ベタ惚れなんです



新婚南倉♀







結婚したら、きっと喧嘩は絶えないだろうけど楽しいんだろうな。


いつだったか、倉間と付き合っていた頃そんな話をしたことがある。
我ながらなかなか恥ずかしいことを口走ったものだが、実際結婚してみると正にその通りというかそれ以上というか。
俺の奥さん、めっちゃ可愛いです。







「…………あのー、また失敗したんすけど」

俺の目の前に差し出されたお皿の上には卵の殻が所々にちりばめられた目玉焼き。
そして、ぶすっと仏頂面してこちらを見つめる片目。もう片方は前髪で隠れてしまって見えないが、恐らく隠された目も俺を見据えているだろう。

結婚してから料理の苦手なあいつの為に家事は分担制にした。
だけど、いくら料理が苦手だからといってもやらなければ上達しない。
俺はまぁまぁ料理できるから1週間の殆どの料理を担当してるんだけど、水曜日の朝と土曜日の夜だけはあいつに任せてある。


そして今日がその水曜日の朝な訳だが。


「………うん。とりあえずお前は卵をきちんと割ろうな?」

「…だって、卵割るの、…あれ難しいし……」

殻がまんべんなく散っている目玉焼きを見ながら申し訳なそうに言う目の前の人物は口を尖らせていて非常にかわいい。
まぁ本人は今、料理の基本とも言える目玉焼きを失敗してそれどころじゃなさそうだけど。
だから俺は苦笑いをしつつ、そっと後ろへ回って俺の両手をあいつの両手に添える。


「この前、俺お前に卵の割り方教えただろ…?」

「……え、…あぁ、はい…。…って、ちょ……あの!」

「なぁんで出来ないかなぁ…?」

がばりと小柄な嫁を抱き込むようにして後ろから手を握り、卵の割り方をレクチャーしたら何故か俯いてしまった。
これじゃ手元を全く見れていないではないか。


「……なぁ?見てんのか??お前のためにやってんだから下向いてちゃ分かんねぇぞ…?」

「………っ、……んが、…ぎ、……るん、…すよ!!」

「……へ?なんだって?よく聞こえねぇんだけど」

「…み、南沢さんが近すぎるんですよっっ!!」



絞りだすようにして出された彼女の声が静かなリビングを響かせた。そして勢いよく上げられたその顔は真っ赤に染め上げられていて……。


「………なに?照れてんの??」

「うっ、うるさい!ニヤニヤすんな!!南沢さんのばーか!」


俺の腕の中にすっぽり収まって、さらには顔を真っ赤にした彼女はぎゃんぎゃんと喚いているが、そんなの怖くも何ともない。
むしろ、それが可愛いっていうか、面白いと感じてしまう。
今まで散々手を繋ぐことより恥ずかしいことをたくさんしてきたというのに、不意打ちに弱いのだ、こいつは。
とにかく見ていて飽きないので、俺は毎日密かに楽しませてもらっている。



「もうやだ!南沢さんこっち来んな!!」

「…そう言われると近づきたくなるんだけど」

「そういうの天邪鬼っていうんですよ」


そう言いながら、するすると俺の腕の中から抜け出そうとするので俺は腕を掴んで引き戻し、ゆっくりと近づく。そして彼女が失念しているであろう一言を言うために口を開いた。


「さっきからお前、『南沢さん』って言ってるけどなぁ…、お前も『南沢さん』だってこと忘れてるだろ」

「………っ!」



俺もつい癖で「倉間」と呼んでしまうが、こいつの方が圧倒的に俺のこと「南沢さん」と呼ぶことが多い。
結婚したんだし、いい加減下の名前でちゃんと呼んで欲しいんだけど…。


……あ、そうだ。
良い事思いついた。




「のーりちゃん♪」

「…なんスか急に。気持ち悪いです南沢さ……っん!?」


さっきから忙しなく動いている小さな口を自分の口で塞いでやる。
ついでに開きかけた唇の隙間から舌を挿入してぐるりと掻き回す。いつもより少し時間をかけて口付ければ腕の中の彼女はすぐに力を無くしてくったりと俺にもたれかかってきた。


「……っは、な…なにす…っ!」

真っ赤になりながら息を切らせてこちらを見上げる嫁を見て、柄にもなく「結婚して良かった」と思ってしまうあたり俺はもう末期だと思う。


「これから俺のこと『南沢さん』って呼ぶ度にキス1回な?」

「…え、……ん…?…………は、はぁっ!?」



俺の言葉を理解しかねて、訳が分からないと言いたげな顔をしていた彼女だったが、意味が分かった途端、一気に顔を朱に染めた。


「なにそれ!だって、南沢さんの名字は南沢さ………んんっ!!!」

「……………はーい、今2回言ったな?キス2回〜!」

「もうさっき1回しただろ!いきなりなんなんだよ!…つーか、意味分かんない!」

湯気が出そうなくらい真っ赤なその顔は果たして怒っているのか照れているのか。恐らく両方だろう。
俺は「はいはい」と返事をしながら頭を撫でて、今度は頬にキスをした。
唇を離す際、軽く音を鳴らしてやれば少し不満げな彼女の顔と鉢合わせる。

「……どうした?」

「…あ、いや……。あの、…そのキスって頬っぺたでも1回…、になるんす、か………」


俯きながら、語尾が消え入りそうになりつつも懸命に尋ねるその姿に一瞬呆気にとられたが、本人にとっては重大問題なのだろう。うっすら目に涙を溜めているようにも見える。
俺の気まぐれでキスをする場所を変えただけなのに、こいつはそれが気に入らなかったらしい。
ほんと、可愛いやつ。



「あー…はいはい、分かったよ。ちゃんと、唇にしてやるから機嫌直せって」

「かっ、勘違いしないでくださ……っ!!」




こうして俺はまた彼女の唇を塞ぐのだ。







end

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随分前についったで呟いてた妄想を文にしてみました〜
倉間が料理へったくそだと萌えます///










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