恋も悩みも十人十色



※蘭拓百合+南七♀






眠気を誘う、うららかな午後、学校全体に響き渡るチャイムの音。
このチャイムが、睡魔と戦い続けた5時間目の終了を知らせた。







「…っあー、眠かった〜!5時間目の英語なんて寝ちゃうに決まってるじゃん!!」

「霧野は英語じゃなくても5時間目は問答無用で寝てるでしょ?」


担当教師が教室を出ていったのを見計らって、鮮やかな桃色の髪をした女子がくるりと向きを変えて、後ろの席の女子に話し掛けた。
話し掛けられた、髪にウェーブがかった子は特に動じる事無く、まるでそれがいつものことであるかのように返答する。


彼女たちの名前は霧野と神堂。
本人たちには全く興味も自覚も無いが、このクラスで1、2を争う美少女である。
ちなみに、桃色の髪の持ち主が霧野、髪がウェーブしているのが神堂だ。



「あの先生、ずっと説明ばっかりなんだもん!!リスニングとかもう子守唄にしか聞こえなかったし!!」

「…私も、あそこは眠かったかも……」


2人が何でもない雑談を交わしていた時である。霧野が急に、教室の入り口に目を向けて「あっ」と声を上げた。
つられて神堂も目を向ける。

2人が目を向けた先には、ショートカットの少し小柄な少女。
彼女もまた、同じクラスメイトでである。


「一乃だ…」

「…?なんか、元気がない気がする…」



彼女の表情からなんとなく違和感を感じた神堂はそっと霧野に耳打ちした。
そんな神堂の鋭い洞察力に感心しながら、霧野は持ち前の人懐っこい声で一乃に声を掛けた。


「おーい、一乃!どしたの?」

「……あ、…霧野、……と、神堂…」



明らかに様子のおかしい一乃に、神堂の眉間にシワが刻まれる。


「こーら、神堂。そんな露骨に態度に出さないの!一乃に感付かれるよ?」

「……あ、そうか」



霧野にこっそり言われて、神堂は慌てて表情を戻す。知らず知らずの内に思っていることが顔に出てしまう神堂にとって、いつもさりげなくそれを教えてくれる霧野の存在はとてもありがたかった。

そんな2人の会話など露知らず、しょんぼりしたままの一乃は静かに近づいて開口一番、こう言った。



「………やっぱり男は胸大きい方が好きだよね」

「…………」

「…………」



一乃の小さな口から放たれた言葉は、しっかりと神堂と霧野の耳へと届いたが、いつも真面目な一乃がこんな事をいうなんて明らかにおかしい、と2人は考えた。思わず漏れた霧野の声にも動揺の色が窺える。


「…………胸?」

「何かあったのか?一乃…悩みがあるなら相談にのるけど…」

「……はっ!もしかして、南沢先輩……!?」



霧野が「南沢先輩」という言葉を出した瞬間、揺れる一乃の肩。
一乃たちより1つ上の学年で、サッカー部のエースストライカー。成績も中々のもので、校内で南沢を知らない者はいなかった。
ちなみに、南沢は一乃の彼氏である。




未だにしゅん…としている一乃は事の成り行きを、やっとぽつりぽつりと話し始めた。


「…さっき、南沢先輩のクラスに、英語の辞書返しに行ったら、…なんか、知らない女の人と…話してて………!」

「……その人の胸が、大きかった…と??」

「……………うん」



鼻をすすりながら、涙声で話す一乃に堪えきれずに霧野が口を挟むと、彼女は目に溜まった涙をポロポロと溢れさせて頷いた。


「………一乃…」

「…神堂、は……どうして、そんな胸……おっきいの……?」

神堂がそっと声を掛けて慰めようとしたのだが、一乃の意識は完全に胸のことでいっぱいであり、今度は声を掛けた神堂に矛先が向いてしまった。


「……へっ!?ど、どうして…って……!??」

一乃の突然の質問に驚いた神堂だったが、この後に続く霧野の発言に、もっと焦ることになる。


「まぁ…神堂の胸はあたしが育てたようなもんだしね!!!」

「……っちょ!霧野!!!」



「何言ってんの!?」と顔を真っ赤にして怒る神堂を宥めながら、霧野は上機嫌だ。さらにどさくさに紛れて、神堂の豊満とも言える胸を揉もうとしている。
そんな様子を見た一乃は、ますます落ち込むばかり。本格的にいじけモードに突入してしまった。


