「緑川、早くしないとみんな行っちゃうよ」

「わわっ!ちょっと待って!!今行くから!」




一月一日、元旦。
きん、と冷たい空気が闇夜に張り詰める。

お日さま園では年を跨いで12時を過ぎると、毎年恒例の初詣に行くため、みんなバタバタと急がしそうに準備をしていた。


「風介!!これ俺のマフラーだぞ!お前のはそっちだ馬鹿!」

「どっちでもいいだろう?新年早々君は細かい奴だな」

「んだと!?おめぇも新年早々ムカツク奴だな!!」


晴矢と風介が新年初っ端から喧嘩しているのを横目で傍観しつつ、オレは自分の赤いマフラーを手に取った。
その赤色を見て、ヒロトを思い出す。

最近、赤いものを見ると何故かヒロトの事を思い出してしまうのだ。
確かにヒロトの髪の色は赤色だけども。考えてみたら髪が赤色なのはヒロトだけじゃない。晴矢だって赤色だ。

なのに思い出すのは何時だって晴矢ではなくヒロトの方なのだ。




「緑川〜?準備できた?もうみんな先にお参り行ってるってさ」

「ええっ!?そんな酷い!!」


既に先に行っていたと思っていたヒロトが玄関口からひょっこりと顔を覗かせた。
辺りを見回すと、ついさっきまで喧嘩していたはずの晴矢と風介の姿はなく、玄関ホールから伸びる廊下には誰一人見当たらない。



「……え、もしかしてヒロト、戻ってきてくれたのか?」


みんなが神社へ向かう中、オレのために?

にっこりと微笑んでオレを見据えるヒロトに、一瞬どきりとする。

………いやいやいや。
なにドキドキしてんだオレ。



「姉さんに鍵を閉めてくるよう頼まれてさ。緑川が早く出てくれないと、俺鍵閉めれないんだけどな〜」


優しく微笑んでいたと思ったら今度は意地悪そうな顔でこう言われた。
ニヤリと笑うヒロトもかっこいいと思う自分は、相当彼の事を慕っているみたいだ。

でも、そっか。
瞳子姉さんに頼まれて戻ってきたんだ…
一瞬でもオレのために戻ってきてくれたのだと思ったばっかりに、少しだけ残念だと思ってしまう。


……って、だからなんでオレが残念だとか思ってんだよ。

新しい年なのにこのモヤモヤはなんなんだ。
こうなったらもう、早く神社に行って神様に雑念を払ってもらうしかない!





「よし、準備できた!お待たせヒロト!」

「……俺、緑川が準備に時間がかかる理由、今分かったよ」

「………え?」


ガラガラ、と多少建て付けの悪い横開きの扉の鍵を閉めながら、ヒロトはオレの恰好を見て苦笑する。


…オレの恰好、なんか変かな?

マフラー、手袋はもちろんのこと、ついでに耳あてと帽子。
確かに、マフラーしかしてないヒロトに比べたら、オレはずいぶん重装備だとは思うけど。実は装備はそれだけじゃない。
ヒロトは知らないだろうけど、貼るカイロを足の裏と腰にも貼っていたりもする。

お陰で神社へと向かって歩くオレの身体はすごく暖かいのだ。


だって、真冬の夜中だぞ!?真冬の夜中!
風も冷たいし、そもそも空気がひんやりしてる。風介の言葉を借りるなら、まさに「凍てつく闇の冷たさ」だと思う。




「ヒロトは真冬の夜の寒さをなめてるよ」

「そうかなぁ…?…あ、じゃあ緑川にあっためてもらおうかな」

「…………はぃ!?」


真っ暗な夜道を歩きながら、白い息を吐いてヒロトはとんでもない事を言い出した。

ちょっと待て。
あっためるってどういうことだ…!?



「…ちょ、ヒロト何言って……」

「あは、緑川の顔真っ赤だね」


真っ赤にさせてるのは誰だよ!
冗談にしては質が悪すぎる!!

あんまり顔を見られたくなくて、オレはマフラーに顔を埋めた。



「…それで?ヒロトは今年何お願いするの…?」

「……え?」


未だに頬が赤い状態でヒロトの顔を見る事なんてできる訳ない。
オレは前方を見続けたまま、毎年色んな人に尋ねている質問をヒロトにも投げ掛ける。まぁ、そもそも初詣ってお願い事する行事じゃないけどさ。

周りにはちらほらと、オレ達が向かう神社へ歩く人が増えてきていた。



「……願い事、かぁ」

「オレは今年もみんなでサッカーできますように、ってお願いするつもり」

「俺もそれかなぁ…?……あ、」


何かを思い出したように顔を上げるヒロトに、オレも漸く顔をヒロトの方へと向ける。





「…今年こそ緑川の事、リュウジって呼べるようになりますように…、とか?」


静かに告げられた言葉をオレが理解しかねていると、ヒロトは「なんてね」と付け加えて、歩くスピードを早めた。
前を見れば、瞳子姉さんと見慣れたお日さま園のみんなの姿。



スタスタと先を歩いて行ってしまったヒロトに取り残されたオレは、みんなの前に行く事ができないでいた。

だって、鏡を見なくても分かる。
…オレの顔、今絶対赤いから。








赤いものを見るとヒロトを思い出すのも、ヒロトの言動で一喜一憂したり赤面したりするのも、どうしてなのか全く分からない。

ただ、この分からない気持ちを無意識に「恋愛」へと繋げてしまいそうになって、慌てて首を振った。









俺、おかしいのかな

(今年はこの変な気持ちが何なのか分かりますように!)

(今年こそ緑川が俺の気持ちに気付いてくれますように)












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