仙台駅構内。

普段は仙台と言えば車で乗り込む。
いつも来ている。少なくとも月に一度。なのに。

ホームに降り立った瞬間、不思議な、なんとも言えない感傷的な気分になってしまった。

ここまで来た。
やっとだ。やっと。

杉浦は思い切り仙台の空気を吸い込む。
生乾きの仙台。
秋田を出た時は雪が降っていたのに、ここは快晴の様だ。
暖かい。

長く広い階段。
ああ、こんな所だったよな。
そうだ。
杉浦は階段から後ろを振り返る。
壁面に、エルデータの巨大な広告。

ああそうだ。竹中が言っていた。

仙台行ってアレ見ると、なんかやる気出るのよね。何でかしら。わかんないけど。

ちょっとだけ気持ちがわかるよ、タケちゃん。

今、僕はやっと菅野に追いついた。
終われて、追いつかれて、追い抜かれて、今度は僕が追って、逃げられて、そしてやっと追いついた。

捕まえた。

離さない。

もう、菅野くんを追いかけるのは疲れた。

全身全霊だ。
ここまで、遠かった。
もう、あの小動物に逃げられたくない。
今度逃げられたら、もう二度と捕獲出来ないだろう。

「お疲れ様です。何を難しい顔してんですか」

階段下方から、あの声。
菅野がいた。

ニヤニヤと笑って。

杉浦も笑顔で応えた。

一歩一歩降りて行く。
菅野と並ぶ。

「なんで新幹線?」
「廃車にしたんだ」
「どうしてです?」
「こっちで新車買う約束を美由紀としてしまってさ」
「いいなぁ。子供いないっていいですよね、そういう時」
「こういう時だけだよ」

杉浦は真っ直ぐに菅野と視線を合わせた。
見逃したく無かった。
菅野を見ていたい。そう思った。

菅野が嬉しそうに笑う。

「杉浦さんが僕の事きちんと見てくれるの、初めてじゃないですか?」
「そんな事ないよ」
「ありますよ。いつも目を逸らされるよ」
「逸らさないよ。もう、逸らさない。かんちゃんだけ見てればいいって事がわかった」
「…へぇ」
「遅くなってごめん、かんちゃん」

さっきまで笑顔を崩さなかった菅野の表情が硬くなる。

「やっとかんちゃんに追いついた。でもまぁ…今度は本社に行きそうだけどね、君は」
「…そう思うなら」
菅野は笑顔を作らなかった。
眉を寄せて、杉浦を見つめる。
いつものふざけた表情は無い。

「そう思うなら、杉浦さんも」
「うん。僕頑張るね。ちょっとしんどいけどなー。かんちゃんみたいに張り切れない」
「東京仙台間走る方が疲れるよ」
「うん、そうだね。頑張る」
「お願いします杉浦さん」

スーツ姿で見つめ合う二人に周囲は無反応だ。
ただ雑踏の中に紛れて。

菅野が口を開く。
「長旅お疲れ様です、杉浦さん。今後は東北エリア、一緒に盛り上げて行きましょう」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします菅野さん」
杉浦は菅野に頭を下げた。


菅野はマエデン東北販路からハイジマランド販路へ異動になった。
後継として、杉浦がマエデン販路担当になる。

初めて杉浦と菅野が出会ってから、5年。
これからも、鬼ごっこが続くんだろうな。
杉浦は菅野を見て微笑む。
菅野はやっといつものニヤニヤ顔に戻り、いつもの様な台詞を言う。
「さてさて、お疲れでしょう杉浦さん。牛タン定食の後にお昼寝タイムって事で」
「うーん…うん、ホントに、ちゃんとお昼寝させてね?」
「いいですよー今日僕山形行ってる事なってるんで」
「…よくそんなんで…」
「数字出せばいーんですよ数字。結果」
「その通りなんだけどさ」

駅を出る。

仙台駅前。
柔らかく暖かいビル風。
二人で前を見て、歩く。
歩いて行く。



20099611完


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