花火大会、君と2人





今日は花火大会。


3日前に雷門町で花火大会があるらしい、とキャプテンの円堂から聞いたヒロトは意気揚々とオレを誘ってきた。

ヒロトって人込み嫌いそうなのに、こういうイベントにはすごく積極的なんだよね、昔から。
しかもヒロトは「浴衣で行こう」なんて言い出した。
花火大会に行くのはいいけど浴衣を着るのは面倒臭い!と言えば「浴衣で行けば雷々軒でラーメン無料になるらしいのになぁ」という残念そうな彼の声。







そういう訳で、オレは今浴衣を着ている。
け、決してラーメンに釣られた訳じゃない。
…まぁ、8割ほど惹かれたのは事実だけど。



だけど困った。

ヒロトと一緒に商店街を通ったのはいいけど、あまりの人の多さに河原に行く途中ではぐれてしまったのだ。
たしかに心細いけど、お互いもう子どもじゃないんだし、なんとなく河原に向かいながらヒロトを捜すことにする。
途中でもらったうちわで扇ぎながら左右を見渡していると…


不意に見えた特徴のある赤い髪。




…ヒロトだ。


赤い髪は人込みを外れて、神社のある草むらへの方へ歩いて行く。
…おかしいな、なんで河原の方じゃなくて神社の方に行ってるんだろ

花火を見る前にお参りしたいとか…?



うーーむ…
考えても仕方ないからオレはその赤い髪を追いかけることにした。






「おーい、ヒロトー!ひぃろぉとぉ!!」

…おかしいな。
確かにあの赤い髪はこっちに来たはずなのに。
暑さと焦りのせいで、汗がポタポタと垂れる。

……見間違い?
いやいや、そんなはずは、ない……はず。





…でも、ちょっと待って。
服装は、どうだった…?

ヒロトはオレと同じく、浴衣を着ていた。
あの時オレは赤い髪にばかり目がいって服装まで気には留めてなかった。
もし、あれがヒロトじゃなかったら…


…あの赤い髪をした人は誰なんだ…?





背筋がぞくりと寒くなる。
気がつくと辺りは真っ暗。
しかも神社の境内の片隅というこもあり人の気配もない。

…なんか、気味悪くなってきた。

早くヒロトを見つけて帰ろう。





そう思ったときだった。
背後でガサリと音がする。

「ひっ……!」

怖くない怖くない…!
オレは元ジェミニストームキャプテンだぞ!
幽霊なんか怖がってたまるか……!

そんなオレの思いとは裏腹に、目はしっかり閉じられていて。




「……っ緑川!」

聞こえてきたのは聞き慣れた彼の声。

「…へ?あれ、ひろと……?」


「…すごく、捜し、た……っ!」

そう言ったヒロトの肩は盛大に揺れていて、息も随分上がっていた。
普段の練習の後でもなかなか見ることのできないその姿に、内心びっくりする。


必死で探してくれてたんだ…
オレを。





「急に…いなく、なるから…っ、びっくりした、よ」

未だに息を整えきれていないヒロトが途切れ途切れに言葉を紡ぐ。


「う…ごめん。あんなに人が多いなんて思わなくて……。でもどうしてオレがここにいるって分かったんだ?」

「…それは、緑川じゃない緑川が教えてくれた、かな」

「……!やっぱり、ヒロトも会ったんだ…!」

「? 緑川、も……?」

「うん、ヒロトと同じ赤い髪を見かけて、ここまで来たんだよ!」


ヒロトも見たんだ…!
オレたちの姿をした、何かを。

それって、なんか…


「俺たちを巡り逢わせてくれたみたいだね」

「………!」



オレが目を見開くと、ちょうど花火が打ち上がり始めた。
どうやらこれから本日のメインイベントが始まるらしい。

「…河原まで行けなかったけど、ここ…花火よく見えるね」

ヒロトの言葉で初めて気付いた。
この神社、たしかに河原の近くだが、木が多い。一見、木々が邪魔で花火なんて見れないと思うのが普通だろう。
だけど、今オレたちがいる場所はちょうど木の葉がひらけていて、ぽっかり穴が開いている。
その穴からオレたちは花火を見ているのだ。


「意外と穴場だね、ここ」

俺達以外人いないし。と言葉を続けるヒロト。
当初の予定とかなり違うけど、意外な穴場を見つけることができて満足そうだ。


「…なんならさ、ここで花火、見る?」

オレのいきなりの提案に目の前の彼は目をこちらに向ける。

「…え、俺はいいけど緑川はいいの?夜店回れないよ??」

「オレそんなに食い意地張ってないし! それに、ヒロトだって人込みの中で花火見るよりこっちの方が静かに見れていいだろ?」


本当にヒロトが驚いた顔をするから少しむっとする。
失礼だな。オレだってヒロトに気くらい使うっての。

「…そうだね、せっかくこの穴場を教えてもらったし、ゆっくり見ようか……2人っきりで」

にっこりと、しかも最後の「2人っきり」を強調して言うから、確信犯だと分かっていても顔が赤くなるのを感じる。

「べ、別にそんなつもりで言ったんじゃ……!」

「照れなくてもいいんじゃない?ここには俺達しかいないんだから」


そう言ってニコニコ笑うヒロトにそっと肩を引き寄せられる。

オレたちが話をしている間に花火はとっくに始まっていて、夜空に大きな花を咲かせていた。




「帰りにさ、ここの神社お参りして帰ろうか」

「…あと、雷々軒に行くのも忘れるなよ」

「…ふふっ、やっぱり食い意地張ってるよ、緑川って」

「…そんなことないし」


非難の目をヒロトに向ければ彼は碧色の目を細めてオレを見る。


花火の明かりに照らされて笑うヒロトはやっぱりきれいでかっこよくて。

花火よりもヒロトから目が離せなくなってたなんて、本人には絶対言えそうにない。











end



夏っぽい基緑が書きたくてなんかぐだぐだと書いてしまった…!
お粗末さまでした!><








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