ふたりが言うには郵便配達員のわたしがマリオさんたちの仲間になってから数日のこと。
陽射しが容赦なく照りつける午後2時。
カメキとクリオとわたしは、キノコタウンの一角にあるベンチに座っていた。
「カラカラタウンほどじゃないけど‥暑いっスね〜‥」
服をぱたぱたと扇ぎながらカメキが言った。
今、わたしたちは次の目的地につながる情報を集めるため、キノコタウンに滞在している。
しかし、なかなか良い情報は得られず、こうして3人で、木陰になっているベンチに座って休憩をしているという状況に至っている。
「頼みの綱はデアールのとこに占ってもらいにいったマリオだねー」
クリオが頬に手をつきながら言う。
「そうっスね〜。‥ピンキーが戻ってきたら一回マリオさんの家戻ってお茶しないスか?」
カメキの提案にクリオもわたしも賛同する。
さっきまで一緒に居たピンキーは、今はキャシーさんの家に行っている。
ついさっき、キャシーさんと道で偶然会い、「パンを焼いたんだけど、作り過ぎちゃって‥もらってってくれる?」というありがたい言葉を受け、わたしたちを代表してピンキーがキャシーさんの手作りパンをもらいに行ってくれているのだ。
「ピンキー‥ってどういう方ですか?」
ふと、わたしは二人に聞いてみる。
「え?」
二人が同時に聞き返す。
「はい。まだあまり話したことがないので‥。二人から見てどんな方ですか?」
マリオさんやカメキやクリオとは、こうして何度も話す機会があるのだが、ピンキーとはどうにも話す機会が巡ってこず、いまだに二人で話したことがないのだ。
「うーん‥。簡単に言うと、怖い・うるさい・自分勝手‥」
「頑固・わがまま・調子がいい‥」
カメキとクリオは次々とピンキーを表す単語を言っていく。
なんだか悪いイメージの単語ばかりそろっている気もしますが‥。
二人は今までの旅でのことを思い出しながら、さらにピンキーの特徴を述べていく。
「あと、すぐに手がでるよね。あれは直してほしいなぁ‥」
「あと、ムダに食べる!!お腹減ってると機嫌悪くなるから常になんか食べさせてないといけないんスよね」
などと、ピンキーについて思うことを止まることなく二人は喋る。
そして、言いたいことを全て言いきり、二人してすっきりした顔を見せたあとにカメキがひとこと、
「ま、そんな感じっス」
と言って話を締めた。
ピンキーのことというより、二人がピンキーのことをどう思っているのかがわかった気がして、「聞けてよかったです」とわたしも満足する。
と、その時‥
「よっ!!お待たせー!」
後ろから声をかけられ、ばっと一斉に振り向くと、そこには、先程までの話題の中心であるピンキーが立っていた。
彼女の腕に抱えられた紙袋から、パンのいい匂いがほのかにただよう。
予想以上に驚いてくれたクリオとカメキの反応に、ピンキーはけらけらと笑っている。
「なによ〜。そんなに驚かなくてもいいじゃない。あたいに聞かれちゃまずい話でもしてたの?」
「してない!!してないよ!!」
「けしてそんなことは!!」
二人のあからさまに慌てた様子に、ピンキーの目が鋭くなる。
「‥ちょっと何?本当に何話してたのよ?」
ピンキーの雲行きが怪しくなってきたのがわたしにも伝わってくる。
大荒れになる前に、正直に話した方がいいと思い、わたしはピンキーに向かって話し出す。
「ピンキーについて話してたんですよ。二人が言うにはピンキーは‥」
「パっ、パレッタぁぁあああ!!!!」
ばちん、とクリオとカメキが急いでわたしの口を手でふさいで、言葉の続きをなんとか食い止める。
二人とも、勢いよすぎて結構痛いんですけど‥。
「二人が言うにはピンキーは‥。」
わたしの言った言葉を、ピンキーは一文字ずつ確かめるようにゆっくりと呟く。
「ピンキーは‥。何なのかしら?」
にっこりと笑うピンキーからは、まがまがしいオーラがただよっている。
さー‥っ、とクリオとカメキの顔から血の気がひいていくのがわかる。
「べ、別に大したこと言ってないッスよ。ね?クリオ」
「う、うん!!」
「だったら正直に言いなさいよ〜。怒ったりしないから」
ムリヤリ作った笑顔と、いつもより高めの可愛らしい声で、二人に詰め寄る。
―正直に話した方がいいと思うんですけど‥―
二人ともピンキーから目をそらす。
そして、先に口を開いたのはカメキだった。
「こ、怖い・うるさい・自分勝手‥」
「頑固・わがまま・調子がいい‥」
カメキの言葉にクリオも続く。
ピンキーは笑顔を作ったまま聞いている。
「すぐに手が出る」
「ムダに食う。‥こ、こんなとこっスかねぇ‥」
カメキは、あははっと愛想笑いをする。
グシャッ!!
ピンキーの抱えていた袋がつぶれる。
キャシーさんのパンが‥!
「はい。正直に話してくれてありがとう‥。二人の言いたいことは、よぉぉーくわかったわ」
じりじりと近寄るピンキーから逃げるように後ずさる二人。
ボム兵であるピンキーの特性は爆発。
その体に触れたものを爆発に巻き込むことができる。
彼女の攻撃力のすさまじさは半端ではない。
「クリオ!!走るっス!!」
カメキの声とともに二人同時に走り出す。
「カメキ!!分かれて逃げよう!!ピンキーを巻いたらいつもの場所で落ち合う!いいね!!」
「了解っス!!」
「ちょっと待てぇええ!!なんだ、いつもの場所って!!なんであたいから逃げる手順が用意されてんだァ!!」
二人を追ってピンキーも走りだし、3人とも姿が見えなくなる。
一人取り残されたわたしは、ピンキーが置いていった紙袋の中身を確認する。
幸いなことに中のパンは無事でした。
それにしても‥。
「クリオもカメキも‥素直じゃないですね‥」
―正直に、最後まで言えば良かったのに‥―
ピンキーについて、二人が最後に言った言葉を思い出す。
『でもあれで結構優しかったりするんスよね』
『あの元気のいい声聞きたくなるときあるよね』
そして最後の最後、二人は声をそろえて言った。
『居てくれないと、困るかも』
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