あ い し て る



なんて、言われたこともないし言ったこともない。
ぶっちゃけそんなこと口先だけでいくらでも言えるんだから信憑性なんてあったもんじゃない。とかいうのを抱きしめられてる時に考えるのはおかしいのか。


「おいこら考えごとか」
「悪いか?」
「悪いな」


なんでだよバカスタス屋。
なんて言ったらさっきより強く抱きしめられた。おれより背の高いユースタス屋に抱きしめられてすっぽりと胸に収まる。

なんかこう、腑に落ちないものがあるけどまあこれは致し方ない。だって、体格だとか色々あるだろ。仕方ない、食欲なんて湧かねぇときは湧かねぇし。てか食っても肉なんてつきやしねぇ。


「別のこと考えるな」
「なんだそれ、」


わがまま、と続ける前に唇がふさがれた。
もふもふのコートを握りしめて、それにこたえる。というか自ら積極的にちゅーをする。体格上無理でも、せめてこういうときとか精神的には上でいたいと思う。…というかじゃないとおれのプライドが破滅する。


「…、バカスタス屋」
「殴るぞてめぇ」


あぁ、怖い。
なんて思ってもないことをフフと笑いながら言ってやった。



心臓に耳を近づけると、規則正しい心音。
それがまるで子守唄のように心地よく、目を閉じて聞き入る。…ってかおれとちゅーしてもドキドキしなくなったな。


…そりゃそうか。


色気もへったくれもないこの状況でドキドキするほうがおかしいな。


「おい、寝るな」
「んー…」


はぁ、とため息をついたのを感じた。
別に久しぶりに会ってもこれといってすることはない。ただ生きているかの確認ぐらい。恋人特有の甘さだとか雰囲気だとか、愛の囁きだとかそんなこと気にしたこともない。ってかむしろした方が笑える。


ユースタス屋がそんなことしたらおれは死ぬまで笑い転げるだろう。


「久しぶりに来たと思ったらこれか」
「仕方ねーだろ。最近寝てねぇんだ」
「最近っつーよりいつもだろ」
「黙れ隈は元からだ」
「逆ギレすんな。隈に触れた覚えはねぇよ」


あぁ、もうしゃべんな。心音聞こえねぇだろ。
そういうと、はぁとまたため息をついて静かになった。生憎沈黙が痛いとかそんな乙女思考は持ち合わせてないため、こういう時間の方が嬉しい。

うつらうつらと揺れる意識。ユースタス屋はごろん、と寝転がっておれを腹の上に乗っけた。

響くのは規則正しい呼吸音と、規則正しい心音の2つだけ。



ふと、意識が堕ちそうになると聞こえるのはあいつの声。



「ロー」



ただ、囁かれたのはおれの名前。


end



 



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