「いっただっきまーす!」





芸術の秋。
スポーツの秋。
読書の秋。



秋と言えば思い浮かぶフレーズは数あれど俺の隣に座って夕食を頬張る緑川にはやっぱり「食欲の秋」がぴったり当て嵌まる。


「はぁ、栗ご飯おいしい〜!最高!」

「本当においしそうに食べるよね、緑川って」

「いや、本当に美味しいんだって!!…後で栗ご飯お代わりしよっと」

「え……?」




お茶碗に栗ご飯を山盛りに入れておいてまだ食べる気なのか、この子は…!

元来、俺はあまりたくさんご飯を食べる方ではないから、緑川の底無しかと思われる胃袋にはいつも驚かされる。
ぱくぱくと大きな口で栗ご飯を口へ運んで頬張る様子は、まるで小動物を連想させるようで、思わず笑ってしまう。




「……ふふっ」

「…?なんだよ??」

口いっぱいに栗ご飯を入れて、キョトンとする緑川は、なんというか……本当に中学生なのかと疑いたくなるほど幼く見えてしまう。





「……何でもない。ほら、ご飯粒付いてる」

「…………サンキュ」

ご飯を咀嚼し終えた彼の口元にご飯粒が付いていることに気付いた俺は、そっと人差し指でそれを拭い、自分の口元に持っていく。
たったそれだけなのに、緑川は少し恥ずかしそうに口を尖らせて目線を泳がせた。


毎度彼にこうも初々しい反応をされる俺も俺で、毎回可愛いなぁ、なんて思っている。







そろそろ栗ご飯のお代わりをしに行くのかなと思って、ふと、緑川のお茶碗を見ると大きな栗が一つ、残っていた。



幼い頃から一緒に育ってきた仲だ。緑川が好きな物を最後に残して食べることくらいお見通しである。
横を見ると、緑川はまだ赤い頬で口元を押さえて、あー、とかうー、とか唸っていた。



「…緑川、このお茶碗に残ってる栗、いらないの?」




至極わざとらしく問えば、勢いよくこちらを振り向く緑川。


だけど、時すでに遅し。









俺の箸に刺さった大粒の栗は、吸い込まれるようにして俺の口の中に入っていった。



「……うん、美味しい」

栗を咀嚼しながら満足気に言うと、俺の方を指さしてプルプルと震える緑川と目が合った。



「………あぁ、……!」


段々涙が溜まってきているものの、それを零さないのは彼のプライドがあるからだろう。俺としては涙を流さないように一生懸命になっている様子にかなりグッときているのだけど。





「あれ?俺てっきり緑川が栗嫌いなのかと思って食べてあげたんだけどなぁ」

「……っ、わ、分かってるくせに……っ!」


俺が緑川のことを知っているのと同じように、緑川だって俺の性格は十分承知しているはずだ。だから、俺がわざと彼の大好きな栗を食べたことだって分かっている。



だけど、俺が何でそんなことしたかまでは、きっと分からないだろうね。





だって、しょうがないじゃないか。












可愛いから、つい


意地悪したくなるんだよ。













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