学パロキドロ。



「あ」


そう声を出したのは誰だろう。
少なくとも、ラーメンを頭からかぶり青筋を立てているキッドではない。一緒に食事をしていたキラーは慌ててふきんとタオルを借りに走る。

あまりのことに、反応できていないキッドを余所にラーメンをぶっかけた張本人、ローは「あーあ、勿体ね」と呟いた。


「キッド、大丈夫か!?」


旧友であるキラーにそう話しかけられ、意識を取り戻す。ラーメン自体は半分冷めかけていたのかそこまで熱いとは感じない。

ただ、頭から垂れる麺とかぶった汁はキッドの外見を著しく損なわせていた。


「悪いな」


しれっと言ったローにキッドはぶちっ、という効果音をつけて立ち上がった。


「てめぇ人にラーメンぶっかけておいてよくもそんな態度とれるな!」
「は?何キレてんだよ」


誰でもキレるわ!と周りが思う中、ローだけが意味がわからないという顔をしている。
キッドはローの胸ぐらをつかみ、壁に押し付けた。


「うわ、お前そーゆー趣味?」
「んなわけねぇだろ!」


笑みを貼りつけたまま茶化すローとマジギレに近いキッド。
周りは、どうすることもできず2人と見守る。

誰も、巻き込まれたくないのだ。
ローもキッドも、中学時代はそれぞれ名の知れた問題児だった。


北中のロー、南中のキッド。
もちろん問題児など他にいくらでもいたが、この2人は特に悪童されていたのだ。
そのため、この2人が同じ高校に入学すると知れた時誰もが口を合わせて「荒れるな」と言ったものだ。

入学から1ヶ月、このまま何もなければいいと言う周りの願いは無残にも崩れ去ってしまった。


「どっか見たことあると思えば、南中のユースタス屋か」
「…だったらなんだ。つーか謝れ」
「何もしてないのにか?」
「ラーメンぶっかけたじゃねぇか」
「謝ったじゃねぇか」
「誠意がこもってねぇ!」


意外とそこ気にするんだ。なんて周りが思ったのは気のせいだろう。
本人たちはそんな気もないが、周りから見れば喧嘩。

しかも悪童と言われた2人なのだから野次馬が集まらないはずがない。


そこに対してもいらつき始めたキッドだが、ローの言葉に完全にキレた。


「頭のチューリップ萎びてるぞ」


水やってんのか?とニヤつきながら言ったロー。


「てめぇ上等じゃねぇかぁぁぁ!」


ぶっちゃけラーメンかぶった状況だと怖さも半減だがやはりそこは悪童。
問題児に縁のなかった奴にとっては怖いのなんの。


「フフ、そうキレんな」
「キレさせてんのはお前だろ!!」
「そうか?」


悪びれもせずおれなのか?と傍にいたペンギンに話しかけた。
ペンギンはため息をつきつつ、頷いた。


「悪いな、ユースタス屋。おれは急いでるんだ」
「てめぇ、ふざけ」
「そんじゃ」


ローはするりとキッドの腕からすり抜け、窓から飛び降りた。
ここは3階、周りから悲鳴が上がる。キッドが窓の外を見ると、こっちを見上げて笑っているローが視界に入った。


「あいつ…!」
「あーあ、もうあの人は…」


ペンギンはもう一度溜息をつくと、自分もそこから飛び降りた。
キッドが呆然と、見つめているとローが口パクで何かを言った。


「あいつ!!」
「どうかしたのか?」
「…なんでもねぇ!」


ガンっ、と椅子を蹴り倒して食堂を後にする。
まずは自分のこの状況をどうにかしなければならない。
今すぐにでも誰かを殴りとばしたい気分だったが、キッドはキラーを連れて食堂を後にした。



『気にいったぜ、ユースタス屋』



end




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