12/24 20:00の二人。









「うはぁー!今年も母ちゃんの手作りケーキ美味かったなぁ!!」

「円堂のお母さんは昔から本当に料理が上手だよな」



今日はクリスマスイブ。
そして、毎年恒例、円堂家のクリスマスパーティーにお呼ばれする日でもある。
もちろん私だけではない。家族全員で、だ。
家族同士の仲が良いため、自然と円堂とも遊ぶ機会が多く、気付けばクリスマス、お正月など一年間の大きな行事は殆ど一緒に過ごすことになっていた。


…まぁ、そのお陰…というか何というか。今は恋人同士なんだけども。



「それにしても毎年毎年うちの父ちゃんもよく呑むよなぁ」

「うちの父さんが誘うから……。毎年ごめん」




そう。私たち2人は今、避難と称して円堂の部屋に来ていた。
これも毎年恒例になりつつあるのだが、うちの父さんが円堂の家に行くと必ずと言っていい程円堂の父親に絡み、お酒に誘うのだ。
父さんも父さんで、いつも家に帰ってから私と母さんに散々怒られるのに、まったく懲りる様子がない。いい加減、学習して欲しいのに…。


でも、実は父さんにこっそり感謝している部分もある。



「あー…下でやってる父ちゃん達の飲み比べ、いつ終わるんだろうなー」

「…まぁ、日付が変わる頃までには終わると思うけど」


「ヒマだー!」と退屈そうにする円堂の横顔を見て思わず笑みが零れる。

私が父さんに感謝してること。
それは、こうして円堂と2人の時間を与えてくれることだ。



クリスマスイブの夜。
彼氏の部屋で二人っきり。


…よくある理想のシチュエーションではないだろうか。

何となしに今日の昼間、南雲が言っていたことを思い出す。
今頃、彼女は涼野のために頑張っていることだろう。「やらない」と言いつつ、最終的にはやるのだあの子は。


暇だ暇だと言っていた円堂は、私の方をちらりと見たかと思うと、後ろにあった本棚に並ぶサッカー雑誌を取るよう頼んだ。

雑誌を手渡すと、円堂は「サンキュー」と言ってにっこり笑う。




………良い雰囲気、か。


不意に私は自分の髪に手をかけ、髪ゴムをするりと解いた。

特に深い意味はない…訳じゃないけど。
クリスマスだし。
下にいる両親たちもまだ少し時間が掛かると思ったし。
円堂も暇そうにしてるし。



今日くらいは、私から誘ってみようと思ったのだ。
本当に、それだけ。


なのに円堂ときたら、雑誌をめくる手を止めて、物凄く驚いた顔でこちらを見ていて。逆にこっちが驚いてしまう。




「……え、えんどう…?」

「……え、…あ、いや。……その、……え?風丸……いいの、か…?」


普段元気で威勢の良い円堂は、面白いほど動揺してうろたえていた。
そりゃそうだろう。いつも私から誘うなんて滅多にないのだから。

「いいのか」とはつまり、…まぁ、いわゆる夜の営み的なものをしても「いいのか」という確認だったりする訳で。

知らず知らずの内に私の髪を解いたら、それが『合図』のようになっていたようだ。
付き合いも長いし、今までそういう事は何回もしてきたのに。今更どうして確認されるんだろう…?


私がよっぽど不思議な顔をしていたのか、円堂はこちらに近づいてきて私の肩を両腕で掴んだ。
見つめる円堂の瞳は真剣な中にも困惑の色が見てとれる。

「…円堂?」

「かぜまる…。今日、クリスマスイブ…だよな?えと、女の子って…そういうの、気にするんだろ?明日に支障が……とか」

「………?イブだから、するんでしょ?」


私の言葉に鳩が豆鉄砲をくらったような顔をする円堂。

…あれ?クリスマスイブに積極的になる……って、これで合ってるよな…??
てか、もしかして円堂、する気なかった…?もしそうなら、私すっごい恥ずかしいよな…!?

でも多分この円堂の顔は「お前何言ってんの?」的な顔だ………!
あああ…私のばか……っ!
何一人で盛り上がって盛ってんだ…ばかばか!



全ては南雲があんな話題を私に振るから…!吹雪も吹雪で変に乗せてくるし…!
後で文句の一つでもメールしておこう。


「……風丸?」

「……はっ! ご、ごめん!私、円堂の気持ちとか全然考えてなくて……!その、したくないなら別にしなくて………っ」


自分の思考に浸り過ぎて焦る私を落ち着かせるように、円堂は掴んだままだった肩をやんわりと押した。
押し倒された、と気付いたのはその後すぐの事。



「………え、」

背中に伝わる床の冷たさが、頬だけでなく全身熱い私の身体を程よく冷ましてゆく。
頭上にある円堂の顔が近づいてきたから、抵抗することなく目を閉じた。





唇が離れると、円堂が笑いながら「父ちゃん達が飲み比べ終わるまでに間に合うかなぁ」なんて言うから、私は「善処してよ…」と呆れながら返答したのであった。












end

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円風♀お誘い編でした^o^








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