12月31日 大晦日

「ふぅ………」

僕は一人、応接室で伸びをした。

少し肩がこったがそんな事はどうでもいい。

問題は………

「書類多すぎじゃ無いのかな………」

異常なまでの書類の量だった。

理由は明確。

冬休みに入ってすぐにあったクリスマスだ。

ただでさえ長期休業に入って浮かれているところに重なっておとずれる恋人達の祭典。

恋人達は恋人達でハメを外し、独り身は独り身で恋人達とは別の意味でハメを外した(簡単にいうと八つ当たりなどで)。

お蔭で風紀は乱れに乱れ、僕は思う存分咬み殺せたワケだが、そのかわり後始末の書類の数が尋常じゃない。

今までたまってた分もあったから、今日までかかってしまった。

残りは20枚程度。
時刻は午後9時。
年が明けるまでに終わるかすら危うい。

だが、仕事をやめる気はさらさらない。

“職務放棄”の四文字は僕の辞書にはないのだ。

………本当は、今日は骸に「大晦日は一緒にすごしたい」と言われていたが、この様子では恐らくムリだろう。

どことなく寂しい気もするが仕方がない。

冷めたコーヒーを飲み干し、僕は再び仕事に取りかかった。











甘い香りがする………

チョコみたいな……

ココア………?

「!!」

机に突っ伏していた体を勢いよく持ち上げた。

どうやら僕は寝てしまっていたようだ。

時計をみると11:30

これじゃあどうやっても今年中には終わらな……

「あ……れ………?」

僕の前には、書き終えられた書類があった。

20枚全て。キレイな字で書き込んである。

しかもそれだけじゃない。

改めて部屋を見回すと、しっかりと掃除がされていた。

机はピカピカに磨かれ、床には埃一つ落ちていない。

信じられない光景に思わず目を疑う。

「ん?」

と、僕の肩から何かが落ちた。

拾ってみると、黒曜の制服。

「目が覚めましたか?」

「!!」

ドアから入ってきたのは、骸だった。

寒いこの時期なのに、シャツ一枚だ。

その手にはマグカップ2つとチョコケーキの乗ったお盆。

「骸?どうして……」

「君のことですから 大晦日だろうと仕事をしてそうでしたからね 心配で来てみれば案の定寝てしまっていたので少しお手伝いしただけですよ」

いつもの笑みを浮かべながら、骸はマグカップとケーキを机に置いた。

マグカップの中身はココアだった。さっきの香りはコレだ。

「コンロは給湯室でお借りしましたよ」

ソファに腰をかけ、骸がココアをすする。

少し手伝ったといったが、全然少しではない。

本来は僕がやるべき仕事だ。

しかも掃除まで………

「ごめん…」

「僕が好きでやっただけですから」

珍しく僕が謝っても骸は気にする素振りもない。

安心はするがやはり少しは罪悪感がある。

「ほら 雲雀君 コーヒーが冷めてしまいますよ?」

「あ うん」

骸は僕にはコーヒーをいれてくれたようだ。

一口含むと、苦味とほのかな甘味が口の中に広がる。

僕がいれたコーヒーよりも美味しい気がする。

「ん…まあまあだね」

「クフフ そうですか」

素直には褒めないが。

「雲雀君」

コーヒーを飲んでいた顔をあげると、想像していたよりもかなり近くに骸の顔があった。

「!?むくっ」

名前を呼ぶ暇もなく骸にキスをされた。

軽く触れるだけだったが、それでも骸の熱が伝わるには十分だった。

口の中のチョコレートの甘味が、キスしたことを証明している。

「年が明けましたので」

だからといっていきなりすぎる

そう言おうと思い、改めて骸の顔をみた。

が、僕の口からその言葉がでることはなかった。

骸が笑っていたから。

いつもの不敵な笑みではなく優しい笑み。





僕だけに見せる。





僕だけを魅せる。





笑み。





さっきまでの言葉が泡のように消えていく。

「年が明けた瞬間にしたかったんですよ キス」

だから仕事を手伝ったんです、とホットチョコレートを飲みながら骸はいう。

「へぇ」

「だから お礼、くださいよ」

いつもの不敵な笑みで自らの唇を指差す。

少しイラついたが、まあ嫌では……ない。

「仕方ないね」

今度は僕からキスをした。

さっきよりも少しだけ長く。

また骸のチョコレートの味が口に広がった。

「あけましておめでとうございます 恭弥」

「あけましておめでとう 骸」



「「今年もよろしく」」







今年のはじめは
の香り
に包まれて











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一月末までフリーだったお正月文です

ムクヒバがやっぱり好き(*´∀`)
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