雪子の機嫌もとっても良かった。なんと、珍しいことに公園で群れてた人たちも見逃してあげていた。明日は雪だろうか……。雪子の機嫌がいい理由は、並盛商店街にある老舗の駄菓子屋さんでお菓子を買う予定だからだ。昨日、たまたま帰ってきたママからお小遣いという臨時収入を得たのだ。
スキップをしながら、駄菓子屋へ向かう雪子を街の人は温かい眼で見守る。
「はひっ! 雪子ちゃんですー!」
「本当だ! こんにちは、雪子ちゃん。ご機嫌だね?」
雪子が足を止めると、ちょうどハルと京子がケーキ屋の扉から出てきたところだった。
「ハルと京子! ……あ、それから綱吉」
二人の後ろにはツナが疲れた顔で出てきた。
「Σ(俺はおまけっすかー!!)こ、こんにちは。雪子ちゃん」
「ちゃおっス。これからどっかに行くのか?」
「うん、向こうの駄菓子屋さんに行こうかと思ったんだけど……ケーキか、うん。ケーキもいいね」
お菓子じゃなくてケーキにしよう。早速お店に飛び込み――お店の外から綱吉のツッコミが聞こえた気がする――ショーケースを覗き込む。
「チョコも美味しそう……。あ、このフルーツがたくさん乗ってるのもいいかも。あ、このムースの上にベリーが乗ってるの器かわいい……あっ!! これちょうだい!」
「はい、かしこまりました」
店員さんの素晴らしいまでの営業スマイルに見送られながら、お店の外に出ると、ツナ、リボーン、京子、ハルが待っていた。
「今からツナさん家でケーキを食べようと思ってるんです」
「雪子ちゃんもどうかな?」
ケーキの入った箱を雪子に見せる京子とハル。雪子は眼を輝かせていた。
「行くっ!」
「雪子ちゃんは何のケーキを買ったんですか?」
「抹茶のロールケーキだよ。抹茶クリームの中に小豆が混ざってて、上に栗と柿が飾ってあるやつ」
「あっ! それ私もさっき迷ったケーキだ! 秋の期間限定なんだよね!」
「ハルは食べたことあります! ザ・ジャパンな味わいなんですよ〜! 雪子ちゃんは抹茶ケーキが好きなんですね!」
「うん! それからロールケーキも好き。去年のクリスマスの時にママと一緒に作った"ぶっしゅ・ど・のえる"がす ごく可愛くて美味しかった」
「ブッシュ・ド・ノエル! クリスマスケーキの定番だし、カワイイもんね!」
「はい! フォークで引っ掻いて木の模様を描いたりしますもんね! チャイルドもお手伝いできます!!」
「うんっ! 端の一切れを上に乗せたりしてね!」
「……」
キャッキャッとケーキの話題を始める女子たちにツナはデジャヴを感じると共に沈黙をするしかなかった。ぶっしゅ・ど・のえるってなんですか。そうですよ、中学生の男の子にはわかりませんよ。
「ツナ、また話題に置いていかれたな」
「うるさいよ!!」
ニヤリと嫌な笑みと共に哀れみの視線を赤ん坊から受け、ツナは一人女の子たちの立ち話が終わるのを待った。
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bkm