※学パロ、同い年設定。







朝起きて着替えて、寝起きの悪い彼を起こして着替えさせ、朝食を食べて、登校する。


ここまではいつもと同じ、日常だった。






緑川の様子がおかしくなったのは、下駄箱の扉を開けた時から。
同じクラスなので、まぁ目の届く範囲に彼がいたのだが、いつもはさっさと靴を脱いで上靴を履く彼が、今日だけは下駄箱の扉を開けたまま一瞬固まり、その後勢いよく扉を閉めた。

朝のざわざわとした音の中に「バタン」と靴箱の扉を閉める音が混ざる。


「……どうしたの、緑川」


明らかに様子のおかしい緑川に尋ねてみたけど、「なんでもない」と言って突っぱねられてしまった。
でも、緑川の様子を見る限り、なんでもない訳がない。よく見ると、僅かに赤い頬。
確実に靴箱の中に何かが入っていたのは明らかで、また他人が靴箱に入れるものと言えば恋文くらいしか思いつかない。2月ならばチョコの線も考えられるが生憎今は6月だ。季節外れにも程がある。


「……何が入ってたの?」

俺が少し低い声で質問すると、緑川はビクッと肩を震わせる。
だって、気になるじゃないか。
自分の想い人が俺以外の誰かによって、顔を赤らめているなんて。
だけど恋人でも何でもない、ただの友達という関係上、俺が緑川のことにこれ以上首を突っ込んでもいいものか。


「…ほ、本当になんでもないんだって!オレ用事思い出したからさ、先に行っててよ!」

慌てる緑川にこう言われて、俺はますます気分が悪くなって眉間にシワを寄せた。
心の中では、自分の想いを緑川に押しつけちゃ駄目だと分かっているのに、やはり本人を目の前にすると制御できないらしい。

気付くと俺は、緑川の腕を引っ張っていた。



「………え?ちょ、…ヒロト……?」

「…ちゃんと、教えてよ」

「え……あ、う……」


生憎、短い付き合いではないため俺の表情を見て彼も何を言うべきか分かったようだ。だけど、それを俺に言い淀んでいるのは、その事を俺に言ったところで何の解決にもならないと思っているからかもしれない。
それでも、俺には言って欲しかった。我儘で自分勝手かもしれないけど、そうでもしないと自分の想いを伝えてしまいそうだったから。


「…………手紙が、…入ってた」

漸く緑川も靴を履き替えて、下駄箱に入っていたであろうその手紙を見せながら、消え入りそうな声で言った。


「……やっぱり」

「…?やっぱり、…って?」

「下駄箱開けた瞬間緑川の表情が固まってたから。手紙でも入ってたのかなー、と思って」

「…え、えええっ!?バレてたのっっ!!?」

「…バレてないとでも思ってたの?」


教室に向かって歩きながらさっきまでの気まずさなんてなかったかのように会話する。
あんな露骨な態度をとっておきながら俺に気付かれてないと思ってたのか、緑川は…。


「…いや、でも何かの罰ゲームかもしれないし!……前もさ、隣のクラスの男子から告白されたことあって!あれは本当に罰ゲーム…かと……」

「………緑川。ちょっとそのことについて詳しく教えてくれないかな?隣のクラスの……誰?」


俺はにっこり笑って、なるべく穏やかに質問したつもりだったんだけど、緑川はサァっと顔を青くした。
さすが、緑川も俺のことよく分かってる。……いや、一応笑ってはいるけど不機嫌オーラでも出てたかな?

まぁいいや、しょうがない。
だって緑川が男から告白されたなんて冗談で済ましていいもんじゃないよ…?
まったく…この子は自分に対しての危機感がまるでないから、いつも俺の気苦労が絶えない。



「…ちょ、ちょっと名前までは教えらんないかなー…。その、プライバシーの保護ってやつ…?」

「そんな奴のプライバシーなんて知るか」

「ええっ!?」


緑川の驚く声が教室へと続く廊下に響く。
プライバシーだなんて大げさだな…。俺はただ名前さえ教えてもらえれば、あとは二度と緑川に近づかないようにするだけだし。

「……とにかく、緑川は意外とモテるってこと、忘れないで」

「………その言葉、そっくりそのままヒロトに返す。オレなんかよりヒロトの方がずっとモテるくせに!」


少しムキになって緑川が答える。
手紙を貰ったのは緑川のはずなのに、なんで俺がモテるとかの話になっているんだろう…?



「…そもそも!これはオレ自身の問題なの!!モッテモテのヒロトには関係ないですよーだ!!」


イーッとかわいらしい口を横に広げて、緑川が言うのを聞いてさすがに俺もぷつりと糸が切れた。


たどり着いた教室の扉に緑川を押し付けて、耳元に触れそうなところまで唇を持っていく。
周りに同じクラスの奴がいるけど気にしない。後で上手く誤魔化せばいいや。

そんなことよりも大事なことを、この目の前の子に教えておかなければならない。



「緑川…今、俺は関係ない……って言ったよね?」

「……は、はひ…!な、なんか…怒ってる?……ヒロト…??」


お調子者で意地っ張りで、コロコロと変わるその表情。
そんな、見ていても全然飽きないお前を




ほっとけるワケないだろ

「いつまでも野放しにさせるつもりはないから」

「…………は?…ヒ、…ロト…??」

「…はぁ。鈍感なお前はいつ気付いてくれるんだろう」

「…?意味が分かんないんだけど……??…ってか、耳元で溜め息吐くのやめろよな!!くすぐったい!!!」











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