珍しい。
いつもと変わらぬ屋上だけどいつも‥というかウザいほど纏わり付いてくる後輩が来ない‥珍しく。
現在放課後なう。
場所は屋上‥なう。
この時間帯になれば黄瀬が「加藤センパーイっ」とか言ってるのに今日はその声すら聞こえなかった。
別に寂しいとかじゃない。調子が狂うのだ。煩い後輩が急に来なくなって、何かこう‥‥イライラする。
とりあえず今日はそのまま帰ることにした。
***
「はよ、黄瀬」
翌朝、見慣れた金髪が目の前を歩いていたので声をかけてみたら本当に黄瀬だった‥‥けどそこにはいつもよりはるかに静かな黄瀬がいた。
「あ、加藤センパイはよっス」
「珍しいじゃん、そんなシラけた顔してさ‥‥何かあったの?」
「‥‥‥こないだ練習試合あったんスよ」
「こないだ?」
「そうっス‥‥‥はじめて負けたんスよ」
そしたらさらに表情までしょぼーんと落ち込み始めた‥‥え、なにコイツどうしちゃったの。
「で?」
「昨日はただそれで一日中考えてて気づいたら体育館にずっといたんス、なんだか急にバスケしたくなって‥‥」
「うん」
ポツリポツリと少しずつ話し始める。
「‥‥初めて負けてみて分かったんス、これが悔しいことだってこと」
「うん」
「だから‥‥肩貸してもらってイイっスか?」
最後はもう泣き声に変わっていた。屋上に来るときはただ煩くてウザくてしょーもないモデルとか思ってたけど‥‥案外違ったね。
「っ‥‥ふっ‥う‥‥」
私は黄瀬の背にとんとん、と落ち着くまでまるで小さい子をあやすように叩いてやった。
今日の私は珍しく黄瀬に反抗せず素直だったり。
まあ、明日にはいつも通りに戻ってるだろうけど。
「あ、鼻水ついたっス」
「イデデデデッ!」
「つけんなバーカ」
訂正、今日からだった。
――――――――――――
121124*加筆