「……神堂と霧野は、仲が良くていいね…」

「一乃だって十分南沢先輩と仲良いと思うけど?」

「……う、ひゃあ!?き、ききき霧野!!!どこ触ってんだ!!!!!」

霧野は相変わらず神堂にくっついたまま、目の前の一乃に言い放つ。


「そもそも南沢先輩は胸の大きさうんぬんより、質を大切にするタイプだと思うんだけどなー…まぁ、あたしは神堂くらいの大きさが好みだけどー」


そう言って再び神堂に襲い掛かろうとする霧野に一乃はため息をついて、自分の席に戻ろうとした。


……が、その時教室の扉がガラリと勢いよく開け放たれた。そして一乃にとって知りすぎた声が教室に響いた。



「…一乃 なな、いるか?」

騒めいた教室が静まり返り、また再び騒めきだす。
その騒めきの中に聞こえる声にはあの南沢先輩がうちのクラスにやってくるなんて珍しい、とか一乃だけ呼ばれるとかずるい…だとか、驚きや嫉妬心の声も含まれていた。


「…みっ、南沢せんぱ」

「あっ!なな、お前さっきの絶対誤解してるだろ!!」


突然現れた南沢に驚きのあまり一歩後ずさる一乃。
そんなことなんてお構いなしにズカズカと教室内に入ってきた南沢はすぐに一乃の前へとたどり着く。
そして、一乃に向かって再び声を掛けようとした時だ。
南沢の頭一つ分下から声がした。


「南沢先輩ですか?一乃を傷つけたのは」

「……え、神堂?」


南沢が下を向くと頬を膨らませて涙目の神堂と目が合った。
隣には霧野の姿も見受けられる。


「一乃は私たちの大切な友達です。一乃を傷つける奴は、たとえ彼氏の南沢先輩でも許しません!!」

「………おいおい、なな。こいつらに言っちゃったのか?だから、誤解だって…」


南沢が弁解を試みようとするが、神堂の腕にしがみついていた霧野までもが呆れたような、軽蔑したような目を向けている。



「…あたし、南沢先輩は大きさよりも質だと思っていたのに……残念です」

「……な、何の話だ?」

「もちろん胸の話ですよ。あの真面目な一乃が今日は胸のことばっかり気にしてるんです」

「…ちっ、そういうことかよ」


漸く全ての現状を把握した南沢は苦虫を潰したような顔をして頭をガリガリと掻いた。
これ以上霧野たちの相手をしていたら一乃の不信感がますます募るだけだと判断した南沢は、改めて一乃に向き直る。
そして意を決したかのように、口を開いた。


「…なな、1回しか言わないからよく聞けよ?俺はな、デカい胸なんかに興味はねーよ。確かに胸は質も大事だが感度も良くないと駄目だ。だから、俺はお前の胸が1番好きだぜ?」



言っている内容が内容だけに、さすがの南沢も羞恥が最高潮に達しているようで、顔が少し赤くなっている。

それに反比例するかのように霧野と神堂の表情は若干軽蔑をも含む、厳しいものへと変わっていった。



……が、しかし。その中で顔を輝かせている者が約1名。
一乃だ。


「…南沢先輩、私のコンプレックスまで好きになってくださってたなんて………!…嬉しい……」



一乃は両手を祈るように絡め、尊敬しているかのような顔つきで南沢を見つめていた。
南沢はと言うと、照れ臭そうに頬を掻いて「当たり前だろ」なんて言っている。

バカップルな南沢と一乃から完全に置いてきぼりをくらった霧野と神堂。




2人の頭の中にはきっと、『夫婦喧嘩は犬も食わない』なんていう諺が浮かんでいるに違いない。








end

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好き勝手に書いたら意外と長くなってしまって収拾つかなくなりました\(^O^)/
結局、書きたかったのはきょぬー好きな霧野さんと大きさより質とか感度を大切にする南沢先輩。






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