ある夏の一コマ
「あ〜 しあわせだ〜」
お日さま園のとある一室。
ここは数ある部屋の中でもエアコンと冷蔵庫のあるミニキッチンが設備された、貴重な部屋だ。
そこでアイスを頬張る男が一人。
南雲晴矢である。
「クーラーをガンガンに効かせた部屋でアイスを食う幸せ!!俺、もうこの部屋から出たくねぇ…!」
「バーン、身体冷えるよー?」
「なんだよ、レーゼ。暑いんだからしょうがねぇだろ!」
「今日はこの夏一番の暑さになるらしいからね。 あとさ、その宇宙人ネームで呼ぶのそろそろやめたら?2人とも」
気温が高いという割に涼しそうな顔をしている基山ヒロト。
ちなみに、宇宙人ネームはグランである。
「なんつぅかさ、もうクセみたいなもんだよな、レーゼ?」
「だよねぇ、バーン?」
「はは、仲のよろしいことで」
クーラーの効いた部屋で雑談を交わしながら、南雲はソファーの上でアイスを頬張り、緑川は冷蔵庫の前で飲み物を取り出し、基山はその隣でガラスコップを両手に持っていた。
そう、何気ない日常の一コマだ。
バタンッ!!
そんなゆったりとした雰囲気を壊すように部屋の扉が開けられる。
「………風介?」
「……あつい」
南雲の声が部屋に響いたのと涼野が声を発したのはほぼ同時だった。
「暑い暑い暑いあついあついあついあついあつい…」
まるで何かに取り付かれたように呟く、ガゼルこと涼野に他の三人は若干引き気味である。
何処を見つめているのか分からない据わった瞳でズカズカと部屋にある冷蔵庫へ一直線に向かっていく。
「…なに?どうしたの?」
「…俺も何が何だか」
緑川と基山はお互い顔を見合わせ、おそらく自分達よりも涼野については詳しいであろう南雲の方を見る。
「…あー、あいつ暑さの限界値突破したらおかしくなんだよ」
まったく、と愚痴を零しながら南雲は棒アイスに残った最後のアイスを口に入れる。
「…………アイス」
「……は?」
「私のアイスはどこだ。今すぐアイスを食べないと溶けてしまいそうだ、あつい」
「語尾に『あつい』付けんな、余計に暑くなるだろ。 あと、アイスならさっき俺が食ったので最後…」
「! バーン!!ふーすけにそれは禁句…!!」
緑川が南雲に声を掛けた時にはすでに遅かった。
涼野は冷蔵庫へと向けていた身体を南雲の方へ向け、今度は南雲の座る、ソファーへまっすぐ近付いてくる。
「っ、悪かった風介!!俺がアイス買ってくるから……」
「…そういう問題じゃない」
口数少なく、南雲の方へ近付く涼野。
あーあ、と頭を抱える緑川に、ご愁傷様、と言って手を合わせる基山。
この二人にはこの後の展開が見えているようだった。
がばり。
「ぅぇっ!?ふ、風介!!?」
「五月蝿い、耳元でぎゃあぎゃあ叫ばないでくれないか?」
「だって、な、なんで急に抱き着いてきてんだよ馬鹿野郎!!」
髪の色と同じ色で頬を染める南雲は、じたばたとソファーの上で暴れるが、涼野がそれを許さない。
「私は暑いんだ。最後のアイスは貴様が食べてしまった。 この部屋で涼しくなれるものと言えば、最後のアイスを食べて冷え切った身体の貴様しかいないだろう?」
いかにも自分が正論を言っているかのように淡々と、それでいて妙に『最後のアイス』という語句を強調して涼野は言い放った。
そんな二人の様子を一部始終、半ば強制的に見てしまった基山と緑川は、この部屋を出るタイミングを完全に見失ってしまったようである。
「…俺達もあの二人みたいにやってみる?風介の言ってること、一理あるかも」
「な、なんでだよっ!?冗談言わないでよ、ヒロト!」
「そんな赤くなって反論しなくてもいいじゃないか。 それに俺は本気だよ? おいで、レーゼ」
「…………っ!!なんでその名前で呼ぶんだよ…」
「さっき、晴矢と呼び合いっこしてたからいいな、って思って……ちょっとした、ヤキモチ?」
「なにそれ。そんなことで…」
「俺にとっては『そんなこと』じゃないからね」
「……でも、オレ、グラン様よりヒロトの方が好きだから…」
「…一回だけでいいよ、呼んで?」
「………………グラン様…」
「よくできたね、レーゼ」
涼野が南雲で涼をとっている間、残された二人は二人で甘い雰囲気を作っていたなど知る者は、この部屋に誰もいなかった。
end
日記に上げる予定だった駄文がうっかり長くなって、こっちにあげちゃいました…
本当に駄文過ぎて申し訳ない…!><
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