いない、いないいないいないいない。 どこにも、いない。 「ペンギン?どうかしたのかー?」 キャスケットが話しかけてくるが、答える余裕もない。ただ愛しい我が船長がいないという事実に驚愕しつつも、焦るばかり。海に落ちた、なんてバカなことはしないだろうが時々自ら身を投げ捨てるような人だ。気付かない内に、なんてあるかもしれない。 元より、あまり生に執着のない人だから。 「ペンギン?」 「船長を探せ…」 「は?」 「今すぐに探し出せ!」 いつもより切羽詰まった顔をしているおれにキャスケットは驚いたような表情をする。ああもう、本当にあの人は船員を心配させることに関しては超一流だ。自分が心配させられたら怒るくせに、自分は心配かけてもへらへらと笑っている。どれだけ、心配したかなんか知らずに。 「何処にもいねーの?」 「いたら探せなんて言っていない!」 「りょ、りょうかいぃぃ!」 しまった、八つ当たりしてしまった。 なんでこんなに心配しないといけないんだ。唯我独尊天上天下、神出鬼没で自己中心的。そこだけ見たら尊敬できる部分など皆無に等しいのにどうして、ここまで尊敬してる…というより愛さずにはいれないのだろうか。なんて言ったらきっと船長は自信満々な顔して「そりゃおれだからだろ」と言うに決まってる。 船員が慌ただしく駆け回る。最後に見たのはいつだったか、なんて聞いて回っても朝飯の時に…で皆とまる。朝は基本食べないから、おれがいつも引っ張って食堂に連れてくる。今日もそうだった。だから朝に見たのは当たり前なんだよ、とか変な所に怒りをぶつける。 見つけ出したら今日こそ、説教してやる。 「ペンギン!」 「なんだ?」 「甲板にいた所見たっていう人がいたけど、それ以降誰も見てないらしい!」 「甲板…?」 またいつものか。飛び込んだ?なら船内にいないのも納得……できるかバカ野郎。悪魔の身の能力者と泳げないと言う言葉はイコールでつながっている。 だああああ、もう。こんなことなら首輪にリードでもつけとくんだった。そうすればこうやって探すことにはならなかったのに。 船内がバタバタと騒がしい。なんか頭が痛くなってきた。 「ペンギン…?」 「ん?」 「少し休んだらどうだ?総出で探してるんだからちょっとくらい…」 いつもなら、そんな暇なんてないと一喝している所だが生憎今日は何故か無理に探そうと思わない。イライラしつつ、じゃあ少し休んでくるとキャスケットに言い残して自室に向かう。何処に行っても慌ただしい船内、自室の近くでもバタバタと音がする。けど、必死に船長を探している証拠。船員は皆これ以上はないってくらいに船長にべた惚れ。そりゃもう親衛隊か、なんて思うほどに。 「はぁ……」 いつも被っている帽子を設置されている簡素な机の上に置き、ベッドに座る。…否、座ろうとした。 「…………」 朝、綺麗にたたんだはずの掛け布団。真ん中にある不自然なふくらみ。それが何か、なんて今はただ一つしか思い当たる節はない。ああもう、最悪だこの人。ベッドに脇にしゃがみこんで頭を抱える。誰だ最後に見たのは甲板だったとか言った奴。後で裏拳でも喰らわせようか。なんて言っていたってその船員には罪はない。あるとしたら、さんざん心配かけておいてこんな所にいる人だ。 バサ、と掛け布団をめくると期待を全く裏切らないその人物。探し続けた我が愛しい船長。愛しさがこみ上げる、というより脱力感がこみ上げる。まあ海に身を投げてない分そこは、喜ぶべき点…ではないな。 「ん…」 可愛らしい声を零したかと思えばうっすらと持ち上がる瞼。その奥に見える青味がかった深い闇色の瞳。 「ぺ、んぎ……ん?」 「船長…なんでここにいるんです?」 「ねむかったから…」 「はぁ…」 せめて自室で寝てくれ、と言いたいところだが睡眠をあまりとらない(油断すれば一晩中起きている)船長だから寝てくれるのだったらここでも構わない。ただ、甲板という最も心配する場所を最後の目撃地にしないでほしい。てかまず知らせろ、とか言ったらシャンブルズされて身体のパーツがどこにいったかわからなくなるために言わないが。 「ぺんぎんー」 「…なんですか?」 「一緒に寝ようぜー」 そう言ってベッドに引きずり込まれる。 「ちょっ、船員に知らせに行かないと…!」 「何をだ?」 「船長がいたって…」 「?」 「あなたが急にいなくなるから皆心配してるんです!」 「ここにいるじゃねーか」 「だから…!ああ、もう!」 イライラする。ああなんか今日は短気な日だ。おれらしくない。 「後でいいじゃねーか」 「だから…」 「おれが責任とってやるよ」 とかいいつつ、いつもおれにかぶせる癖に。と思いうらみがましい視線をおくる。けど、そんな視線を知ってか知らずがふぁ、とあくびをするとおれを抱き枕にする体制に入った船長。ああもう、計算ですか?と問いたくなる。さっきまでのイライラがすっと抜けていく感じがする。 「おやすみー」 「はぁ…」 絶対後で説教してやる、そう思いつつ、もういいか…と脱力感により意識は落ちていった。 end ←→ |