12/24 19:00の二人。









いつも通る商店街は夜になり、クリスマスカラーのネオンがピカピカ光る幻想的な場所へと姿を変えていた。



「うわ、すっごーい!!!」


思わず叫んだ私の声は白い息と共に夜風に消えた。






……ついに。
遂に来てしまった。

ヒロトに24日の夜空いてる?と誘われたのが3日前。
二つ返事で承諾したまでは良かったけど、それが瞳子姉さんのお使いだと知って落ち込んだのはその後すぐのことだった。




…でも、こんな綺麗な夜景を見れたし、なんだか得した気分。しかもヒロトと一緒だし。
今日の昼も通った商店街だけど、とてもじゃないけど同じ場所だとは思えない。
毎年、ここの商店街はイルミネーション頑張ってるなぁとは思ってたけど、今年は例年よりもライトの数が多い気がする。

ライトの数に比例してかどうか分からないけど、それなりに人の数も多かった。
昼に通ったケーキ屋は、夜になった今も人が訪れ、ケーキを買う人で溢れている。



「…リュウ、大丈夫?俺から離れちゃ駄目だよ」

「……あ、うん!」

商店街の中心へと歩いて行くにつれてだんだん多くなる人に押されながらも、周りのネオンに気を取られていたら、不意にヒロトが腕をひっぱって引き寄せてくれた。






…………あ。まずい。


『私ね、りゅーちゃんはとにかく基山くんにくっついてボディタッチいっぱいすれば良いと思うの!』


昼間、吹雪に言われた言葉が蘇る。
…くっつく、かぁ……。

私の頭の斜め上あたりから「思った以上に人、多いな」なんて言うヒロトの声が聞こえる。
そしてそっと手を引かれて人の波から離脱する私たち。
その一連の仕草があまりにも自然で、私は息をするのも忘れて思わず彼の整った顔を見つめてしまった。

すると、何を勘違いしたのか目の前の人物は心配そうな顔をしてこう言ったのだ。


「リュウ、もしかして人込みに酔った?」



…………違うし!!!
ただヒロトに見惚れてただけですよーだ!


昔から兄妹のように育ってきたせいで、ヒロトはどこか私を構いたがる。
…だから、かな。
私がヒロトの事を恋愛対象として好きだって気付いてから、色々意識してもらおうと頑張ってみたけど、彼はいつも通りの妹扱い。




クリスマス…イブ………。
今夜くらい、頑張ってみるのも、良いかもしれない。




「………………」

「…リュウ?」

「…嫌だったら引きはがしてもいいからね…?」

「……?」


疑問に思っているヒロトの腕を一本取り、その腕に向かって思いっきりぎゅっと抱き着いてみる。
…これ、傍から見るとちゃんと腕組んでるように見えてるのかな…?
…ああぁ、恥ずかしくて死にそうだよ…!絶対、今私の顔真っ赤だ……!


どうしよう…!
吹雪の言ってた通り、頑張ってくっついてみたけど、この後どうすれば良いんだろう?
…というかさっきからヒロトの反応がないんだけどこれはもしかしてスルーされてるのかな??
うわ…スルーとか一番ショックじゃん…!やっぱいきなり過ぎたのかな……?前置きとか必要だったの?あぁもう!よく分かんないよ…!


「うぅ……ヒロト……?」

堪らずそっと名前を呼んで見上げると、彼は恐らく今日人が一番集まっているだろう巨大なクリスマスツリーを見つめていた。
…が、急にくるりと首を回してこちらを見たかと思ったら、私がくっついている腕はそのままにして、抱き着いてきた。

そして私が聞いたのは、ヒロトの着ているダウンが擦れる音と、耳元で囁かれた言葉。



「…………好き、だよ」





…………え?

………………えっ??いま、何て言った…?


ヒロトにぎゅっとされてるだけでも心臓バクバクで爆発しそうなのに、さらに耳元で話されて耳が蕩けそうになる。ずっと寒いと思っていたのにヒロトのダウンに包まれているので、とても暖かい。
その暖かさが、だんだん私の頭を平常心へと導き、漸く口を開かせてくれた。

そうだよ…!好きは好きでも、『好き』には色んな意味があるじゃん……!


