「じゃーん!」
「何だ、それ」

アクセルが取り出した物を横目に、エックスは呆れた声で呟いた.
アクセルが持っているのはまぎれもなく、単なるチョコプレッツェルだ.
ただし、大きさは規格外.
新発売と銘打たれたそれをコンビニで発見し、一目で気に入り買ってきたらしい.
面白いでしょ、とパッケージをこちらの目の前でちらつかせる.

「今はこんなのが売ってるのか.知らなかったな」
「でしょ.エックスと食べようと思って、何本か買ってきたんだ」

言葉通り、ビニールのレジ袋には、同じ菓子が詰め込んである.
このチョコプレッツェル、中々に長さがあるため、袋からどうしてもはみ出てしまっていて、エックスにも袋の中身は丸分かりだった.

「呆れたな、それ、全部がそうなのか」
「まあね.だからさ、ちょっと消費するの手伝ってよ.休憩がてら、お茶でも煎れるからさ」

そう言って、引き継ぎ用の資料を纏めているエックスを、アクセルは強引に休憩タイムへと押し切った.



そうして並んで座り、しばしの他愛も無い談笑を楽しんだ後.

「はい、えっくふ」
「ちょっと待て、何のつもりだ」

なんの脈絡もなく、目の前に突き出された菓子.
その末端をくわえて、笑顔で差し出され、エックスは狼狽した.
何のつもりかなんて訊かないと解らないほど、自分は無粋では無い.
ただ、幾らなんでも相手が相手だ.
さらにどうしてまた、女性型レプリロイドでもない自分に、そんな真似を仕掛けているんだ.
…それとも、単にこちらをからかっているだけなのだろうか.
…きっとそれだ.それしかない.

「こっち側をおれがくわえて、ポリポリかじっていけと、そういう事かアクセル」

「ふふ、ほうはよ」

冗談のつもりなんだろう.
いかにもふざけた様子で、くわえたプレッツェルを上下させている.
ここで無視して流してもいいが、後々がしつこくて面倒だろう.
こちらが構ってやるまで、この後輩はとにかくしつこく纏わりつくのだ.
適当に食べ進んで、手前でポッキリ折ってやれば問題ない.

「わかった.付き合ってやるから、動かすなよ」

「おっけー」

そうして渋々、プレッツェルの端に噛みつく.
普通のそれより太くて長いため、アクセルの顔は思ったほど近くなかった.
しかも一口分食べて味わってみると、これがなかなか美味しい.
チョコのお菓子なんて久しぶりに食べたなあ、などと、こんな状況にも関わらず、呑気な気分になった.
ぼんやり考えつつ前を見やるが、さっきからアクセルは全然食べ進んでいる様子がない.
ただ、妙に目を丸くして、こちらをまじまじと見ていた.
自分から言い出したくせに、変な奴.
まあ食べないのなら貰っておこうと、そのままエックスは半分以上も食べ進め、アクセルの目と鼻の先まで近づいた.
鼻先が触れるか触れないかの近さで、軽い音を立ててプレッツェルを折る.

「はい.おれの負け.」

どうもごちそうさま.
唇に付いたチョコを舌で軽く舐めとり、真顔でそれだけ呟いて、エックスはアクセルから離れた.
アクセルは相変わらず放心したようにぽかんとした顔で、半開きになった彼の唇からは、ただくわえていただけのプレッツェルの切れ端がぽろりとこぼれた.
どうも様子がおかしい.

「アクセル?」

不審に思って名を呼ぶと、ようやく我に返ったように瞬きをして、慌てふためいたように喋りだした.

「えーと、その、エックス…」

「なんだよ」

「あのさぁ….……いや、やっぱいいや.何でもない」

「?」

落ち着かない様子で目を泳がせ、アクセルは続く言葉を濁らせた.
苦笑いで首を振るその不自然さは多少気になったが、彼が言いたくないなら特に問いつめる事もない.
それより久々の甘いものに味をしめてしまったので、もうひとつ貰えないかと訊ねようとしたその時.
すっくとアクセルが立ち上がり、どこかそわそわとしながら、すっかり冷えた紅茶のカップを二つ手にした.

「エックス、紅茶新しいの入れて来るよ.ちょっと待っててね.」

「え、いや、いいよ.次はおれが、」

次は自分が行く、と言い終わらない内に、アクセルはぱたぱたと部屋を出ていってしまった.
エックスはただ呆然としてその背を見送ることしか出来なかった.





処変わって、給湯室.
二つのカップを持って中に駆け込んだアクセルは、誰もいないのを確認すると、そのまま出入り口の戸をロックすると、壁にずるずるともたれ掛かった.

(うわー、うわー…)

今になって、ようやく顔が赤くなってきた.
綺麗だった.可愛い顔だと思った.
見とれてしまったのだ.
何気無い悪戯のつもりだったのに.しかも、いつもなら一蹴されてしまうような誘いだったのに、まさか乗ってくるなんて.

(それに、ヤバすぎだよ.なんだよあの…)

一口食べ進む度にちらりと見える小さな赤い舌やチョコの付いた唇に、伏し目がちの翠の瞳.
離れ際の顔の近さで、正直頭の中は真っ白だった.
危なかった.

「もう少しで、キスしちゃうところだった…」

火照った顔をぱたぱたと扇ぎながら、独りごちる.
"おれの負け"と言いながら、透き通った瞳で覗き込んできたエックスの表情を、当分忘れられそうになかった.






END.





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