ああ、雨に感謝!
真っ黒の雲を見上げて、一言。
「……雨、降りそうだな」
現在午後5時半すぎ。
テスト週間で部活のない俺は、3年生で受験生ということもあり学校に居残って勉強した後、家へ帰るところである。
もう一度空を見上げるといつもより大分雲の流れも早くて、天候が変わり始めているのを顕著に表していた。
―…早く家に帰らなければ。
朝見た天気予報では降水確率もそんなに高くなかったから傘なんて持っていない。
くそ、にわか雨に降られるなんて御免だ。なんとか雨が降る前に自宅に到着したい。
もし雨に濡れたら体拭いたり風呂に入ったりするの面倒くさいし。第一、勉強する時間減るし。
歩くスピードを少し上げて、足早に道を歩く。
西の方の空でゴロゴロと雷の音が聞こえて、いよいよ降りだすのではないかと内心ヒヤリとする。
「……頼むからもう少し待ってくれよ…!」
よく見たら周囲の人々もこれから一気に降るであろうにわか雨に備えて店の中に入ったり、足早に歩いたりしていた。
俺が今歩いているところは、雷門中学校に程よく近い商店街。
商店街と言ってもアーケードとかあるようなそんな立派なものではなくて、商店が所狭しと並んでいる道路、と言った方が正しいのかもしれない。
まぁ、とにかく俺はその道をずんずん歩いている訳だが。
―――…ポツ、…ポツ。
……ついに来やがった。
上空から不規則に落ちてくる水滴に舌打ちしつつ、雨足が強くならない内に…と何処か雨宿りできそうな場所を探す。
早くしないと雨は強くなる一方で、近くにあった店の屋根の下に一時避難することにした。
「雨が降るまでに帰るのはやっぱり無理だったか」なんて心の中で呟いて、すっかり強く振り出してしまった雨を睨む。
実は家まであと5分くらい歩かなければならないのだが、走れば3分くらいで到着できそうだ。
そんなことを考えながら最早本降りとなった雨を見続けていたとき、隣でパシャパシャと足音が聞こえた。…かと思ったら急に聞き覚えのある声が。
「…あっれ、南沢さん??」
横を向くと見知った…むしろ毎日見飽きるほど見ている顔があった。
「………倉間か」
「……なんすか、その残念そうな顔は」
「別に残念そうな顔なんかしてねーよ。…ってかお前、びしょ濡れじゃん」
「だっていきなり雨が降ってくるから!俺傘持ってねーのに!!」
いつもふんわりとした毛玉のような水色の髪の毛は雨のせいでしっとりと濡れており、ぺたりとしている。
それがなんだか堪らなく可愛く見えてしまった自分にムカついて、腹いせに倉間の髪の毛をぐしゃぐしゃにしたら怒られた。
「…ちょ、何してんですか!ったく、髪ボサボサになったし!」
「………」
口を尖らせて髪を直す倉間にまたもときめいてしまった。
………俺はどうかしているのだろうか。
後輩の、しかも男に胸をときめかせているなんて。まぁ、倉間は普通の男よりもちいさくて可愛い方だと思うが。
……いや、可愛いってなんだ俺。
「あー…、その、なんだ。倉間、お前俺ん家寄ってくか?」
「………え、なんで?」
「いや、そのままだと風邪引くだろ?服も貸してやる」
「………………」
目を見開いて俺を見る倉間を不審に思って「なんだよ」と言えば慌てて目を逸らされた。
……なんか傷つくな、その反応。
倉間をじっと見つめて目を逸らした理由を無言で問い詰めれば観念したように倉間はぼそりと呟いた。
「………いや、なんか、南沢さんって、そうやって女子を自宅に誘うんだな…って思って」
「…………は、」
恥ずかしそうに目線をずらして言う倉間がなんていうか、…可愛かった。
同じ男だけど、これはもう可愛いと認めざるを得ないだろう。
俺も恥ずかしくなって頬がだんだん熱くなるのを感じ、慌てて大雨に向き直った。そして倉間のおでこにデコピンを一発。
「…馬鹿なこと言ってんじゃねーよ。お前は俺ん家来るの来ねぇの、どっち?」
「……行くっ!」
満面の笑みで即答する倉間にこちらも笑顔を返して、大雨の中に飛び込む。
倉間が付いてきたのを確認して俺たちはカバンを抱えてびしょ濡れになりながら全力疾走したのであった。
「俺の家……お前じゃなきゃ誘ってねーよ!!」
走りながら叫んでみたけれど、どうやら雨の音に掻き消されて倉間の耳にまで届かなかったらしい。
end
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今まで南倉はにょたばっかりでしたがやっと普通の(?)南倉書けました。
これ本当はみなくらるに上げる予定だったけど長くなりすぎたのでこっちに収納!
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