「……えと、ヒロト…す、好き…、って…どういう…?」

抱き着かれたままの私はなす術がなくて、とりあえず掴んでいた腕を放して、今度は彼の腰辺りをぎゅっと掴む。


「…あれ?もしかして、伝わってないかな??」

抱き着かれてからずっと私の肩の上にあった顔がぱっと上げられて、眉根を下げて困ったように笑う彼と目が合った。


「ヒロト…、その『好き』って…家族として…?」

…そう。お日さま園で一緒に暮らす私たちにとって、ここが一番大事。
……なんだけど。
困ったように笑っていたヒロトは、いきなり真剣な顔になって、即答した。


「えっと…、恋愛対象としての『好き』なんだけど…」

「れんあい……?ほ、ほんとに…?」

「なんで俺が嘘吐かなきゃいけないの。俺はずっとお前のことが好きだったよ」



……嘘みたい。本当に?
クリスマスイブに想いが叶うなんて、そんなドラマチックな展開、自分には絶対有り得ないと思っていたのに。


「……ヒロト、」

「…うん?」

「ちょっと私の頬っぺた抓ってみて」

「………え?」


だってやっぱり信じられないんだもん。ヒロトが私のこと好きだなんて。
私何にも取り柄ないのに…

折角ヒロトが『好き』って言ってくれたのに、全然実感が沸かない。
するとヒロトは少し俯いた私の頬を抓るのではなく、そっと包み込んだ。


「もしかして、夢だと思ってる?」

「……だって、」

ヒロトの手によって、半ば無理矢理に彼を見るように顔を上げられる。


「そういえば、俺、まだリュウからの返事もらってないけど?リュウはどうなの?俺の事、好き?」

真っ正面から、からかうように目を見て言われると私の顔はみるみる内に朱く染まる。
ヒロトに頬を包まれてるせいで顔を反らせない。

…あぁ、もうここまで来たんだし、どうせ夢なら言ってしまってもいいかな。


「……好き。私はヒロトが好きだよ」



震える声でそう言えば、近づいてくる翠の瞳。
思わず固く目を瞑ると、唇に触れた柔らかい感触とちゅっという微かなリップ音。


「…ごちそうさま」

そっと目を開くと、なんとも良い笑顔の彼。

「………ふぇ…?」


何が何だかさっぱり頭がこの急展開についていけない。
気付けば頬に触れていた両手は放されていて、熱くなった私の頬を夜風が冷やしてくれていた。



「…それじゃ、今日から俺たち恋人同士だね。これからもよろしくね」

「……あ、うん」

完全に向こうのペースに乗せられながらも、私は嬉しくて緩む顔を隠すことが出来なかった。


…そっかぁ。吹雪の言ってた『くっつく』って、恋人同士になる、っていう意味も含まれてたのかな…?
……え?あの吹雪がそこまで考えて…?
……まぁいいや。後でお礼のメールを送っておこう。


前方でヒロトが商店街の巨大ツリーのよく見える場所を探してくれている。
その背中に無意識に飛び付きそうになって、なんとか踏み止まった。

ヒロトも私のこと好きだって分かっただけで、これからは自分に素直になれそうな気がしてくる。きっと、今まで以上にくっついて、いっぱいヤキモチ妬いちゃうだろうな。だってヒロトはモテるから。


「リュウ、こっちおいで!ここからだと綺麗に見えるよ」

少し離れた場所で手招きする彼の方へ駆け寄って、再びぎゅっと腕にくっつく。


「………?リュウ??」

「…私、今まで以上に我が儘になるかもしれないから…、ヒロトも遠慮とか、しないでね?」



恥ずかしくて流石に顔までは上げられなかったけど、せめて彼の顔を見ようと目だけを上に向けると、唖然としているヒロトの表情が見えた。
そして彼は息を吸い込んだかと思うと、またも私の耳元でこう囁いたのだ。

「これからは俺も我慢しないから。覚悟しておいて」








…言っとくけど、覚悟するのはヒロトの方なんだからね…!









end

−−−−−−−−−−
基緑♀こくはく編でした^o^







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -