耳の中が気になる。
痒い。

菅野と二人で出張中の、隣県。
一仕事終えてホテルにて。

「僕、いーの持ってますよ」
そう言って菅野は自分のスーツケースから、小さな小さなバッグを取り出した。
それを渡され、中を見る。
爪切りや絆創膏や毛抜きや、耳かき。
「おお、耳かきー!使っていいのかんちゃん」
「いいですよ、と言うか寧ろ」
菅野は杉浦の手から耳かきだけを奪った。
「何すんのーかんちゃん」
「僕が、やって差し上げます」
「やだ」

思わず拒否してしまった。
菅野がニヤニヤ笑っている。
下から、杉浦を見上げている。
腹が立ってくる。

なんでこんな可愛い顔してんだろ、かんちゃん。

決して女性的な顔立ちではない。
大きな目をしているが、整った、どちらかと言うと男らしい顔付き。
シャープで賢そうな、凛々しい顔。

顔が可愛いんじゃないんだ、仕種かな。
杉浦は思う。

顔も好きだけど、なんかこう、仕種が。

原田店の竹中はオカマだが、口調こそオネエなのに仕種は男性的だ。
あれはアスリートのなせる仕種か。

菅野の仕種、手の動き、自分を見る表情。
それらは何か違う。

女性的ではない。
オカマでもないのだろう。

一番しっくり来るのは「ぶりっ子」だ。
昭和な響き。

菅野は耳かきを手にして、先をクルクルと回している。

「かんちゃん不器用っぽいから嫌だよ、怖いよ」
「僕は手先不器用かもしれませんが、不得意な物は無いんです」
「意味わかんないよー。絶対血が出る…」
「杉浦さんの耳から出血、耳の処女イタダキ」
「怖いこと言わないでよ菅野くん」

ツインのベッド、窓側はいつもじゃんけんで決める。
勝った方が窓側。
いつの間にかそんなルールになっていた。
今日は杉浦が窓側。

ドア側のベッドに菅野が腰を下ろす。
膝をトントンと叩く。
「さあ、どうぞこちらへ。カンノエステですよ」
「そのエステって、なんだか摘発されそうだね…」
「当店性風俗的なサービスは行っておりませんよ?」
「…嘘つきー」
杉浦の呆れた声に菅野が笑った。

またトントンと膝を叩かれる。
諦めて菅野の横に座る。
「痛くしないでねー」
「女の子みたいな事言わないで下さい、笑ってしまうから」
「奥まで入れないでね?怖いよかんちゃん」
「ますます女の子だなー!」
ケタケタと大笑いする。
菅野の膝の上に頭を乗せる。
顔を菅野の体側に向けた。
体が強張る。

髪でさえ、他人に触れられるのが苦手だから散髪に行けない。
妻に毎月切って貰う。

それなのに耳の中なんか。
怖いなぁ。
かんちゃんだからもっと怖いよ。

カリカリ。
耳の中で音がする。
カリカリカリ。
耳の中の掃除開始。

思っていた以上にそれは心地好い。
意外だ。
器用なのかな、かんちゃん。
カリカリカリ。
気持ちいい。
眠くなってきた。
カリカリ。

「結構器用でしょ、僕。こういうの得意なんです」
「うん、気持ちいい…ホント、菅野くんに不得意な物って無いんだねぇ…」
「苦手なのは杉浦さんの扱い方くらいかな」
「…一番得意でしょソレ」
「さぁ。どうかなぁ」
ニヤニヤ。カリカリ。クスクス。カリカリカリ。

菅野の体温も心地好くて、杉浦は少しだけ、夢を見た。

ほんの少しの時間に見た夢。
起きた時には、内容は忘れてしまっていた。


20090617完



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -