会いたくて死にそうだ。
会いたくて会いたくて、会えないだけで死にそうだ。
気が狂いそうだ。

「杉浦さん」
菅野は堪らなくなって杉浦に電話を入れた。
3コールで、杉浦が出た。
安心した。

『どうしたー。何かあったかー』
「ありました」
『非常事態?』
「はい、緊急です」
『営業所行けばいいかい』
「はい、今すぐお願いします」
『うん、ちょっと待って。美由紀さん、出てくる。かんちゃんピンチ。うん、泊まりになる…かんちゃん、今すぐ行くから』
そう言って、切れた。

杉浦はこの電話をどう思っているのだろう。
本当に自分の仕事上の危機だと思っているのか。
それとも、また自分の気まぐれの、セックスの誘いだと思っているのだろうか。

危機は危機だ。
気が狂いそうに会いたいのだから。
営業所内で事務処理残業をしていたら、気が遠くなりそうだった。

仕事は好きだ。
成功すれば杉浦が褒めてくれるし、いつも笑って元気でいれば、杉浦は喜んでくれる。
だから仕事は大好きだ。

それでも、それだからこそ、杉浦のいない所では自分の威力は半減する。

20分で営業所の扉が開いた。

「お疲れ」
杉浦が微笑んでいるのを見て、一気に疲れが表面に出た。
泣きそうだ。
笑ってなきゃ、杉浦さんに好かれないのに。

「杉浦さん」
「どうしたー?駄目かい?手伝える事あるかな」
「杉浦さん、こっち来てください」
「うん」
杉浦は私服で。
自分はよれよれのワイシャツで。
杉浦から、いい匂いがする。
風呂に入った後の匂い。
自分は風呂にも行けずに事務処理。
馬鹿らしくなる。
一日、たった一日、杉浦が休みだっただけで。

杉浦は菅野の前にしゃがみこんで、菅野と視線を合わせる。
「珍しいね、菅野くんが泣き事言うの」
そう言って微笑む。
「何を手伝えばいいかな。僕に出来る事ならするよ。徹夜になったっていいよ」
「杉浦さんとどっか行きたい」
「そうだね、仕事終わってからだね」
「終わったんだ。終わらせた、さっき。だから遊びに行きたいです」
「そうなの?じゃあ行こうか」
「…怒りませんか。怒らないんですか」
「怒らないよー。だって仕事終わったんでしょ?良かった。僕はかんちゃんほど仕事出来ないからさ。一人で終わらせたんだ。偉いなーすごいなーかんちゃんは」
呆れるほどに、杉浦は優しい。甘い。菅野に甘い。
甘えついでに、ねだってみる。

「僕、エライですよね。頑張ったもん。だから、褒めてください。頭撫でて」
「うん、いいよー」
杉浦は右手を伸ばし、菅野の頭を撫でる。
心地いい。
杉浦の広い掌。優しい。
「かんちゃんお腹空いてない?」
「空きました…」
「食べに行く?」
「…先に風呂入りたい…」
「そう?どっか泊まりに行く?」
菅野は頷く。
杉浦から誘いの言葉。珍しい。
それほど自分は弱っている様に見えるのだろうか。
確かに弱っている。
ここ数日徹夜が続いた。
今日で一段落つくだろうと思っていたが、自分を支える要の杉浦は休みだった。
頑張れるはずがない。
そう思った瞬間に、落ちた。

自分は、思っている以上に杉浦に依存しているようだ。
「杉浦が思っている以上に」。
自分ではそんな事は百も承知している。

杉浦がいるから頑張れる。
杉浦が褒めてくれるから、毎日笑っていられる。

「かんちゃん、行こ?」
「杉浦さん、その前に」
「なーに?」
しゃがむ杉浦の首に両手を回し、引き寄せて、口付けた。


20090705完



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