ヒミツの習慣。











唐突ですが、私には最近悩みがあります。…と、言っても誰かに相談するほどのことでもないし、そんなに深刻なことでもありません。



私の悩み。


それは恋人である基山ヒロトが、事あるごとに二の腕を触ってくることです。














「あ、リュウ。今帰り?良かったら一緒に帰らない?」

秋になり、少し肌寒くなってきた夕暮れ時。
日誌を書いていて帰りが遅くなった私は部活帰りであろうヒロトに声を掛けられた。


「うん、いいけ……ど」

戸締まりを確認して、誰もいなくなった教室を後にする。
ヒロトは私が鞄を持ってない側に移動すると、私の二の腕をするりと撫でた。


「……ひゃっ!?」

秋になって肌寒くなってきたとはいえ、それは朝夕の話で。
衣替えの季節はもう少し先だったのを思い出す。

「はあ…あと少しでリュウの二の腕ともお別れか…」


現在進行形で私の二の腕を触る隣の恋人は、本当に残念そうな表情で寂しいなぁ…と呟いている。

最近巷でよく耳にする『残念なイケメン』ってこの人の事を言ってるんじゃないだろうか、なんて失礼な事を考えて、幼なじみだからまぁいっか、と考え直す。
未だにぷにぷにと二の腕を触るヒロトはまだぶつぶつと何か言っているけど、放っておくことにして、私はここ最近妙に触ってくる彼について考えを巡らせた。






ヒロトと恋人同士になったのはつい最近、一ヶ月ほど前のこと。
最初こそ幼なじみの延長って感じだったけど、一応ちゅーだって済ませてる仲だったりする……うん。てか、ヒロトはいつも不意打ちするから、ちゅーする時に前フリくらいして欲しい。

…って、そんな話は今どうでもよくて!!




そう。問題はヒロトが最近よく触ってくるってことで。


友達に相談すれば、うらやましいとか、この贅沢者!とか言われる始末。
でも何で二の腕なんだろう…?


…いや、まだお尻や胸じゃないだけマシだよね。ヒロトがそんな部位を触ってこようものならば、私の全力の右ストレートが炸裂することになるだろう……。









「……ュウ、リュウ?」

「へ……っ!?」


相当深く考え込んでいたのか、廊下を歩いていたはずの私たちはいつの間にか下駄箱に到着していた。

「どうしたの?リュウが考え事なんて珍しい」

「珍しいなんて失礼な!って、まだ触ってたの!?」


私の顔を下から覗き込むように見る彼よりも、まず腕の感触が気になった。
驚く私の表情を見て満足そうに微笑んだ彼は、自分の靴を履くためにクラスの下駄箱へと向かう。



もしかして私が考え事してる間ずっと触ってたのかな…?
よく飽きないなぁ……じゃなくて、そろそろヒロトが何故そこまでして私の二の腕に触りたがるのか聞くべきだと思う。

…たしかに私は人より少し多めにご飯を食べるから(長年普通だと思ってたけど違うらしい)、そりゃ脂肪くらいついてるかもしれないけど!ヒロトだって本当は『太った』って言いたいんだろうな…


そんな自己嫌悪に駆られながら私も靴を履き、靴を履き終わったであろう彼に恐る恐る尋ねる。



「……ねぇ、ヒロト。あのさ、ずっと思ってたんだけど、最近私、太ったかなぁ…?」

「……え?なんで?」

「…いや、だっていっつもここ触ってくるし…」


『ここ』と指で二の腕を指し示せば、ヒロトは「あぁ…」と含みのある笑みを浮かべた。

「…嫌だった?俺に触られるの」

「嫌っていうか……くすぐったい、かな。ただ何でだろうって思っただけ」



悩んでいたはずの事柄は、いざ本人に聞いてみると途端にバカバカしく思えて、私はヒロトから顔を背けた。

恐らくヒロトは私が太ってる、ってことを伝えたかったんだ。だからずっとぷにぷにな私の二の腕を触って、言葉にせず伝えようとしてたのではないだろうか。
きっと「太った」なんて言われた私が傷つかないように…と彼なりに気を遣ったのかもしれない。

そもそも考えてもみれば、二の腕くらいで私は何を悩んでたんだろう…!
そうだよね、この先ヒロトと付き合ってたらきっと二の腕以外のところだっていっぱい触られ、て………!


