罪と罰の輪舞曲
※さんほらパロ
※旅人基山×ランプの精緑川♀
吹き荒ぶ風は砂を巻き上げて、若い旅人の行く手を阻む。
旅人の名は基山ヒロト。
赤い髪に翠の瞳を携えた、青年である。
彼が歩いている後ろには駱駝が一頭。一緒に旅をしているらしかった。
彼と一頭は砂丘を乗り越え街へと向かう。
ざわざわと人の溢れる通りは砂の上に様々な店が立ち並び、呼び込みの声が入り交じる。
街行く人々は決して裕福な格好と言えるものばかりではなく、貧富の差が垣間見えるようであった。
ざわつく通りを抜けた、薄暗い路地裏。
そこで、青年はある男に駆け引きを持ち掛けられる。
「魔法のランブが欲しくはないか?」
彼の翠の瞳に映るのは、胡散臭い髭を生やした一人の中年男。
旅人は今までなんの目的もなく、ただふらふらと旅をしてきたが、男の誘いに興味をもった。
胡散臭い男はなおも話を続ける。
「ランプを擦ると魔神が現れ、三つの願いを叶えてくれる。…どうだ?私がそのランプの有処を教えるから、その三つの願いの内の一つを私に譲って欲しいのだが」
旅人は半信半疑ながらも、男が持ち出した条件を飲んだのだった。
旅人は男に連れられ、南西に位置する洞窟へと足を運んだ。
途中休憩も取らず、歩き続けたため、旅人の体力も限界に近づいていた。
「さあ、ここだ」
男の声に顔を上げると砂漠の下へと続く、ぽっかりとした穴が視界に入った。
砂漠の上は照り付ける太陽のせいでじりじりと暑いのに、洞窟の中はひんやりと冷たい空気が流れ出ていて、旅人の背筋を掠める。
いざ、洞窟の中へ入ろうとした旅人に、男は再び声を掛けた。
「悪いが私が一緒に行けるのはここまでだ。…実は片足が悪くてな、こんな足元の悪い洞窟は思うように足が進まんのだよ」
旅人は男の言葉が嘘だとすぐに気付いたが、面倒なことになりそうだったので素直に頷き、一人洞窟の中へ歩を進めることにした。
洞窟に入っていくらか進むと、真っ暗なはずの奥の空洞から明かりが漏れていることに旅人は気付く。
さらに進むと、そこには妖しい祭壇が、まるで長い間誰かを待ち望んでいたかのように祭られていた。
石造りの祭壇の下には、昔はたいそう豪華絢爛だったであろう、絨毯が敷かれていた。…今はもう埃っぽくて古いものだが。
再び祭壇に目を向けると、あの胡散臭い髭の男の言っていた、黄金のランプが目に入った。
彼はゆっくりと祭壇に歩み寄ると、ランプをそっと手にとる。
すると小さな地響きと共に洞窟が崩れ始めた。
段々大きくなる揺れに、旅人は急いで出口を捜す。
手にはしっかりと黄金のランプを持ち、崩れ落ちる祭壇を後にした。
出口に向かって走っていると、ついさっき自分が走った場所がすでに瓦礫の下になっている。
「ランプを早くこっちへ寄越せ!」
出口があるであろう光の先から例の男が叫ぶ。
その声が聞こえたのを最後に、旅人の意識は途切れた。
真っ暗な意識の中、ぼんやりと浮かぶ光が一つ。
(忘レモノハ在リマセンカ…?)
どこかで聞いたような、懐かしい声を聴く。
暖かな光に意識を向けると姿無き声は自身を包み込むように優しく言葉を紡ぐ。
貴方はまだ、こっちに来てはいけないわ。
遣り残したことが、きっとあるはず…
暗い闇の中、愛しくも懐かしい声が頭の中で反響する。
「………う、」
目醒めると旅人は砂の巻き上がる、砂丘の上で誰かに抱かれていることに気が付いた。
未だぼやける視界で見上げると、そこには緑髪の美しい少女が泣きながら微笑んでいた。
「…貴方がランプに閉じ込められている私を助けてくれたのですね」
真っ黒な瞳から流れる透き通った雫が落ちて、旅人の頬に当たって流れる。
ランプの精である彼女は、今はもう去りし昔、ある罪を犯してしまい、罰としてランプに閉じ込められていたのだった。
「愚かな私を出してくれた御主人様。さぁ願いをどうぞ、叶えましょう」
彼女にとってお決まりの台詞であろうそれを聞いて旅人は思った。
彼女は自分の願いを叶えたら、きっとまた冷たい砂の下で幾千の孤独に震えるのだ、と。
今まで一体どれほどの人間の願いを叶えてきたのか知らないが、そうやって彼女は人間の私利私欲の為に利用され、その人間の代わりに罪と罰を繰り返し受けていたのだとしたら。
旅人は意を決したかのように、目の前に映る彼女を見据えて口を開く。
そして、彼は願った。
吹き荒ぶ風は砂を巻き上げて、若い旅人の行く手を阻む。
旅人の後ろには二頭の駱駝。
そして長い緑髪の少女が一緒に旅をしているらしかった。
end
−−−−−−−−−−
旅人×ランプの精でさんほらパロと言った時点でお気づきの方も多いと思われますが、『魔/法/使/い/サ/ラ/バ/ン/ト』のパロでした。一応…!
あの曲大好き過ぎて…^q^
|