「―――!!」

カチ、カチ、と時計の秒針が時を刻む部屋で目を醒ました僕。

瞬間的に起き上がり辺りを見回すが、そこは何の怪しさもない見慣れた僕の部屋だった。

(…時間…)

パッと枕元にあった携帯で今の時間を確認すると、時刻は8月14日の0時7分。

(あれは…夢?)

今も耳には、やけにうるさい蝉の声が残っていた。
あの焦がれるような暑さも、視覚を刺激する鮮やかな赤色も。

先程の惨劇がこんなに鮮明に蘇ると言うのに、アレが全て夢だったなんて信じられない。

(雲雀、くん…!!)


しかし、そんな僕の疑いは一通のメールですぐに消えた。

(メール…?)

【寝てたらごめん。明日も学校だから一緒に行ってあげてもいいけど】

雲雀くんからのメール。

それは雲雀くんは生きている証明。
やっぱりあんなの、ただの夢だった。



……良かった。

「本当に良かった…」

携帯を見つめながら無意識に安堵の言葉と笑みが溢れた。



***

「今日も暑いですね…真夏日らしいですよ」

ブランコを軽く揺らしながら僕は空に手をかざした。
見上げた空は、今日も太陽が照っていた。

毎日通っている公園に、いつもの様に雲雀くんといる。
何も変わらないはずなのに、何故か今日は不思議な感覚がする。

「夏だからね」

足元の黒猫を撫でながら、雲雀くんはそう言った。

「…そう、ですね」

こんな会話を、つい最近もした気がする。
昨日見た、夢の中で。



「―――っ!」
瞬間、その悪夢がフラッシュバックする。



君が引きずられる音。
辺りを染める真っ赤な鮮血。
血と混ざり合った君の香り。



褪せる事のないリアルな光景に、背筋に寒気が走った。



「えっ!な、に―――」

ガシャンッとブランコが大きな音を立てる。

気づけば僕は、雲雀くんの手を強く引き立ち上がっていた。

「…もう、今日は帰りましょうか」

そう、力ない笑顔で呟いて、僕は彼の手を離して歩き出した。
そんな僕の後ろを、無言の雲雀くんがついて来るのを感じる。



あれはただの夢。
どんなにリアルで現実に近くても、夢は夢のまま。

そんなこと、夢に酷似する幻覚を扱い慣れた僕には当たり前の事だと言うのに。

僕は今、何をこんなに恐れているのか―――






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