「だぁかぁらぁ!俺とデートしたいなら、まず身長をあと30センチは縮めて髪と目を空色にして天使みたいな顔と声にして性別を女に変えてからだって言ってるじゃないっスか!」
「あ、いたの?ちっちゃすぎて視界に入らなかったごめんねー」
「貴様ァァ!今日のラッキーアイテムであるうさちゃんの風船を誤って割るとは何事だ!買ってこい!今すぐ近くの売店でうさちゃんの風船を買ってこい!!」
「おい気安く触んじゃねーよ包茎野郎が。てめぇの尿道ボンドで封鎖すんぞ」
「ああ悪いね、残念ながら僕はアドレス帳には人間しか登録しない主義なんだ。え?だって君たちは蛆虫であって人間じゃないだろう?」
「なぁ黒子、あそこで数人のナンパ男を目も当てられないくらいにフルボッコにしてる頭が赤青緑紫黄の女たちは赤の他人だよな?まさかお前の友達だったりはしないよな?」
「ええ、全くもって知り合いなんかじゃありません」
とりあえず馬に蹴られて死んでください
「ちっ、見つかったならしゃーねぇな」
「…何で君たちがここにいるのか十文字以内で説明してもらいましょうか」
「デートの尾行のためっス!」
「わかりました歯を食いしばってください」
「何で!?ちゃんと十文字以内におさまったじゃないっスか!!」
「『ス』も字数に入ります。よって君の回答は十一文字、つまりは一文字オーバーです」
「えええ理不尽グハッ」
黒子、突っ込み所はそこじゃないんじゃないのか。そう言いたかったが、目の前で繰り広げられている光景(とんでもない美人が小さい少女に足蹴にされて興奮している状況)に巻き込まれたくなかったので、俺は関係ないとばかりに黙っていることにした。
しかしながら、デカい男一人とそれに群がる女六人という組み合わせはどうあっても周囲の目を引くらしく、客がみんなしてこちらを見てはヒソヒソと何か言い合っている。まずい死にたい。
が、俺を除いた当の本人たちはそんなもの全く眼中にないようであった。
「そもそも、僕たちが今日ここに来るってどうやって知ったんですか。君たちに一言も言ってなかったと思うんですけど」
「はん、俺らの情報網をなめんなよ!」
「さっちんの可能性は無限大だからねー」
「…聞く前から何となく予想はできてましたけど。それで、その桃井くんはどうしたんですか?」
「どうしても抜けられない用事が入ったらしいのだよ。私服姿の黒子の写真を二百枚撮ってくるという条件で、今回は情報を提供してもらった」
カバンにうさぎの風船を括りつけている緑間の手の中には、当の桃井本人から渡されたんだろう、どこのプロカメラマンだと問いたくなるような一眼レフがあった。
てか二百枚ってなにそれ怖すぎるんですけど。何なの?黄瀬といい桃井といい、顔がいいヤツは何でみんなして性格が完全崩壊してんの?(その原因が俺の彼女だという可能性は全力で否定したい)
「というわけで、行こうかテツヤ」
「ちょ、おいおいおい!なに黒子連れていこうとしてんだよ!」
「何でって、そんなの一緒に遊園地を回るために決まっているだろう」
「こいつとここに来たのは俺なの!お前らは部外者なの!」「僕たちが部外者だって?はっ、テツヤと出会ってまだ一年にも満たない若僧が一体何を抜かすか」
心底俺を見下した目をしながら(実際には30センチ以上も下から見上げられているが)そう言って鼻で笑う赤色のツインテール。この女に踏まれたいと、そんな血迷ったことを抜かす一部の奴らが未だに信じられない。そういえば降旗がこの間『え、でも、か、可愛いくない?』とか気違いめいたことを言っていたが、やっぱり病院に行くよう勧めることにしとこう。
つーかワカゾーって、俺とお前は同い年だろうが。むしろお前の方が俺よりも誕生日遅いだろうが(確か十二月生まれだとかいう噂を聞いた)
「オイてめぇ!」
「うぉ?!な、なんだよ」
「さっきお化け屋敷入った時に一時間以上そこから出てこなかっただろうが!あん中で一体何やってたんだ!」
「えっ、あ、いや、それは、いや」
「何しどろもどろになってんだよ!どうせ暗闇なのをいいことに、テツにセクハラでもしてやがったんだろ!!」
「違います。恐怖のあまり火神くんが失神したので、係の方に頼んでスタッフルームで休ませてもらっていたんです」
「ちょ、おい、くろ」
「ああん?じゃあお化け屋敷から出た時にお前の目元が赤かったのは何でだよ。このヤローに泣かされたんじゃねぇのか?」
「君のそのマサイ族並の視力にはもはや感動を通り越して恐怖を覚えます。まぁ、ある意味では泣かされたで正解ですかね。火神くんがあまりにも豪快にお化けにビビるのが面白くて面白くて。あんなにも泣くほど笑ったのはあの時が初めてかもしれません」
「黒子ォオオオ!!お前は俺の自尊心を何だと思ってんの!?」
「火神くん、自尊心なんて言葉知ってたんですか?」
誰か教えてくれ。俺の味方はいったいどこにいるんだ。
「だいたい!」
「あ、黄瀬ちん復活したー」
「何だ騒ぐな涼太」
「どうして黒子っち何にも頭に耳つけてないんスか!」
