「い、つ………あ…?」
ぶつけて痛む体を擦りながら起き上がった骸はハッと気づく。
自分が抱き締めている、雲雀の姿があることを。
骸の姿で無く、正真正銘雲雀の姿をした彼が。
「元に戻ったんですね…」
「…ねぇ、離しなよ」
骸同様、元に戻った事を察したらしい雲雀がギロリと睨んでくる。
しかしその顔は赤く、凄味が全くなかった。
「質問に答えてくれたら離しますよ」
「嫌だ今すぐ離せ」
「さっきの告白の返し」
「黙れ」
「あれは一体どういう意味で」
「答えたくない!!」
じたばたと暴れる雲雀を更に強く抱き逃がすまいとすると、最後にその一言だけ叫んで雲雀は抵抗を止めた。
俯いて表情が見えないままだが黒髪から覗く耳がとても赤いままで、骸はそっと尋ねた。
「じゃあ告白の後、言ってたアレはどういう意味なんですか?」
「………」
雲雀はピクリとも動かず黙り。
頑ななその様子に骸はハァ、とため息をつき考え込む。
そして決心した様にもう一度ため息をし、雲雀に言った。
「…じゃあ、僕から言いますね」
「?」
「元に戻りましたから、僕が今日並中に来た理由を話します」
そう言うと、雲雀はパッと顔を上げて骸を見つめた。
するとやはり、一瞬息が詰まるような苦しさを感じて骸は言葉が出なかった。
それをグッと飲み込んで、平静を装いながら言った。
「君に、告白しに来ました。君が…好きなんです」
きょとんと猫のような目を丸くした雲雀は、次の瞬間見る見る内に真っ赤になった。
「な、何それ、からかってるの」
「本気ですよ」
「っ…」
「君があんな断り方をするからバレているんだと思いました」
沈黙。
また黙り込んでしまった雲雀に、骸はどうしたものかとため息が出た。もう何度目のため息だろう。
なんとか言葉を続けようと口を開くと、小さな小さな雲雀の言葉がそれをつぐませた。
「君、が…」
「?」
「君が僕を好きでいてくれたら…っていつも思ってた……だから、僕だって、僕だって君の事―――」
泣きそうな顔をしていた。
いや、もしかしたら泣いていたのかもしれない。
雲雀の涙が溢れるより先に骸が強く抱き締めてしまったから、今ではもうどちらだったのかなんて分からない。
***
「あの入れ替わりは結局なんだったんだろう」
「さぁ…ただ一つ言えることはあんな美味しい状況もう二度と味わえないかもしれないのだから、もっと君の体であんな事やこんな事をすればよかったです」
「………」
夕暮れの廊下を歩く二人。
真顔の骸に、雲雀は眉を寄せて冷たい視線を向ける。
その視線に気づいた骸はニッコリと清々しいまでの笑顔を向けてくるものだから、雲雀は呆れて笑みが出た。
「あーあ、僕はまたとんでもない男に捕まったね」
そう言って握られた手を握り返した。
end
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