暗い闇。…というには少々明るい空。星がまたたき、月がまるで王のように鎮座する。自ら輝くことなどできない癖におこがましい。そのうえ我が物顔で星の軍勢をひきつれているのが好ましくない。なんてどうでもいいことを思いながら周辺を見張る。 ただでさえうちの船長は睡眠欲がないのだからこんな時間に起こされでもしたらたまったもんじゃない。 静まったあたりを見回していると、見慣れた顔。来るなって言ったのに。音もたてずにココまで来ては俺のことを抱きしめた。 仮面が、頬に触れる。冷たくて、無機質で。それなのに抱きしめられた身体は暖かい。そういえば、子供体温だったなとかぼんやり考えた。 「…そんなに無防備で、俺がもしお前を殺しに来てたらどうするんだ」 「………」 何も言えない。そういえば、なんて今思うくらいに何も考えていなかった。少し体を離した。 「ペンギン?」 そう言って首をかしげるキラー。俺はその表情を隠す仮面をとった。わさわさとした猫っ毛の金色の髪が夜風に吹かれてゆらゆら揺れる。 「キラー」 「ぺんぎ、っ」 ちゅ、なんて少女マンガのようなかわいらしい音は立たなかった。ただ、唇を重ね合わすだけのキスともいえないキス。ただそれだけなのに、見た目の割に意外と初心なキラーの顔は赤い。見えなくてもわかる。 なんて考えながら一度離して、もう一度引き寄せた。あえて効果音を出すなら、ぶちゅ、だな。 歯列をなぞり、口を開くというようにつついてやった。すると、「っふ…」なんて小さく喘いで口を開けた。 意外と素直。 くちゅり、なんて音を立てて口を離した。はぁはぁと息をしているキラーはキスがへたくそ。あんだけ動いて息切れしないくせにこんなところでは息切れする。 「夜這いか?」 「別に、そんなつもりじゃない」 「いきなり抱きついたくせに」 「それは、………特に理由があったわけじゃない」 あぁ、船員に示しがつかないな。船長は多分、気付いていて気付かないふりをするのだろう。…キャスは、多分気付かない。ベポは、よくわからないが。 「そっちの船長は?」 「…爆睡だ」 実際、気付いてないわけではないだろう。でも見逃してやる分、意外とやさしいのだろうか。それとも…。 とりあえず、あまり長く一緒に居るものではない。この船に鎮座する王は我が船長、トラファルガー・ローであって俺ではない。許可なく敵を乗船させるなんて、打ち首ものだ。 「ほら、さっさと帰れ」 「ペンギン」 「まだ何かあるのか?」 そう言うと、いや…と言って仮面をつけ直した。殺戮武人、なんてよく言うものだ。 「じゃあ、」 「じゃあな」 何かを言おうとするのを遮った。キラーはそのまま船を下りて帰っていった。…背中が寂しそうだったのは、多分気のせい。 結局、何しに来たのかはわからない。聞く必要もないだろう。 俺は唇をぬぐうともう一度見張りの体制に入った。 end キャラの独り歩きとはこういうこと。 ←→ |