こんにちは初恋



※豪炎寺くんは円風と同じクラス。
※豪炎寺くんは4月に転校してきました。











ミンミンと蝉が鳴き、まだ暑さが存分に残る、新学期の第一日目。
ざわざわと騒がしい教室内に、無駄にデカくてよく響く円堂の声が姿と共に入ってくる。
ついでに、円堂の隣にいる風丸がうるさい、と注意する姿も。
あいつらいつも一緒だな、なんて今更なことを考えて視線を逸らした。



長くて短いような夏休みが終わり、誰もが嫌がる新学期が始まった。
俺の夏休みはと言うと、部活で毎日の様にサッカーをして、家に帰ると妹の夕香と一緒に夏休みの課題をやる日々。
…正直、夕香の読書感想文があんなに時間のかかるものだったなんて予想外だった。




それにしても今日は本当に暑い。
教室の入口から1番奥、窓際の席の俺は太陽からの光を直接浴びて、更に暑い。
9月ってこんなに暑いものだったか?



「豪炎寺ー!」

じりじりと照り付ける太陽光線に参りそうになっていたら、名前を呼ばれた。
一際良く響くその声の主は、さっき教室に入ってきた円堂だ。円堂が窓際の席に座る俺のところへ近づくと、やっぱり風丸は一緒についてくる。
家が隣同士の幼なじみな癖に、学校に来ても一緒にいるなんて本当に仲が良い。
思わず口元が緩み、口角が上がる。


「……ん?何笑ってんだ??」

俺の微妙な表情の変化に気付き、机に頬杖をつきながら尋ねる円堂。
こいつは本当に人の表情をよく見ているな、なんて関心しながら、なんでもない、とごまかすように首を振った。


…と、そこで気付く、円堂の違和感。
つい、頬杖をつく円堂を柄にもなくまじまじと見ると、隣にいた風丸が怪訝そうな顔でこっちを見てきた。……いや、睨んできた。
女なのに、男顔負けの迫力でこちらを見てくる。
……別に嫉妬されても、俺は困るぞ。

これ以上風丸に睨まれるのは御免なので、円堂の違和感をさっさと口にする。


「…円堂、今日は頭にいつものバンドしてないんだな」

へ?と円堂は目を丸くして、続いて隣にいた風丸を見た。
その風丸を見ると、さっきの気迫はどこへいったのか、顔をほんのり赤めて俯く姿に変わっている。
……俺は何か変な事でも言っただろうか。


「あー…あれな!あれは昨日端っこが破れてたのを風丸が見つけてくれたんだよ!」

「ちょっ!円堂……っ!!」

「そしたら風丸が縫ってくれるって言うから、預けてる!」

にっこりと良い笑顔で返された返事は、いわゆる惚気というやつで。


その惚気が、今、円堂の無駄にデカい声によってクラス中に響き渡ってしまった。
当の風丸はというと、さっきよりも真っ赤になっている。
さすが天然円堂、恐るべし…。



この2人が付き合っているというのは、俺が転校してきてすぐに周りのクラスメイトに教えられた。

「風丸さんに目付けても報われないぞ!」


転校初日にそう言われたのはまだ記憶に新しい。
それから俺はサッカー部で円堂と友達になり、一緒にいた風丸も普段のあの男らしい性格によって、まるで同性の友達のような感覚で一緒にいる時間が増えた。
たしかに風丸は、よく気がつく性格で面倒見が良い。
しかし、それは俺のタイプではない気がするのだ。…初恋もまだの俺が言えるようなことではないが。


そもそも俺は「恋」なんて当分はしないと思っている。
前の学校でも、転校してきてからも、何度か女子から告白というものをされたが、全て断った。

俺にはサッカーがある。
今はサッカーの事だけ考えていたいのだ。女子の事を考える余裕なんて今の俺にはない。
考えるなら妹の夕香だけで十分だ。

風丸にそう言ったら「シスコンか」と返されたが、今はそのシスコンとやらでも良いと思っている。





「………でな、どんな奴かなーって!」


……少し考え事をしている間に円堂は次の話題に移ったらしい。
風丸もいつもの冷静な表情に戻って、円堂の話に耳を傾けていた。
俺が円堂と風丸、2人の顔を交互に見ていると風丸が呆れたような声を出す。


