背中が暖かい.
きっと窓辺から日差しが流れ込んでくる為だ.
鳥の囀りも聞こえてくるし、もう日が高いのだろう.
今日は非番で良かった.
昨日のうちに仕事も全部片付けたし、イレギュラーが発生でもしない限り呼び出しもないはずだ.
せっかくこんなに寝心地がいいんだから、もう少しだけこのまま寝台でごろごろしていたい.
いつもならこの時間は、起きてこないアクセルを叩き起こしに行ったり、ミーティングをすっぽかすゼロを探しに行ったりと走り回っているのだ.
今日くらいゆっくり寝坊しても罰は当たらないだろう.
それにしても….
特に体調が悪いわけでもないのに、妙に体が重い気がする.
不思議と手足も上手く伸ばせないし、首筋がこそばゆいような….
そこまで考えて、一気に目が覚めた.
この、背中に感じる温もりは、まさか.
いやまさか、昨日はきちんと部屋の入り口をロックしたし、パスコードを更新したのも昨日だ.
まだ、新しいパスは彼に教えていない.
だから、この腹に感じる腕のような重みは幻覚だ.

…腹を撫でられても、幻覚だ.
幻なんだから、思い切りどついても問題ないだろう.

「痛いぞ、おい」

背後の不法侵入者に思い切り肘鉄をかましてやると、”うぐっ”という呻きとともに、文句が飛んできた.
それでもしっかり腰のホールドを解かない辺り、さすがとしか言いようが無い.

「ゼロ. 入り口のセキュリティシステム、クラッキングしただろう」

「まあな」

「まあな、じゃない、このくっつき虫. 暑いから離れて」

「俺は心地良いから問題ない. お互い非番なんだし、もう少し寝てろ. 俺も寝る」

そう言って、眠たそうに抱き直ししてくる.
可愛くない. この大きい犬は可愛くないぞ. 流されては駄目だ.
自分に言い聞かせつつ、溜め息をついた.
大体、こちらは素体で寝ていたのに、相手はアーマーを身に着けたままだ.角がぐりぐりして背中がちょっと痛い.
大方、任務が終わったその足で、まっすぐこの部屋に来たのだろう.
洗浄は済ませて来ている様なのだから、せめてその装甲を剥がしてからベッドに潜り込めばいいものを.
いや、そうじゃなくて、自分の部屋で眠ればいいものを.
ただでさえ狭いベッドが、ゼロのせいでさらに窮屈だ.
おれは、手足を横に投げ出して寝るのが好きなのに.
だが皮肉にも、ゼロは何かを抱き締めて眠るのが好きなのだ.
以前、ロールケーキのように丸めたシーツに抱き付いて眠るゼロを見たときは、不覚にもときめいて起こせなくて、書類提出の催促が出来なかった.
今、そのロールシーツの代わりにされているのが自分だ.

「ゼ、ロッ.ぐるじい.もちょっと腕の力緩めてよ」

「緩めたらお前、逃げるだろ」

「そりゃあね.って、ぐぇッ」

「逃がすか馬鹿」

ゼロは、もう少し力加減と言うものを学ぶべきだと思う.
そのうち、おれはゼロに抱き潰されて死ぬんじゃないだろうか.
ああ、背中が痛い.

「ゼロ、ゼロ」

「諦めたか?」

「うん」

「よし.じゃあこっち向けよ」

言われた通り、ゼロの腕の中で体を捻り、向かい合った.
やはりどこか眠たそうな目をしながら、首筋に鼻先を擦り寄せてくる.

「あ、あははっ.首は止めてってば、くすぐったいよ」

そう言った所で止めないのは百も承知だったが、あまりにもじれったくて、笑いながらゼロの肩を押した.
甘えてるんだ、珍しい.
それとも多少寝惚けているのか.

「エックス」

「何?」

「今日は1日このままな」

「こら、我儘言わないで」

今は何を言っても、ゼロが断固として離れないのは分かっている.
けれど、形だけでも断っておけば、全部ゼロのせいに出来る.
ベッドでだらだらしているのは、ゼロが離してくれないから.
こんなに天気が良いのに出掛けられないのも、アクセルに頼まれた番組の録画も出来ないのも、部屋の整理整頓が出来ないのも、みんなゼロのせいだ.

ゼロの暖かい手が頭の後ろに回ってきて、寝かしつける様に撫でてきた.
春の陽射しも、ゼロの温もりも、意地悪いほど心地良い.
堪えきれず落ちてきた瞼に、何か柔らかいものがそっと掠められた.
閉じた瞼の裏で、透明な光が淡く煌めくのが分かる.
先刻より幸せな気持ちで、間もなくして眠りに落ちてしまった.








END.








春眠暁を覚えず.
万年新婚さん家の朝.
前サイトの相互記念ゼロクスです.
騎條 黎さまに捧げます(・∀・)


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