※南雲視点です。
基山家訪問レポート
『結婚しました』
そう写真付きの葉書に綴られて送られてきたのは、たしか3日前だったか。
写真に映る、赤い髪と明るい緑の髪が教会をバックに2人並んで幸せそうに笑っている。
つい最近、ずっと一緒に育ってきたと言っても過言ではない、幼なじみのヒロトとリュウが結婚した。
お互いにずっと想い合って、やっと付き合えた、っていう経緯を知ってる俺としては、かなりめでたい事だと思う。風介も柄にもなく祝福の言葉を述べていたし。
そして今日、その二人の陣中見舞い?……なんか違うな、新婚見舞い??
何でもいいや。とにかく俺は二人の様子を見に行くことにしたのだ。
風介も誘ったけど、アイツは「当てられるから」とか何とか意味分かんねぇこと言って来なかった。
まあ、風介が意味不明なのは今に始まったことじゃないのでこの際スルーしておくことにする。
そんなこんなで葉書に書いてあった住所を頼りに着いた、とある高層マンション。
…これ、ぜってー吉良財閥所有のマンションだろ…
ほぼ真上に向けられた俺の頭は真新しい、高級な建物を見つめる。
「…えっと、部屋の番号は……っと……」
葉書の住所のところには部屋の番号まで書かれていなかったのでエントランスで『基山』という名前を探す。
…が、そこで俺は絶句する。
『1813 基山』
そう書かれた郵便受けを、じっくり3秒間凝視。
何故俺がそんなに驚いているのかというと、『1813』という番号に、だ。
俺と風介も含めて、ヒロトとリュウは昔からサッカーが好きだった。
だから小学校や中学校の時にサッカーのクラブチームに入ってプレイしていたのだが、その時の背番号が、ヒロトは18番、リュウは13番だったのだ。
この偶然とは言い難い部屋番号。きっとリュウを溺愛するヒロトならやりかねない。
まさか玄関に入る前から、あの二人の隙のない愛を見せ付けられるなんて思ってなくて俺は盛大なため息を吐いた。
……あれ?俺、何しに来たんだっけ?
とりあえず、これ以上エントランスホールでうろうろしていたらただの不審者なので、早々に部屋番号を押してインターホンを鳴らすことにした。
すると何回か呼出し音が鳴った後によく知った、けれど少し懐かしいリュウの声が俺を迎える。
「…は、はい、どちら様ですかー?」
「……あ、南雲だけど」
「えっ!?晴矢?うわー!久しぶり〜!!ちょっと待ってて!今開けるから!」
今も昔も変わらない、可愛らしくて高い声が俺を安心させる。
……学生時代に俺と風介とヒロトの3人でリュウに寄り付く悪い虫を追っ払ってたのが懐かしいぜ…!
まぁ、結局ヒロトに最後は持っていかれちまったけどな。
リュウの声が途切れたのとほぼ同時に自動ドアが開く。そして俺はエレベーターに乗り込み、18と書かれたボタンを押した。
ヒロトとリュウは昔から仲が良かったし、まして新婚ほやほやだ。喧嘩なんて、たぶんしてないとは思うが。
……でも今までだってリュウが一方的に勘違いしたりとか、ヒロトのくだらない嫉妬だったりだとかで、喧嘩してたような…
リュウの兄貴分として心配事は尽きない。
慣れないエレベーター独特の浮遊感に苛々しつつ思考を巡らせる。
本日何度目かも分からない溜め息を吐くと、ちょうど目的の階に着いた音が小気味よく響いた。
エレベーターを降りると目の前に現れた豪華なポーチ。
表札には『1813 基山』としっかり書いてあった。
ここまで来たらもう、あいつらが何事もなくちゃんと生活しているのか見届ける義務が俺にはあると思う。
意を決して、表札の隣にあるインターホンを押そうとしたら、急に玄関がガチャリと音を立てて開いた。
「よく来たね、晴矢」
声と共に現れたのは、これまたよく知った奴で。
そしてよく見ると奴、ヒロトは笑顔を振り撒いてはいるが、完全に怒っている。怒りのオーラが隠し切れていない。いや、きっと隠すつもりがないのだろう。
「お、おう……」
ついさっきインターホンで交わされた、リュウとの和気あいあいとした会話とは似つかわしくない表情でヒロトは笑顔を崩さず、ただいつもより低い声で俺を出迎えた。
な、なんだよ…俺はお前とリュウがちゃんと生活しているかをだなぁ………!
「大丈夫だよ、晴矢。俺達は何も問題なくラブラブな新婚生活を送ってるから。…だから、早急に帰ってくれないかい?」
…え、何こいつ。俺の心読みやがった…!エスパー!?
