惑わしているのは


※鬼不♀









つん、としたすっきりとした中にも甘さを含む香りが俺の鼻孔を刺激する。




「不動…お前、何か付けているのか?」

「……は?」

今までずっと無言だった空間に俺の声が響く。ちなみに、俺の部屋。
隣に座る不動はソファーの背もたれに全体重を掛け、両足を左右に大きく広げて座っている。自分がスカートを穿いているという自覚がないのかアイツは。
とりあえず、これ以上あの、スカートの中が見えそうで見えないゾーンを見ていると目に毒なので、視線を不動の顔へと移す。

これでも一応、不動の彼氏だ…と、思っている。一方不動は俺を彼氏と認識しているのかどうか怪しい。
もしかしたら都合の良いヒモぐらいに思っているのではないかと心の中で自嘲する。
好きなのは俺ばかりで、不動はまるで気まぐれな猫のように俺を翻弄するのだ。
まぁ、それでも好きなんだから仕方がないのだが。


全体的にウェーブがかった前髪が瞬きする度に揺れて彼女の睫毛の長さを顕著に表していた。


「……もらったの。しきょーひん、ってヤツ?」



俺の質問にようやく答えた不動は、眉間に眉を寄せて「そんなににおうのか…」と自分の腕に鼻を寄せる。

どうやら不動は、街中で配っていた香水の試供品を貰い、気まぐれに付けていたようであった。
香水とか、そういう類のものは付けた本人にはなかなか匂いは分からないと聞く。実際、匂いを嗅いでいた不動もよく分からないらしく、「そんなに匂わなくない?」と言う始末。

隣にいる俺には、物凄く香ってくるのだが。



「俺には、すごくにおうぞ」

そう言って不動の首元に顔を埋めれば、素直に俺の肩に頭を擡げる不動。
おぉ……珍しい。

珍しく甘えてくる不動の姿を見て、俺は我慢ができなくなって思わず首に噛み付く。
吸い付くように甘噛みすれば、不動の白くて透き通るような肌に小さな朱い痕が付いた。


「…はっ……、今日は随分と積極的なんだね、鬼道クン?」

「…誰のせいだと思ってるんだ」

「えー?」とクスクス笑う不動をソファーに押し倒しながら、自分の堪え性の無さが情けなくなってくる。
これではただの飢えた獣じゃないか。


「……ん、…っふ、くくく…」

唇を合わせても依然笑う不動に、俺の動きがピタリと止まる。



「…?何が可笑しい?」

白いシャツの下にある、不動のしっとりとした肌がちらちら見えるから俺としては早く事に進みたいのだが、一度疑問に思ったことは解決しないと次に進めない、俺の悪い癖がそれの邪魔をする。
俺が問うと、不動はソファーの下にあった鞄をごそごそと探り出した。


……一体、何なんだ…?

何も言わず、無言で鞄を探る不動が、「あ、あったあった」と言って取り出した、小ビン。

さっきの不動との会話の流れと、蓋が閉められているのにも関わらず匂ってくる香りにピンときた。
恐らく…いや、絶対。あの小ビンが、試供品で貰った香水であろう。

その小ビンの中に入っている液体を揺らしながらなんだか上機嫌の不動。



「…不動、やけに機嫌がいいな」


不動を見ていたら無意識の内に口走っていた。



「……だって、さぁ」


笑いを堪えて涙まで浮かべている不動が見せたのは、小ビンに貼ってあるラベル。

そこに書かれていた、かわいらしい文字を見て俺は目を見開く。



『気になる異性をその気にさせる匂い』





「…………っ、な!?」

「あっれー?どしたの鬼道クン、顔真っ赤だよ??」

「う、五月蝿い…黙れ!」


今も尚香ってくる匂いが、俺の気持ちを高ぶらせているのだと思うと余計に恥ずかしくなって、俺はそれを紛らわすために中途半端だった体勢の不動を再びソファーに押し倒した。



「…やっぱ、この匂い嗅ぐと襲いたくなるんだなー」

まるで実験の結果でも見たかのように、不動は色気のカケラもない一言を言い放った。
その言葉に対して、「それは少し違う」と反論する俺。

不動の方へ身を乗り出すように顔を近づければ、ギシッ、とソファーが音を立てる。


「不動だから…、だ。匂いはあまり関係ない。不動がいるから、襲いたく…なる、んだ」

普段外では必ず付けているゴーグルを外し、訴えるように不動を見れば、不動は目を真ん丸にして驚いていた。


…そして、遅れて朱に染まった不動の頬。



「みっ…見んな!!!見るな見るな見るなぁぁぁ!!!」

真っ赤な顔をした不動は両腕で顔全体を隠すようにしてバタバタと暴れる。


これは、なんというか……



可愛すぎるだろ…っ!!!





最終的には顔を隠したまま、「もういい、離れろよ」と言って俺の腹部あたりを蹴り出す始末。
不動の方から誘っておいてそれはないだろう。



我慢もそろそろ限界だ。
近づけば近づく程強く香る匂いを振り切るようにして不動を抱きしめる。


好きなのは俺だけかもしれない、なんてもしかしたら杞憂だったのだろうか。気付くと不動の腕が背中に回されていた。



そっと口付けると、柔らかい感触と甘い声。

香水なんかより、俺の匂いに包まれればいいのに。




そう耳元で囁けば、不動は「ばぁーか」と言って笑っていた。










end


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個人的ににょた不動はふさおが好きです^///^
あと鬼道さんが「不動」って呼ぶのが好き!




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