12/24 23:00の二人
一一一一急げ、急げ、急げ。
やってしまった…!
今日は風介に呼ばれてたのに、つい寄り道をしてしまった。
だって、お日さま園に帰ってきたリュウがあまりにも幸せそうな顔をしてたから。
ヒロトと一緒にいる姿からは誰が見ても分かる幸せオーラを醸し出している。
だから、思わず声を掛けてしまったのだ。「ヒロトとうまくいったのか?」と。
風介との約束を忘れた訳ではなかったけど、少しくらい話して行ってからでもいいだろう。
これでも一応ヒロトとリュウのことを陰ながらずっと応援してきたんだから。
そう思っていたら、案の定。
話す時間がちょっと位じゃ足りなくて、随分話し込んでしまった。
一一やばい、やばい、やばい。
『明日の夜、私の部屋に来て』
昨夜、お風呂上がりにいきなり言われた、その一言。
「え、何急に」とか「何時に?」とか言いたいことや聞きたいことがあったのに、発言した本人はくるりと向きを変えてスタスタと既に前方を歩いて行ってしまった。
一一…明日。
普段は女々しいことが大嫌いな俺だけど、明日が何の日かくらい分かってる。
明日はクリスマスイブ。
そう、恋人たちのクリスマスなのだ。
そんな日に彼氏一…風介からあんな事を言われたら。
そりゃ、期待しない訳がない。
…だけど、不安な事が一つ。
俺、南雲 晴は自他共に認める甘え下手である。
元々、男に負けたくないっていう気持ちが強いせいで、恋人のはずの風介にさえ上手く甘えられないでいる。よく端から見ている人に「え?付き合ってるの?」と言われる始末。
だから今日の昼、相談したのだ。みんなに。
『良い雰囲気はどうやって作るものなのか』と。
すると、吹雪から返ってきた答えはこんなものだった。
『んーとね、まず晴っちは今日涼野クンと会う時、少し首元が開いた服を着て行くこと!』
一一吹雪のやつ、絶対からかってるだろ。
最初は恥ずかしくて、そんなことできるか!って思ってたけど、そこはやっぱりクリスマスの魔法にでもかかってしまうのだろうか。
今日くらいは頑張ってみようかな、という思考へと最終的には行き着いてしまった。
「あああ…やばい、風介待ってるだろうな…!」
風介の部屋が近づけば近づく程焦りは増して、最後には半ば突進するように風介の部屋の前に到着した。
ドアの前で、もう一度自分の恰好を確認。
携帯を忘れた事に気付いたけど、どうせ使わないし、放っておく。
吹雪が言ってた、首元のゆるい服。
あれからみんなと別れて、自分の部屋にある数少ない服を全て出して、首元の開いた服を探してみたのだ。
すると、ふと目についた一着のワンピース。
落ち着いたダークグレーで、控え目ながらも全体に小さな花がちりばめられている。首元は少し大きめのVネックになっており、素直に可愛いと思えた。
普段ジャージとかジーパンしか穿かない俺が何故ワンピースを持っていたのか。決して買った訳じゃないぞ。…貰ったのだ。お日さま園の施設長である、吉良星二郎。…通称父さんに。
一応黒のタイツを穿いているものの、普段私服でスカートなんて穿く機会ないもんだから、足がスースーする。ついでに胸元も。
走ったせいで荒くなった息を整えて、ゆっくりと深呼吸を一つ。
一一一…コンコン。
「ふうすけ〜?」
ノックしても反応がなかった辺り、風介の奴…絶対怒ってるだろ。
……やばい。一旦怒ってしまった風介の機嫌を直すのがどれだけ大変か、小さい頃から一緒に住んでいる俺にはよーく分かっている。
こうなったら、なんとかして許してもらうしかない。
…一応、ヒロトとリュウが付き合うことになった、っていう最新ニュースもあるしな!これでなんとか風介の話を逸らせれば……、なんてセコいことを考えつつ。俺はそっと風介の部屋の扉を開けたのだった。
「風介〜?は、入るぞ…?」
部屋に入ると、中はひんやりとしていて真っ暗だった。
……あれ?風介いないのか…?