「はい?」
「こういうとこにきたら耳つけるのが常識でしょ!あ、ほら黒子っちあの猫耳なんかどうっスか?俺とおそろいにしようよ!」
「え、嫌ですけど」
「そうだそうだ。まぁテツは可愛いからつけてもいいけど、お前は可愛くないからつけなくていいぜ。むしろやめろ」
「可愛いもん!」
「もんとか言うんじゃないのだよ気色悪い」
「気分ちょー萎えるー」
「ただでさえ不愉快なんだから、これ以上不愉快にさせるのは勘弁してほしいな」
「可愛いもん!少なくとも月9俳優には可愛いって言われたっス!」
「月9俳優ぅ?誰だよそれ」
「ああアレか、こないだお前と一緒にフライデーされてた男」
「えーなになにマジだったのあの噂?」
「見損なったよ涼太。お前にあんなイグアナ顔を愛でる趣味があったなんて」
「赤司さん、あの俳優さんは抱かれたいランキング上位者ですよ」
「あ、そうなのか?てっきり人間とイグアナのハーフかと思っていたよ」
「そんなんがいたら全世界が震撼するわ」
「違うからね黒子っち!あんな記事は嘘っぱちで俺が愛してるのは黒子っちだけだから!誤解しないでほしいっス!」
「いや心底どうでもいいんですけど」
「確かにあのイグアナには口説かれたけど、俺にはフィアンセがいるって言って断ったっス!」
「フィアンセいたんですか。知りませんでした」
「何言ってんスか、黒子っちのことに決まってるでしょ?うふうふ」
「どうしよう気持ち悪い」
「おいテツヤの顔色が悪くなってしまったじゃないか。どうしてくれるんだビッチ」
「俺はビッチじゃないっス!」
「まぁそんなアバズレ女は放っておいてだな」
「何か表現が悪化してるよ緑間っち?!」
「黒子、これを受け取るのだよ」
「何ですかこれ?」
「今日の水瓶座のラッキーアイテムである『漢字の文字入りキーホルダー』だ。この俺がわざわざ選んでやったんだから感謝するのだよ」
「いりません。お返しします」
「な、なぜだ?!」
「だって何ですか、この彫ってある『四苦八苦』って文字。ラッキーどころかもはや持ってるだけで呪われそうですよ」
「それしか手に入らなかったのだから仕方がないだろう!!」「お気持ちだけありがたくいただいておきます」
「ねーねー黒ちん、そんなゴミみたいなキーホルダーほっといてあっちでソフトクリーム食べようよー」
「ゴミみたいとはなんだァアァア!!」
…なんだろう、この状況。
なんかものすごく見覚えがあるんだけど。
本来の標的である俺の存在など完全無視して、女共はどんどんと口論をヒートアップさせていく。始めは好意の目で奴らを見ていた周りの男共も、今は目を合わせたら最期、災難に遭うとばかりに俺たちの半径十メートル以内に近づこうとすらしない。ただ、俺がものすごい数の同情の目を向けられているのはわかる。
ははっ、俺だって奴らの存在しない世界に行きてぇよ。お前らは知らないだろ。あいつらは、この前の球技大会で俺に活躍させないために勝手に俺のエントリーをバスケから砲丸投げに変更するような悪魔なんだぞ。ちなみに砲丸投げは球技じゃねぇからな。エントリーしてんの俺しかいなかったからな。人類じゃない。あの性格の悪さは絶対に人類じゃない。
「火神くん」
「うぉえっ?!」
黒子と付き合いだしてからの俺の可哀想な日々を半ば上の空で回想していたら、急に下から襲ってくる聞き慣れた声。いきなり現実に強制送還されて、驚きのあまり情けない奇声をあげてしまった。
「な、なんだお前、あいつらと喋ってたんじゃねぇのか?」
「抜け出してきました」
抜け出してきたって、お前があの口論の原因なのにそれでいいのか。まぁあの五人の喧嘩に巻き込まれたくない気持ちは死ぬほどわかるけど。
「すみません、火神くん」
「あ?」
「せっかくのデートだったのに、台無しになってしまいましたね」
遥か下を見下ろせば、いつも通りの無表情で、しかしながらどことなく残念そうな顔をした黒子がいた。珍しいことだ、と少し驚く。
そういえば今日の遊園地デートは結構前から計画してたもんな。心なしか普段よりもオシャレに気を使ってるように見えるし、俺が思っていた以上にこいつは今日という日を楽しみにしていたのかもしれない。
向こうを見れば、未だ絶賛喧嘩中のカラフル軍団。性格だけでなくその他もろもろもろに関しても次元違いのあいつらから、今日一日俺たちが逃げ切るというのは不可能だろう。追ってくる。何があってもあいつらは地の果てまで追ってくる。
…しゃーねーなぁ
ぽんっ、黒子の頭に手をおいた。
「この際だから、七人で回るか?」
「え?」
「やってることは頭おかしいけど、あいつらはお前のことが心配なだけで悪気はねぇんだろ。せっかくのデートが潰れるのは残念だけどな」
「でも…」
「二人で出かけるのなんて、これからいくらでも機会はあるじゃねぇか。少なくとも俺は当分お前と別れる気はねーしよ」
「火神くん…」
「ははっ、何だよそんな顔すんなってエエエエエ!?」
どがっしゃーん!
