冬です。
風の強い季節になりました。



そんな風の強い寒空の下で、俺は彼女を30分以上も待たせてしまいました。

















「…ヒロトは私が風邪を引いてもいいんだね」

「……ほんとゴメン」


さっきからご立腹の彼女、リュウは鼻の頭を真っ赤にしてズズ、と鼻をすすった。

今までリュウとの待ち合わせで遅れる事なんて一度もなかったのに。いや、少なくともリュウが到着する5分前には到着していた。


…なのに。
なのに、今日に限って欠席していたクラスメイトの仕事を押し付けられ(たぶんそれは俺が学級委員長だから)、急いで待ち合わせ場所に向かっていたら先生に呼び止められ、ご丁寧に普段の素行が良いとか成績が優秀だとかどうでも良い事をつらつらと語り始めたもんだから、内心舌打ちしながら愛想笑いで相槌を打ってその場を後にした。勿論「急いでるので失礼します」と一言添えて。



そして気付けば時刻は無情にも待ち合わせの時間を過ぎてた訳でありまして。
リュウの格好を見ると、長めのベージュのセーターとブレザーを着ているものの、短いスカートから伸びる足がなんとも寒そうだった。







「もしかして、女の子に呼び止められてたから遅くなったの?」

「いや、今日は違うよ!」

「……今日『は』??」


あ、やばい。もしかしなくても、墓穴掘った…?
リュウのこちらを見る目が痛い。
真っ黒な瞳からは今にも涙が零れそうになっていて、俺は思わず彼女の頬に手を添えて涙を拭う。


「泣かないでよ。俺まで辛くなるから」

「泣かせてるのは誰だよ」

「………ごめん」

「…………ホットココア…」

「……え?」

「ホットココア、買って来てくれたら許す…」



鼻だけじゃなく、目元まで赤くなったリュウは、俺の腕の中から上目遣いでこう言ったのだ。
あまりの可愛さにリュウをぎゅっと抱き締めた俺の行動は間違っていないと思う。
むしろ理性を保って、彼女を抱き締めるだけにした俺を誰か褒めて欲しい。




「はわっ!?ちょ…、だ、誰か見てるかもしれないじゃん!離してよ!!」

「リュウが可愛すぎるのがいけないんだよ。それに今、通りに誰もいないし」

「うぅ…!ま、まだ許してないんだからね!!ココア!ココア、買ってきて!!」

「……はいはい」



顔を真っ赤にして怒っているリュウはやっぱり寒そうで、俺は「すぐに買ってくるよ」と一言残して自販機へと向かった。
今度こそリュウを待たせる訳にはいかない。

幸い自販機は待ち合わせ場所である学校の門から30秒もあれば到着できる。たしかそこの角を曲がった先にある自販機にはホットココアを売っていたはずだ。







そんなことを考えながら、早足で歩けばすぐに目的の自販機に着く。
後ろポケットから財布を取り出して小銭を出そうとした時。
100円玉が俺の手から飛び出して、硬貨独特の高い音を鳴らした。

コロコロと転がって自販機の下へと入る様子を特に焦ることもなく見ていたけど、ふと重要な事を思い出す。



そういえば……あの100円玉、最後の1枚だった…!

今さら慌てて財布を見直すけど小銭は10円玉5枚と1円玉3枚。
お札に至っては、5000円札が一枚。いっそ5000円札が1000円札に変われば良いとさえ思ってしまう。それか自販機の1000円札しか入らない挿入口に5000円札を入れてみようか。もしかしたら奇跡が起こって自販機が5000円札を1000円札と認識してくれるかもしれない。




………。
……無理だよなぁ。

うん、分かってたけどね。うん。
自販機の下に転がった100円玉の様子を見る為に、渋々地面に膝を付いて隙間を覗く。



今の俺、端から見たらすごいカッコ悪いだろうな…。
でも仕方がない。リュウのご機嫌をこれ以上損ねる訳にはいかないのだ。
冷たい風が元から低い俺の体温をどんどん奪ってゆく。ああ…俺はこんなに寒い中リュウを待たせてしまったんだな…。罪悪感が今更ながら沸々と沸き上がる。



頭を地面すれすれのところまで下げて、隙間を覗く。真っ暗でよく見えないがたぶんそう遠くまで転がっていないはず。早く見つけてココアを買って、リュウに許してもらおう。

そう思って、自販機と地面との隙間に手を入れた時、頭上から声が降ってきた。


「…何やってるの?ヒロト……」

「…………リュ、リュウ…?」





俺がなかなかココアを買って来ないから痺れを切らしてやってきたのだろう。現在自販機の隙間に手を入れて小銭を取ろうとしている俺は、彼女の心配そうな声色を背中で聞いていた。


「ごめんね、リュウ。100円玉が下に転がって………あ、取れた!」



良かった…!これでリュウにホットココアを買ってやれる。俺の後ろに立ってる彼女を暖めてやれる。




そう思った俺は完全に油断していた。

まだ膝を付いていてリュウよりも大分目線が下がっていたこと。
そしてその体勢のまま、彼女の顔を見ようと上を見上げたこと。


よく考えれば、分かることなのに100円玉が取れた喜びの方が大きくて、つい立ち上がるのも忘れてて振り向いてしまったのだ。






そして、俺の視界に入ってきたものは、白のレース。








ミニスカートから覗く


「リュウ、スパッツ履いてないから寒いんじゃない…?」

「…え?……って、うわァァァアアアアストロブレイク!!!」

「ちょ…っ、リュウ!!?」
(しまった、また墓穴掘った!!!)










end


――――――――――
パンチラリズム様に提出させていただきました!^o^
パン……チ、ラ…?微妙ですみません!><








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -