24日の女の子たち










師も走る、12月。
「師走」という名の通り、駆け足で過ぎていった日々もすでに24日目だった。



街にある商店街では赤や緑の派手な飾りが目立ち、今月の一大イベントが今日…もとい、今夜であることを知らせている。
近所で美味しいと評判のケーキ屋には人がごった返すように店内がぎゅうぎゅうで、その様子はたとえ冬でも、見ていて暑苦しかった。


そんな商店街の歩道を歩く、4人の女の子。
目立っているのは髪の色。それぞれ赤色、水色、萌黄色、銀色の髪を靡かせ、何やら話をしているようである。



「……あ、あのさ!じ…実は今日の夜、ヒロトに出掛けようって誘われてて……!」


萌黄色の髪をした一人が、顔を真っ赤にして焦ったように答えた。
ちなみに水色の髪の持ち主である風丸が「今夜私の家に集まってパーティーしないか?」という言葉の返事だったりする。


「えー!?なになに!!?りゅーちゃんったら、今夜ついに基山くんと結ばれるの!?よかったねぇ〜」

萌黄髪の言葉にいち早く反応したのは、答えた相手の風丸ではなく、銀髪の女子…吹雪の方だった。
その吹雪にまたも顔を赤く染める『りゅーちゃん』こと緑川リュウ。

「はっ!?…え、ええ!!?ち、違うってば!なんかね、瞳子姉さんにお日さま園の子供たちのクリスマスプレゼント買って来いって言われたらしくて、その付き添い!…だ、だからっ!そ、そんなんじゃないもん……!」

「えー??」


焦ったように、一気にまくし立てた緑川は、吐き切った酸素を肺へ送るために再び大きく息を吸った。
顔はまだほんのりと赤い。

「ヒロトの奴、上手く誘ったよなぁー」


両手を頭の後ろで組んで、赤い髪の南雲は独り言のように呟いた。



「…なっ!晴姉まで何言ってんの!?私とヒロトの会話、横で風兄と聞いてたじゃん!」

「まぁねー」


必死な緑川とは対象的に南雲はケラケラと可笑しそうに笑った。


「そう言う晴っちはどうなのー?」


横からひょっこり顔をだして可愛らしく首を傾げる吹雪は『興味津々』と顔に書いてあるようだ。
そんな吹雪に対して、さっきの余裕はどこへ行ったのか、南雲は急に気まずそうに目線を前に向けた。



「…え?……あー、…うん。まぁ、今夜は無理だな。ごめん風丸」

みんなで集まって騒ぐのが好きな南雲ではあったが、さすがクリスマスイブ。
彼女は本当に申し訳なさそうに眉を下げた。


「…いや、いいよ。どうせ涼野でしょ?」

「そうそう!晴姉は風兄とラブラブだもーん」

「じゃあ明日、今夜のこと詳しく教えてね、晴っちwww」


風丸が返事をしたのを筆頭に、残りの2人も次々と茶々を入れる。
いつもならここで、「何言ってんだよ!そんなんじゃないし!!」などと怒声が飛んでくるのだが、何故か今日の南雲は顔を赤らめて「あー」とか「うー」とか言っているだけである。


「…南雲?」
「…晴姉?」
「…晴っち?」

なんだか様子がおかしい南雲に3人も心配になって、彼女の赤い顔を見つめる。
そして、6つの瞳に見られている南雲は、ついに諦めたかのように息を短く吐き、ぽつりと話始めた。



「……あ、あのさ…良い雰囲気?、って…どうやって作るもんなの…?」




口を尖らせて目線を横にずらし、恥ずかしさに耐える南雲のなんと可愛いことか。


「……え、は…晴姉……?」

「南雲…一体どうした……?」

しかし通常の南雲 晴という人物を知っている緑川と風丸は、南雲の急変ぶりに驚愕する。


「……い、いや…やっぱり何でもない……!」



自分から話を振っておいて、今更恥ずかしくなったのか、南雲は話題を変えようとするが、それを許さない恋に恋する乙女が約1名。…いや、正確に言うと人の恋模様が好きなだけだったりするが。
とにかく、話を逸らそうとする南雲にキラキラと輝くような期待を胸に、いい笑顔を見せる彼女。

……そう、吹雪である。



「ちょっとー!そういう事は私に任せてくれないと!」


意気揚々と割り込んできた吹雪は人事だと思って随分楽しそうである。



「晴っち!何でもない訳ないでしょ!ここは私がなんとかするから!ね!!」

「…う、うん。じゃあ、教えて…く、ださい…」

「わぁ…!晴姉がお願いしてる…!」

「珍しい…!これ今日雪降るんじゃないか…?」

「……っ!し、失礼なっ!!」


張り切る吹雪と、いつになく素直な南雲に驚く緑川と風丸。
クリスマスくらい、たまには素直になりたいという彼女の健気さに他の3人は「涼野風介にはもったいない女だ」と後に語ったという。

「んーとね、まず晴っちは今日涼野クンと会う時、少し首元が開いた服を着て行くこと!」

「………へ?あ、ああ…うん……?…」


いきなりビシッと吹雪に指をさされて曖昧に返事をする南雲。
その横で風丸は「なるほど…」と妙に納得している。
緑川はというと、こちらも南雲と同じく頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

「ねぇ!なんで晴姉が首元ゆるい服を着て行ったら、良い雰囲気になるの…?」


真っ黒な瞳を輝かせて質問する緑川は、純粋そのもので。
単に「襲いやすいから」という理由で発言した吹雪だったが、うーん、と少し考えて、言葉を選んだ。…すべては緑川の純粋な心を守るために。

「えっとね、りゅーちゃん…晴っちは、胸が大きいでしょ?だからそこを強調させたら良いんじゃないかなって…思ったり……?」

若干言葉は改正されたものの、意味はあまり変わってないだろ…と聞いていた風丸は思ったのだろう。やれやれ…とため息を吐きながら頬を掻いた。
しかし、そんな風丸の思いを他所に緑川は吹雪の言葉を素直に受け取った。


「そっかぁ、晴姉たしかにおっきいもんね…!」

「…ばっ!こっち見んな、リュウ!!!」

「いいじゃん!減るもんじゃないし!晴姉うらやましいなって見てるだけー」

「…くっそぅ……!吹雪に相談したのが間違いだった…!」

「なにそれ酷い!言っとくけど効果覿面だからねソレ!ちなみに私の豪炎寺くんはイチコロだったから!!」

「実行済みかいっ!あんたの余談はいらないから!!!」


うわあああ、と南雲は赤くなった顔を隠すように手で頬を覆う。そして、とにかく話を逸らさなければ自分が弄り倒されるのは確定だと感じた彼女は、矛先を風丸へと向けた。


「うぅ…、てゆーか!さっきから風丸とか全然会話に入ってこないし!」

「…えっ、私?」

「風丸もこういう話題嫌だよな!?もうこの話止めよー!なっ!?」


わたわたと慌てる南雲だったが、残念ながらその慌てる原因を作ったのは彼女自身だったりする。それを面白そうに眺める緑川はわくわくと風丸の返答を待っていた。

「私は……そうだな。円堂とそういう雰囲気になるときは、髪を解くかな」

「っだぁぁぁぁ!なんでその話掘り返しちゃうの!せっかく話逸らそうとしてるのに!ばか!」

「わぁー!いいね、すごく!いっちー髪長いからそういうの、色気があって良いと思う!」

「…そうかな?」


滅多にしないけど…、と言って恥ずかしそうにする風丸は普段のキリリとした雰囲気を緩めている。そんな様子を珍しいものでも見るかのように、緑川は南雲のフォローをしながら眺めていた。

そして、テンションの上がった吹雪の暴走は遂にこの場にいる全員に及んだ。


「私ね、りゅーちゃんはとにかく基山くんにくっついてボディタッチいっぱいすれば良いと思うの!」

「…え、ええ!?なに、今度はわたし!!?」

「今夜、基山と出掛けるんだよな?調度いいじゃんか。吹雪が言ってたこと、実践してみたら?」

「風丸まで何言ってるの!?」

「そうだな、リュウだけ何もやらないのも狡いじゃん!」

「そんな…晴姉まで…!」

「じゃあ決定!今夜、基山くんと出掛けた時、ぴったりくっついてみてね!!」

「……そ、そんな無茶苦茶な…!てか、私まだヒロトと恋人同士とかじゃないんですけど……」


怒涛のような会話の応酬に、緑川はぽつりと根本的な問題について呟いたが、残りの3人は聞く耳をもたなかった。






12月24日。クリスマスイブ。

彼女たちにとっての本番はこれからのようである。











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つづきます。





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