「…豪炎寺、もしかして円堂の話、聞いてなかったのか?」

「あ、ああ……すまん」

「だか…「だからな!ウチのクラスに、転校生が来るって話!!」


風丸が言おうとした台詞が見事に円堂の台詞に被る。



……転校生、か。
俺自身が転校生だからなのか、自然と親近感が沸く。
目の前にいる円堂が「サッカー好きな奴だったらいいよな!」なんて言いながら風丸と話しているのを見ていると、鐘が鳴った。
いつの間にか、予鈴は鳴っていたらしい。時計を見ると朝のHRが始まる時間で、円堂と風丸は、慌てて自分の席へ帰って行った。


鐘が鳴り終わるのとほぼ同時にガラリと音を立てて開けられる扉。
「転校生が来る」という噂もあり、教室内が静まり、クラスの視線は自然と扉の方へ注目していた。
担任の久遠先生が入ると、早速いつもと同じような威圧的な声で話し始める。

「…既に知っている者もいるだろうが、今日はお前たちに転校生を紹介する」



そう短く告げられた後、先生の「入りなさい」という言葉に合わせて1人の女子が入ってくる。
転校生が入るなりざわつく教室内。
…正直に言おう。俺の心もかなりざわついていた。

……なんだ。なんなんだ、この気持ち。



「北海道の白恋高校から来ました、吹雪シロです。よろしく」

教室に入り教壇の前に立って、ペコリと丁寧にお辞儀をする彼女の髪は銀色で、少し動く度に揺れる外ハネが可愛らしかった。

1番後ろの席の俺にも見えるほどの長い睫毛を携え、タレ目がちな目元をふにゃりと細めて笑う彼女は、世間で言う「美少女」というやつで。

夏に全くもってそぐわない、氷の様に白く、透き通った肌は日焼けした俺にとっては不健康にも見えるほどだった。


未だにざわついている教室からは「マジでかわいい!」とか「胸でけぇ…」なんて聞こえてくるし、挙げ句の果てには「天使だ」と言う奴もいた。

さすがに天使は言い過ぎだろ…と再び彼女を見れば、バッチリ目が合って、優しく微笑まれる。



…………訂正しよう。
彼女は天使だ。間違いない。


頬に熱が集まるのを感じて、俺は今まで感じたことのない、感情に混乱していた。
いやいやいや、ついさっき俺は当分恋はしないって思ったばかりじゃないか。
俺にはサッカーがある……サッカーが………!
夕香もいる……夕香…!こんな駄目なお兄ちゃんを殴ってくれ……っっ!!


じりじりと蒸し暑く、汗の流れる頭を抱えていると、転校生の紹介が終わったらしく、先生の声が俺を現実へと引き戻した。

「吹雪、お前の席は豪炎寺の隣だ。豪炎寺、立ってくれ」

「…っ!…………はい」


あまりに突然の事に俺は汗を拭うのも忘れて、ガタリと席を立つ。
ゆっくりと俺の席まで来た彼女は間近で見ると本当に儚げで、優しい瞳が俺を捉えた。

「豪炎寺くん、よろしくね」


そうふにゃりと笑いながら挨拶されて、俺の中で何かが外れる音がする。
さっきまで心で思っていた、恋なんてしない宣言から約10分。

俺は今日、初恋というものに出会ってしまった。



恋とか愛とか何も知らない俺だが、一目見て、彼女を守りたいと思ったのだ。
……これが、「一目惚れ」というやつか。

「まずはお友達から」なんてよく聞くフレーズを心の中で唱え、逸る気持ちを抑える。
とにかく、授業が終わったら話し掛ける。そこからだ。






隣で静かに座る彼女に、これから振り回される事になるなんて、「初恋」という言葉に浮かされた俺に、考える余裕などある訳なかった。














end




豪炎寺くん一人称難しい/^q^\
ニセ豪炎寺ですみません。






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