欲望は密やかに育つ






「よし、今日の練習はここまで」

久遠監督の一声と共に、「ありがとうございました!」という複数人の声。



夕日が傾くと同時に、今日も世界へ向けての練習が終わりを告げる。
先日、アジア予選を優勝したオレたちイナズマジャパンは次なる目標――…世界一を目指して猛特訓中だ。


そろりとオレの右斜め前に立つ赤い髪した男を盗み見る。
うなじから垂れる汗もなんだか様になっているのはヒロトが所謂イケメンというやつだからだろうか。
いや、それよりも髪の毛が汗ばんだ首に張りついて相当エロい。
思わず頬が熱くなるのを感じて急いで目を反らした。


あーー…変な事考えたかも、オレ。




監督が明日の練習の予定を言っていたみたいだが残念ながらオレは頬の熱を冷ますのに必死で全然聞けてなかった。
…くそー、ヒロトの所為だ。



漸く頬の熱が引いた頃、監督が「解散」と短く言い放つ。
その言葉を合図にみんなバラバラと散らばった。






* * *


ここ最近―…、いや、もうずっとなのかもしれないけど、気付いたらヒロトのことを目で追っている自分に気が付いた。

……あ、ヒロトがマネージャーの荷物持ってあげてる…。
そういうさりげない優しさに女の子は弱いんだよなぁ。
………まぁ、オレも女子じゃないけどそういうのに弱い1人だし。


でもあの荷物の量はいただけない。
明らかに無理な量を抱え込もうとするヒロトに、つい近づいて声を掛けた。



「ヒロト!ドリンクとボールと洗濯物を1人で一度に運ぶのは無理があると思う!!」

「……あれ、緑川」


大方マネージャーには上手いこと言って1人で運ぶよう仕向けたんだろ?
そうやってヒロトはいつも1人でなんとかしようとするんだから。

なんだか段々ヒロトの保護者のようになってきた自分の思考を振り切って、再び声を掛ける。




「…ほら、オレも手伝うから!その洗濯物の山、貸して!」

「……あ、うん。じゃあ、これもお願い」


そう言ってヒロトはタオルをオレに渡すとくるりと前に向き直って歩き始めてしまった。
オレは手渡されたタオルをじっと見つめる。
恐らく練習中にヒロトが使ったであろう、ヒロトの汗が染み込んだ、タオル。



………あ、いやいや。
変な意味じゃないぞ、決して。

…………うん、変な意味じゃ…、ない、はず。



けれども、手渡されたタオルを駄目だと思いつつそっと口元へと運ぶ。

幸いヒロトは少し前を歩いているのでこちらを振り向かない限り、オレの行動に気付くことはないだろう。



すん、とタオルの匂いを嗅げば柔らかい感触と共に持ち主の――…ヒロトの汗の匂いが鼻の穴を通っていった。
胸がドキドキと脈打って、さっき斜め後ろから見ていたヒロトのうなじと肌に張り付いた赤い髪の毛を思い出す。



「…………ごめんね、ヒロト」


小さく呟いた謝罪の言葉は口元をタオルで覆っていたせいでヒロトへと届くことはなかった。








ヒロトが全部、全部、欲しいだなんて。オレって我が儘なのかな?

だって、好きなんだからしょうがないじゃないか。







――――――――――

2011/8/13 ←基緑の日おめでとうー(^O^)
とてもじゃないけど祝っているとは思えない文でごめんなさい(^o^;
基山のことが好きすぎる緑川。





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