とにかく、暗くて周囲の様子が全く分からないため、電気をつけようとスイッチに手を伸ばす。スイッチの場所は俺の部屋とまったく同じ場所に設置されてるから、自分以外の部屋でも電気をつけるのは容易かった。
漸く明るくなった部屋で、目的の人物を捜すと、捜し人はすぐに見つかった。
…ただ、いつもの見据えたような瞳は閉じられて、規則的な呼吸を繰り返していたけど。
「あれ……寝てる…?」
今まで焦っていた気持ちは急にどこかへ飛んでいき、拍子抜けしてしまった。
てっきり風介は自分を待ってくれているものだとばかり思っていたから、目の前のソファーに座って気持ち良さそうにすやすや寝ている恋人に少なからずイラッとする。
…一待たせたのは自分だって分かってるけど、ここで俺が怒るのは違うって分かってるけど。
「……やっぱ、待ってて欲しかったよなー」
溜め息混じりに吐かれた俺の言葉は、風介の乾いた部屋に静かに響いた。
でも、ソファーに座って寝てるってことは、待っててくれてたって思ってもいいんだよな…?
…うー、やっぱ風介に悪いことしたな。
なんだかこのまま自室へ帰るのも風介に悪い気がして、ソファーで寝ている恋人にそっと近づいて、頬へそっと唇を落とす。
そして耳元で一言「ごめんな」と囁いた。
一…頬にキスとか普段は俺からなんて絶対しないからな!
クリスマスだからだ、クリスマスだから!
自分のやった行為がいきなり恥ずかしくなって、風介から距離を取る。………つもりだった。
………身体が、動かないんだけど。
加えて腰を掴まれて、ぐいっと力任せに引き込まれる。
バランスを崩した俺が風介の上に倒れ込むのは当然の事だった。
「……っ、え…!?」
焦った俺が風介の肩を押し返すと、いつもの端整な顔立ちと目が合った。
とろんとしている瞳からして、本当に寝ているところを起こしてしまったみたいだ。
……さっきのキス、は…覚えてないよな…?もしあの時起きてましたとか言われたら俺は恥ずかしくて死ぬ。うん。
「…………はる?」
「………っ! お、おぅ…」
滅多に呼ばれない名前で、しかも寝起きの若干低い声で言われればもちろん俺の心臓はバクバクな訳で。
「…その、恰好……」
ぼんやりとした声色のまま、風介はやっと俺が普段と違う恰好をしていることに気付いたらしい。
……やっぱり好きな奴に見られると恥ずかしいな…くそぅ。いつも着てるパーカでも羽織ってくれば良かった……!
思わずガクリと風介の肩を両手で持ったまま俯いて項垂れる。
風介の視線が痛い。
「……君、その恰好でここまで来たの?」
「…え?う、うん。そうだけど……?」
何故か険しい顔をしている風介は俺の腰を掴む力を少し強めた。そして溜め息を一つ。
…人が頑張ってこんな恰好してるっていうのに、溜め息はないだろ…!溜め息は!!
思わずそんな台詞が出かかった、正にその時。
「君、気付いてないみたいだから言うけど、見えてるよ。ブラジャー」
風介の放った発言は、俺を硬直させるには十分な破壊力を持っていた。
「…………へっ?」
ギギギ、と音がしそうなくらいゆっくりと視線を胸元に向ければ、風介の方へと少し傾いて前屈みになっている体制はどうぞ見てください、と言わんばかりに、ぱっくりと胸元が開かれていた。鏡で見た時は見えてなかったのに…!Vネックだから余計に見えてる…気がする。
「……う、うわああああ!!!???」
一瞬動きが遅れたものの、俺は直ぐさま胸元を押さえて倒れ込む。まだ風介の上に乗っかってた事をすっかり失念していた俺は、自然と風介へと抱き着く形になってしまい、更に赤面する羽目になる。
「…これはさ、君から私へのクリスマスプレゼントだと思って良いのかい?」
「………勝手にすれば?」
これ以上熱くなんないぞって位、顔が熱い。頬をなぞる風介の手が心地良くて目を閉じると、噛み付くような深いキスをされた。
薄く目を開けて時計を見ると、時計の針はもうすぐクリスマスイブを終えようとしていた。
end
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涼南♀お戯れ編でした^o^
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