか。
ヒロトの後ろに付いて歩きながら、薪になりそうな枝を探し始めて早30分はたったような気がする。
しかもその間にヒロトは私が探した薪の量の2倍近くの量の薪を持っている。…いつの間に……。
私はなんだか悔しくなって、もっと森の奥の方で探そうと思い付いた。

きっともう少し奥に入れば、薪になる枝はたくさんあるはず……。そう思って意気揚々と足を踏み出した時だった。


「……わっ!?」

近くにあった大きな木の根っこに足を取られてバランスを崩してしまったのだ。
慌ててバランスを取り直そうとするけど、時既に遅し。
私は地面に向かって正面へと思いっきりこけた。





………はずだった。
いつまで経ってもやってこない衝撃と、何故かふわふわした感覚でぎゅっと閉じていた目をそっと開けてみる。


そして真っ先に飛び込んできた、至近距離での彼の顔。

「リュウ!?大丈夫!!?」

「……っ!!へぁ!?だ、だだだダイジョウブ、です…」


ふわふわした感覚の正体は、ヒロトが私を抱き抱えていたからで、それに気付いた私は一気に頬へ熱が集まるのを感じた。

「リュウに怪我がなくてよかった…」

加えて、彼は心底安心したように息を吐いてそのまま頭を私の首もとへ押しつけたのだ。…そう、つまり抱きついてきた訳でありまして。

「わ、わああああ!?」


思わず私がぐいぐいとヒロトを押し返すと、案外すんなりと離れて宙を浮いていた私の足を地面に降ろしてくれた。


……あれ?
なんか、その…押し返した私が言うのもなんだけど、…拍子抜けした感じ。
あれだけ至近距離だったのにも関わらずこんなにすぐに解放されると思ってなくて、逆に少し不安になる。
…べ、別に期待してた訳じゃないけど、やっぱりなんだか寂しくてヒロトの顔を見上げる。


「……さ、そろそろ俺たちも戻ろうか」

そう言ってヒロトはわざとらしく私から顔を逸らした。



………なんだよ…!
自分から顔近づけてきたくせになんでそこで離れるんだよ……っ!!
さっさと自分の前を歩くヒロトの背中を蹴り付けたい衝動に駆られたけど、さすがに冷静になってなんとか思い止まった。


…いやいや、落ち着け私。
いくらなんでも蹴るのはダメだよ。蹴るのは……。
てか、思いっきり私情だし。
でも私ばっかりヒロトのこと意識してバカみたいじゃん…



「……リュウ、大丈夫?疲れた??薪俺が持とうか?」

「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」

……ほら、そうやってさり気なく私を気遣ってくれる。
なんてよくできた彼氏なんだろう。つくづく私なんかには勿体ないと思う。
時折「大丈夫?」とか「足下気をつけて」とか言って常に気に掛けてくれるし。
薪を持ってるから手繋げないのが残念だけど…。



とにかく、私たちが拾った薪がないと火をおこせないので、ヒロトと2人で足早に風兄と晴姉の待つ場所へと向かう。
どうやらテントを張った場所と薪を拾っていた場所とはあまり距離がなかったようで、思ったよりも早く到着した。








「風介ー、晴ー、薪拾ってきた…よ、……ってあれ?」

「…風兄と晴姉がいない…?」

「どこ行ったんだろう…?」

「ヒロト、こっちに野菜と水が入ったお鍋があるよ?」


大量に薪を持ち帰った私たちを迎えてくれるはずだった風兄と晴姉は、忽然と姿を消していたのだった。



「本当に…風兄と晴姉、どこ行っちゃったんだろう…」

「……リュウ、ちょっとこっち来て」

「………?」


数十分前に私たちが張ったテントの傍でヒロトが私を小声で呼び、手招きしていた。
小走りで近づいて「どうしたの?」と尋ねようとした口を手でぱっと塞がれる。


「……んんっ!??」

「しーっ!静かに」

頭上から聞こえるヒロトの声に心臓が跳ねる。
けど、その声と一緒にテントの中から聞こえてきた、微かなくぐもった声を私は聞き逃さなかった。



「……ん、は…っ、…ちょ、ふうすけ、やめ……んんっ!」

「…あんまり暴れないでよ」

「だ…って、…こ、こんなとこで………り、リュウたちが、…帰って、くる…っ!」


そっとテントの隙間から覗けば、テント内では風兄が晴姉に覆いかぶさっていて。



「…大丈夫だよ。私たちがこんなことしてる最中に割り込んでくるほど野暮な連中じゃないさ」

「はぁ…っ!?それじゃ夕飯どうすん…んんっ!んーっ!!」


反論して身体を押し退けようとする晴姉を静止して、長くて深いキスを施す風兄の姿。
薄暗いテントの中だと見えにくかったけど、晴姉が涙を滲ませて耐えているのが少しだけ見えた。


確かに風兄と晴姉を探してはいたけれど、まさか2人をこんな形で見つけることになるなんて…!



あぁぁ…、あんな事してる2人を見たせいか私まで変な気分に……!
………熱い。
非常に顔が熱いです。


風兄の手が晴姉の身体をまさぐるのを見ていられなくて、そっとテントから後ずさる。
すると背中に感じた温もり。
後ろへ動いた拍子に、背後で見ていたヒロトに少しぶつかってしまったようだ。



「……あ、ヒロトごめ…」




言い掛けた言葉はヒロトの唇によって吸い込まれた。
付き合って、初めて重なる唇。
もちろんファーストキス。


「…ごめん、リュウ。なんか俺、ムラムラしちゃったみたい」

申し訳なさそうに眉を下げる彼を見上げながら私は唖然とするしかなかった。
まさに、『開いた口がふさがらない』状態。


そのままヒロトは私の手を取って歩きだす。

「…あの2人まだ時間かかりそうだし、先に夕食の準備しちゃおうか?」

「……え?…あ、うん」

なんだか色々と衝撃的すぎて付いていけない頭で返事をすると、何を思ったのかヒロトがピタリと足を止める。
そして、一言。


「…それともさっきの続き、やる?」

「…………っ!!?」



再び頬が熱くなるのを感じて、私は慌てて顔を隠す。

ヒロトの事は大好きだし、よくできた彼氏だとは思うけと、こういう事さらっと言うのは本当に止めて欲しい。
私の心臓、いつかドキドキし過ぎて爆発しちゃうんじゃない?






「昔」みたいに大人数じゃないし、キャンプファイアーも肝だめしもなかったけど、やっぱりヒロトと一緒に過ごせたことが嬉しかったんだよね…、なんて現金なことを考えつつ夕食の準備に取りかかったのだった。









そして小一時間後、風兄と一緒に酷く申し訳なさそうにテントから出てきた晴姉には、掛ける言葉もなかったです…。



end


オマケもあったり…!
流石に寝る時は男女で分かれました

――――――――――
本当に長い間お待たせして申し訳ありませんでした!
米さんリクエストの『基緑♀+涼南♀』です。
勝手にお日さま園キャンプ捏造したり、オマケ入れたりしてすみません…^q^

ぐだぐたと長いのですが、米さんに捧げたいと思います!><
米さん…!苦情・書き直し、いつでも受け付けてますから……ね!^o^←
では、この度はリクエストありがとうございました!







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