てか、来た早々帰れってどういうことだよ!茶ぁくらい出せよ!!
「晴矢に出すお茶なんてある訳ないだろ?てか、俺達の愛の巣に他人が入れるとでも?」
「だからなんで俺の考えてること分かるんだよ!? …てか、リュウはどこに………」
そう言いかけた時、ヒロトの奥にある玄関の扉が再び開いた。
「は、晴矢!待たせてごめんっっ!!」
若干息を切らせて姿を見せたリュウはいつも高い位置で結っているポニーテールを解き、フリルが付いたエプロンを着用していた。
…あのエプロン、絶対ヒロトが買ってきたんだろうな。
いつも何を考えてるか分からないヒロトも、リュウが絡むこういう事になると、途端に思考が手にとるように分かる。
現に今だって、ヒロトの目線はリュウに釘付けで俺の存在なんてないことになっているだろう。…ほんと、ベタ惚れだよな。
それにしても、リュウが髪を解いているのは珍しい。
今まで寝る時とお風呂の時以外は必ずと言っていいほどポニーテールにしていたのに…
……………ん?
ちょっと待て。よく見るとリュウの服、乱れてないか?
バタバタして気付かなかったけど、白を基調としたシンプルなシャツは第3ボタンまで外されて、中に着ている黒のキャミソールが見えてるし、エプロンも後ろの紐が結ばれていない。
………まさか、あいつら俺が来る前まで…まぁ、…なんつーか、いわゆる、『お楽しみ中』だったってことか…?
俺がつい視線をリュウにばかり向けていたら、腹の立つことにヒロトが視界を遮ってきた。
「…なに?俺の奥さんに何か付いてる??」
にっこりと至近距離で尋ねられ、俺は一歩後ずさる。
目が笑ってねーぞ、ヒロト…
そして、もしやと思いながら俺は確認の為にヒロトに質問する。
ヒロトの背中越しではリュウが頭の上に疑問符を浮かべながらこちらの様子を伺っていた。
どうやらこっちの会話は聞こえてないらしい。
「あのさ、お前……俺が来る前まで……何、してた…?」
「何してたって……ナニする直前だったけど?空気読めないどっかの誰かさんがインターホンさえ押さなければ今頃俺は良い感じに乱れたリュウとベッドの上でヘブン状態だったのに……ほんと晴矢って昔からタイミング悪いよね」
溜め息混じりにそうまくし立てられ、俺は「やっぱり…」と呆れた眼差しを向けることしかできなかった。
「……まだ昼だぞ…」
「新婚ほやほやの俺たちに時間帯なんて関係ないし」
…駄目だコイツ、早くなんとかしないと。
どこかで聞いたことのあるようなフレーズを頭の中で思い浮かべ、ヒロトはさっさとリュウの元へ戻っていった。
不安そうに俺達の様子を見ていたリュウもヒロトが近付くと安心したように笑みを見せる。
……ちくしょう。見せつけやがって…!
俺がここに来る前に風介に言われた「当てられるから」という言葉。
あながち間違いではなかったらしい。
「また今度ゆっくり話そうね」と申し訳なさそうに眉を下げるリュウとこちらを見ようともしないヒロトを交互に見つめながら、無情にも玄関の扉は閉められてしまったのだった。
本日、俺が学んだこと。
基山家に行く際は必ず事前に連絡しておくこと。
これに尽きる。
…あ、できればリュウの為に、ケーキとかお団子といった甘いものでも持って行くと、運良く基山家の敷居をまたぐことができる。……かもしれない。
まあ俺はヒロトが家にいる限り家の中には入れてもらえないだろうからな。
今度は風介を誘って、リュウ一人がいる時間帯に訪ねよう。
そう心に誓いながら、俺は帰路に着いたのだった。
end
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大変お待たせいたしました…!
奈瑞菜さんリクエストの基緑♀の結婚ネタで、す…!
最初プロポーズネタと勘違いしてお話考えてたんですが、メルフォ読み返して結婚ネタだと気付いて慌てて路線変更したっていう裏話があります。
ちゃんと文章は最後まで読むんだぞ、えい子(^^)←
しかし、南雲くん視点という第三者的目線で新婚基緑書いたせいで基山くんとリュウちゃんの出番が……あわわ^q^
しかも家の中すら入ってないというね←
すみません…ちゃんとリクエストに沿えているのか謎だらけなのですが、奈瑞菜さんに捧げます…!苦情・書き直し等、奈瑞菜さんからバシバシ受け付けますので…!><
それではこの度はリクエスト本当にありがとうございました!
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