「…リュウ?さっきから顔赤いけど大丈夫??」

「………っ!!」


うわわ、私ったら何考えてんの!?ヒロトのムッツリが移った!!?


「…えっと、リュウは俺がどうして二の腕ばっかり触るのか知りたいんだよね…?」

「…ううん、もうヒロトの言いたいことは分かってるから!」

「…え?」

「つまり、ヒロトは私が太ってるって事を教えてくれてたんだよね?だから私のこのぷにぷにの二の腕を触ってたんでしょ?」


再び私の二の腕に触れようとするヒロトからそっと離れて、じとりと睨んだ。

すると睨んだ先の彼は一瞬呆気にとられた顔をした後、今度は堪え切れないように笑いだす。


「……っぷ、くく…っ!ほんと、リュウって可愛いね」

「なっ、なにが!?」

ヒロトが笑ってる理由がさっぱり理解できなくて、思わず大声で聞き返す。あぁ、今が放課後で本当によかった…!


「ふっ…はは、ごめんごめん。いや、そうだよね。俺も理由言わずに触って悪かったよ」

笑い過ぎた為に目尻へ涙を溜めながら彼はなおも笑っている。



「……そんなに笑わなくてもいいじゃん」

「だからごめんって。…それに、リュウが太ってるなんて俺は一度も思ったことないよ」

「…っ、じゃあなんで触るの!?ヒロトは私の二の腕が太いって言いたいんでしょっ!?」


なかなか理由を言ってくれない彼に少し苛々して声を荒げると、ようやく観念したのかヒロトは「しょうがない」とでも言うように溜め息を吐いた。
…溜め息吐きたいのはこっちだよ、まったく。

太ってないというのなら、どうして触ってくるのか。私だってヒロトのこと大好きだし、何か理由があるのならちゃんと知っていたい。


「…ちょうど一週間前くらいかな、雑誌に書いてあったんだけど」

「…何を?」

腰に手を当てて、少し恥じらいを見せるヒロトはいつもの彼からは想像出来ないからか、はたまた見慣れないからか、違和感がある。
私の二の腕を触る理由がそんなに言いにくい事なのだろうか、と首を傾げると、漸く彼は口を開いた。


「…二の腕の柔らかさって、胸の柔らかさと似てるらしい、って」

「………へ?」

ヒロトの言葉に思わず自分の胸を庇う。


「いや、最初は半信半疑だったんだよ?だけどリュウの二の腕柔らかいし、それが胸の柔らかさと似てると思うとそんなの触らずにはいられないっていうか、男のロマンの為にはそれを止められなかったんだよね」

最初の恥じらいはどこへやら。あっけからんと答える恋人に私は身の危険を感じる。

じゃあ、今まで私の二の腕を触ってたのって、胸と感触が似てるから……?






…変態だ。
私の目の前に変態がいる。

たかが二の腕、されど二の腕。
その柔らかさと胸の柔らかさが一緒だと知っておきながら触るという行為はもはやセクハラ以外の何でもないだろう。


「……さいてい」


「いや、リュウ…誤解しないで欲しいんだけど」

「誤解も何もないよ!!しばらく私に近づくなぁ!!」

つい言葉が汚くなりつつも、ヒロトから距離をとって一目散に校門に向かって走る。





涼しくなった秋風が頬をなぞるように抜けて私のほてった頬を冷やしていく。


明日から絶対、絶対カーディガンを羽織って登校しよう…!



そう心に決めて、私は全速力でお日さま園へと続く道を走ったのだった。












end


−−−−−−−−−−
大変お待たせいたしました…!
なずなさんリクエストの基緑♀で緑川にナチュラルにセクハラするヒロトでした^q^
お待たせした上にあれがセクハラかどうか怪しい感じですみません…/(^O^)\きっと、もっと変態な基山氏をお望みだったのでは…!?と書いてから気付きました…えい子のバカ!(>_<)
なずなさん…苦情・書き直し等いつでもお受けします…!
とりあえず二の腕ぷにぷにする基山くん書けて良かったです(^^)そしていつかすごい変態基山書きたいです…!へへへ…^q^←
それではこの度はリクエスト本当にありがとうございました!!!






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