白髪が一筋、光って見える。
杉浦の髪。
耳に掛かる長めの髪は直毛。
菅野は自分の髪の量がとても薄くて、しかも癖毛で、なんとなくそれを好きになれない。
自分自身を好きでいる為に、髪の事は考えたくない。
コンプレックスだとは自覚していない。
杉浦の髪に幾つか混じる白髪は好きだ。
年齢と、性格の繊細さが伺えて、好きだ。
杉浦の容姿が好きだ。
長身。
バランスの良い体型。
長い脚。
太すぎず痩せすぎない上半身。
細く切れ長の一重の目が好きだ。
高く美しい形の鼻はもっと好きだ。
自分はニヤニヤしていると誰もに言われるが、杉浦も常に微笑んでいる。
口の端が少しだけ上がっていて、それもとても好きだ。
恵まれた体型をしているのに、どちらかと言えば現場よりデスクワークが好きな所も好きだ。
長くて、関節の太い指も好きだ。
やや濃いめの体毛も好きで、それから。
ニヤニヤしてしまった。
「かんちゃんいやらしい事考えるのやめて」
杉浦に窘められる。
「なんでわかったんです?」
「顔見りゃわかるよー…かんちゃんのニヤニヤがもっとニヤニヤになったもん。ここ売り場ですよ」
「開店前ですよ」
「2分前だよ。はい、しっかり前見て。叫んで下さい菅野くん、いつもみたいに」
「はい了解です」
開店前の売り場の騒々しさ。
マエデンの社員が動いている。
自分達は携帯コーナー前の特設イベント会場で立っている。
開店。
菅野は息を吸って、声を出した。
「いらっしゃいませー!携帯電話コーナー前にて本日楽しいイベント開催致します!」
声を出すのは大好きだ。
人と話すのも好きだ。
多分自分は物凄くこの仕事が好きだ。
理由は幾つもあるけれど、元気に声を出すと杉浦は喜んでくれるし、楽しんで接客していると杉浦が褒めてくれる。
だからこの仕事が好きだ。
理由の全部がそれだけではないけれど、杉浦がいるからこの仕事が好きだと言うのには間違いはない。
20090623完