とんでもない衝撃と共に、俺の体は思いっきり地面へと叩きつけられた。あまりの激痛に体を丸めて身悶えする。横から飛んできたドロップキックが見事に鳩尾にヒットしたんだと分かったのは、目の前にいくつかの女の足が見えてからだった。
見上げた視線の先では、俺を囲んで仁王立ちするカラフルな頭が五つある。その眼光は人ひとり簡単に殺せそうなほどに鋭い。…Oh my god.
「なに器のデカい男アピールしてんだよクソが」
「そんなんで黒子っちの好感度アップさせようなんて甘いんスよ!」
「七人で回ろうだって?冗談じゃない君は今すぐ帰れ」
「俺たちがそんなことで妥協するとでも思ったのか馬鹿め」
「妥協ー?何それおいしいの?」
ゴゴゴゴゴゴ。
そんな恐ろしい効果音がつきそうなほどの威圧感で俺を見下ろす女ども。KOROSARERU。間違った殺される。
つーかお前らさっきまで仲間割れしてたんじゃねぇの!?
「赤司ィ、どうしてくれるよこいつの処分」
「そうだな、ジェットコースターの先端にでも括り付けておこうか」
「いやいやレールに縛り付けてコースターにひかせる方がいいっスよ」
「重石をつけてあの船から池に投げ入れるのはどうだ?」
「着ぐるみ着せたまま高いとこから突き落とすのもよくなーい?ほら、そうすれば血が飛び散らなくても済むし」
オイイイイ!!お前らそれただの殺人計画じゃねぇか!ねぇ知ってる?殺人って実は犯罪なんだぜ?!
「く、くろ、たすけ」
この危機を救えるのは、悲しきかな我が彼女しかいない。それを今までの経験から嫌と言うほど思い知らされている俺は、女どもの隙間、わずかなスペースから見えている黒子に向かって必死に手を伸ばす。
するとそれに気づいた黒子が、もごもごと口を動かして何か言葉を発し始めた。あ?何て言ってんだ?!
ゆっくり、ゆっくり、繰り返される言葉。八文字…いや九文字か?音を発することなく動かされる小さな唇。数回に及ぶそれによって、ようやく俺は読解に成功した。
それが意味する言葉は
『がんばってください』
くるり、俺に背中を向けた黒子はそのまま地を蹴って走り出した。
もともと小さな背中が、みるみるうちに更に小さくなっていく。そう、みるみる小さくなって、小さく、なって、……え?
「えええええええええ!!」
「うっせぇな叫ぶんじゃねぇよ!」
青峰から再び蹴りを入れられたが、俺はそんなのに痛がっている場合じゃない。いやいやいやこれが叫ばずにいられるか!だってたった今、俺の最終兵器彼女が逃げ出したんだぞ!
「お、俺を置いていくなあぁああ!!」
「あっ、ちょ、待つっス火神!」
「追え!絶対に逃がすな!」
黒子を捕まえるために女たちの隙間をぬって走り出したが、この遊園地の人混みの中でアイツを見つけ出すことがどれだけ不可能に近いのか、俺は十分すぎるくらい理解している。理解しているが、それでも俺はこの足を止めるわけにはいかない。
だって、そうこうしているうちに複数の足音がどんどんと近づいてくる。
「待てっつってんだろーが!てめぇ去勢すんぞゴラァアア!!」
「おお、青峰っちナイスアイデア!黒子っちを汚す前に、あんな棒ちょん切っちゃった方がいいっスよ!」
「ねぇねぇ、着ぐるみさぁ着せるなら何がいいかなぁ」
「あそこにいるトラでいいだろう。アホ面がそっくりなのだよ」
「死に場所が夢の国だなんて最高じゃないか。きっと安らかに逝けるだろうね」
だから何でこいつらは女なのにこんなに足が速いの?本当に人間なの?絶っっっ対に人類じゃないだろお前らァアアアア!!!
DEAD!
DATE!
DROP!
夢の国?
いいえ悪夢の国ですよ、火神くん。
†**++*+*†*+*++**†
十万打フリーとのことだったので頂いてきました!!
ちよ子様の♀シリーズ大好きです//////
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