あの子の弱点



浜速♀+南倉♀







「はい、今日はここまで」

教卓の前に立つ教師の声と共に、お昼を告げる鐘が校内に響く。
空腹のお腹をさすりながら俺はいつも一緒にお昼を食べているメンバーの元へと近づいた。


「腹減った〜!」

「浜野!お前あたしの席までお腹の音聞こえてたんだけど!!」

開口一番、空腹を訴えたらショートカットで片目を隠した色黒系女子、倉間に怒られた。

「ちぇー…、腹減ってたんだからしょうがないじゃんか〜。育ち盛りだからすぐにお腹減るんだよ〜」


…まぁ、この倉間はいつも一緒に昼ご飯食べるメンバーの1人な訳で。
ズバズバ言うし、喧嘩腰だけど思ったことを素直に言ってくれる良い奴だ。ツッコミの腕もなかなかだし。


「……あのー、…早くお昼食べないと時間、なくなりますよ?」

俺と倉間が話していると、痺れを切らしたかのように、控えめに話し掛けられる。
そう、このツインテで眼鏡っ娘なネガティブ系女子が、俺の彼女の速水である。
ちなみに、俺はネガティブな速水もまるっと好きである。


「はやみーーー!!!」

「…なっ!なんですか!!ほら、早くご飯食べましょ!!これ、浜野くんのお弁当!」

「わーい!あんがとー」

「…相変わらず愛妻弁当作ってんだな……」

「あ、愛妻弁当…!?ちっ違いますよ!私はただ浜野くんがご飯の量が足らないって言うから追加で作ってるだけでそんな私のお弁当をメインにして食べるなんてあり得ないですよ!!!」



目の前で両手をぶんぶんと振って、訳の分からない事を言いながら顔を真っ赤にさせてる速水は最高に可愛い…。
ぼんやり見てたら倉間に「鼻の下伸びてる」って言われておでこを叩かれた。

「痛ってぇ〜…」


まったく、突っ込むのは良いけど不意打ちは勘弁して欲しいよな。
未だ痛みの残る鼻を擦りながら、俺は仕返しにある名案を思い付く。

机をくっつけて昼食を食べる準備万端の速水には悪いが、もう少し待ってもらおう。



「あー、もうこんな時間!あたし先輩のとこ行かなきゃいけないのに!!浜野のばか!」

急いでお弁当の包みを解いて、いただきますをする倉間の腕を掴み、ちょっとばかし引き寄せる。
そんで、倉間の耳元で思いっきり息を吹き掛けた。


「………っ、ぎゃあ!何してんの!!?」

「……………あっれー?」

「何だよ!いきなり耳に息吹き掛けられてなんでそんな残念そうな顔されなきゃなんないんだよ!!!」


右の耳を押さえながらぎゃんぎゃんと喚く倉間はびっくりするくらいいつも通りで、全く面白くない。
俺の予想としては「ひゃあっ!」とか、らしくない声を出して恥ずかしがる倉間をからかってやろうと思ったのだけれど。


「……うーん、なんつーか、倉間って、耳弱くないの?」

「…はぁ?耳??別に普通だけど?」

「え〜!そうなんか〜!!がっかり!!!」

「全く…、何やってるんですか!早くご飯食べましょうよ!倉間は南沢先輩と約束あるんでしょう??」


俺と倉間とのやり取りを一部始終見ていた速水はなんだか機嫌が悪そうだ。

…………あ。
…もしかして、妬いたんかな?


そう思うと急に愛しく思えてきて、仏頂面で卵焼きを頬張る速水に視線を向けた。

「なぁなぁ、速水!ちょい耳貸して!!」

「……?もう、何ですか??」


そう言って、何の疑いもなく耳を貸す速水に内心ガッツポーズをしながら、内緒話をする時のように両手で筒を作る。

…速水ってほんと素直だからさぁ。全っ然、警戒心持たないんだよな。
俺に警戒心持たないのは良いとして、他の男にも警戒心持たないっちゅーのは彼氏の俺としては納得いかないんだけど。


そんな訳で、もちろん俺は速水の耳元でもふーっ、と息を吹き掛けた。



「……っふ、ひゃぁ!!」

「…な?耳弱いとこんな可愛い反応見せてくれるんよ」

まるでバスガイドが「右手を御覧ください」とでも言うように、速水を指せば赤面した涙目の速水にキッと睨まれた。
そんな顔で睨まれても怖くないっちゅーの。


「…な、なにするんですかぁ!!!ふざけるのも大概にしてください!!」

「だぁって、さっき倉間にやったことお前も見てただろ〜?そりゃ速水にもやるっきゃないっしょ♪」


俺的に満面の笑みを向けると、速水はうっ、と言葉を詰まらせて頬をまた少し赤くした。
あり?俺なんかしたっけ??



「もー、お前らの痴話喧嘩にあたしを巻き込まないでよね!……ごちそうさま!!」

「…すいません、倉間」

「いーよいーよ、殆どこの浜野っていうバカのせいだし。先輩との約束ってのも英語の辞書借りに行くだけだし」

「むー…、バカっちゅーのは聞き捨てならんけど。……でも、ほんと倉間って弱い部分ないの?」

「……はぁ?何でわざわざ自分の弱いところを浜野に教えなくちゃなんないんだよ!教えるわけ……」

「「………あ、」」


俺と速水が倉間の背後を見て同時に声を上げる。
不思議に思った倉間が振り返る前に、その後ろの人物が口を開く。


「お前、確かここ弱かったよな?」

「……えっ、……ひっ…!ひゃあああああ!!?」


倉間の後ろの人物…、南沢先輩は倉間のわき腹に人差し指を当てると胸の方に向かってつつーっと、なぞっていた。

「…えっ!?ちょ、何……?…み、なみさわ…先輩??」

「お前、辞書取りに来るの遅すぎ。俺がどんだけ待ったと思ってんだよ」

「…だって、それは浜野が!!!」


すごい勢いで俺を指差す倉間の顔は、今まで見たことがないくらい真っ赤で面白かった。
隣の速水も驚きの表情で「ほわ〜〜」とか言っている。


「なるほど倉間の弱いとこって、そこか〜!」

「ば、ばか浜野!違うからな!!全然ちが………ひっ!ひぁぁぁ…っ!!」

「何が違うって?……ん??」


ニコニコとその辺の女子が見たら卒倒しそうな笑みで南沢先輩は倉間の弱い部分を付いてゆく。

うっわぁ…!南沢先輩、倉間がなかなか来なかったこと結構怒ってるんじゃね?
ほんのちょっとだけど、倉間に悪いことしたなぁ…なんて反省する。
けどお陰で倉間の弱いとこ分かったし、結果オーライってことかな。


………って、あれ?




……もしかして、俺たち邪魔者ってやつなんかな?

滅多に読まない空気を読んで、俺は今度こそ速水の耳元でこそりと囁く。


「……なぁなぁ、速水。きっとさ、倉間は南沢先輩とゆっくりしたいだろうし、俺らは中庭で昼飯食べる??」

「いいですけど……、もうあんまり時間ないですよ?」

「だーいじょうぶだって!」



こうして俺と速水は、南沢先輩に目配せして、そっと教室を後にした。







end

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にょたに飢えてやらかしましたすみません…!
浜速も南倉大好きですー(^O^)





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