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明日、妻が実家に一泊すると言う。
「何があったの?」
「お父さんがね、入院するんだって」
「お見舞い」
「うん、適当に持ってくから」
そんな会話をしてから、思いついた。
「明日、菅野くん泊めていいかな」
「いいけど、どうして?仕事?」
「外に飲みに行くより安上がりかなって」
「あら、いい心掛けですねヒロキくん」
笑う妻に罪悪感。
美由紀さん、僕は浮気相手を自宅に連れ込む悪い男なんです。
菅野にメールする。
明日美由紀いないんだ。泊まりにおいでよ。
返信。
行きます!何持って行けばいいですか?
杉浦は少し考えてから、こう返信した。
花火しようよ。コンビニで買ってきてくれる?
翌日の晩、仕事を終えた菅野が、休暇だった杉浦の自宅のベルを鳴らした。
コンビニの袋を両手に持って。
ニヤニヤと笑っている。
「花火いっぱい買ってきましたよ!」
嬉しそうに。
杉浦も嬉しくて笑顔になる。
「先にシャワー浴びて来なよ。着替えは僕ので良かったら」
「おっきくないですか」
「大きいだろうけど、小さめなの用意するよ」
「了解でーすお借りしまーすお邪魔しまーす」
そう言いながらも我が家の様に。
菅野を居間に招き入れる。
「風呂はあっち。好きに使って。出たらビールあるからね」
「はい。あ、杉浦さんはビール飲みすぎないで下さいね」
弱いから。
苦笑いで頷く。
かんちゃんと飲むと楽しいから。
つい飲みすぎてしまうんだ。
菅野が風呂に向かう。
その小さめのスーツの背中を見て、ドキドキしてしまう。
変だ。
こんなのは変なのに。
それでも菅野の体にドキドキしてしまう。
菅野もそうなのだろうか。
浮気相手の自宅に来て。
食事をして。
酒を飲んで。
そしてセックスを。
最低で最悪の行為なのに。
ドキドキして止まらない。
これがスリルと言う物なのだろうか。
自分は最悪な人間だと頭で感じながら、体は菅野を求めている。
菅野もそうなのだろうか。
菅野がシャワーを浴びている音。
影。菅野の影。
扉の前に着替えを置いて、居間に戻る。
ソファに寛ぎ、ビールを先に開ける。
半分飲んだ所で、菅野が杉浦のパジャマに着替えてやってきた。
「やっぱちょっと大きいですね」
ニコニコしている。
袖口から指先しか見えない。
子供の様で可愛らしいと杉浦は思った。
「こっちおいでよ」
「はーい」
小さく跳ねる様に。
菅野は杉浦の隣に座った。
「パジャマ着るんですね杉浦さん」
「美由紀さんがね、パジャマ集めるの好きなんだ」
「ローブのイメージしか無いからなぁ」
「僕だってそうだよ。かんちゃんは裸のイメージしか無い」
笑いあう。
菅野が瞼を閉じた。
「ビール下さい、口移し」
突然の台詞に杉浦は戸惑う。
心臓がけたたましく音を立てはじめる。
言われるがままに、ビールを口にし、菅野に口づけして、流し込んだ。
菅野の喉が鳴る。
その音がなんだか卑猥な響きで、杉浦は堪らず菅野を抱きしめた。
菅野も杉浦の背中に腕を回してくる。
その後のキスはいつものそれで。
お互いを確かめ合う甘噛のキス。
充分満足する口づけを堪能し、二人の唇が離れた。
菅野がニヤニヤしている。
「激しいですね杉浦さん」
「そうかな…」
「そうですよ。まだ花火もしてないのに」
「そうだね。メインイベントなのにね」
「ビール持ってやりましょー」
「うん」
自然と、手を繋ぐ。
杉浦の片手には一本の缶ビール。もう一方には菅野。
菅野の片手には花火セット。もう一方には杉浦。
花火をしながら、口移しのビールを楽しむ。
その後は朝までベッドで語り合った。
体でも、心でも。
20090710完
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