指圧?
押せって事なのかな。

菅野は深く考えず、その印を人差し指で突いた。

「うわ!ビックリするよ、なぁに菅野くん」

杉浦のスラックスの、膝裏に付いていた水色の丸シールを押した。
それだけ。

「押せって言うマークなのかと思って」
杉浦の反応が面白かったから、ニヤニヤしてしまう。
振り返り屈むようにして、杉浦は自分の膝の裏を見た。

「あー、アンケート用のシールかな、これ。どこかで引っ付いて来たんだよ」
「どうすればそんな所に付くんですか」
「誰かにふざけて貼られたのかなー」
杉浦は、表情を余り変えない。
自分はいつもニヤニヤしている、と杉浦だけではなく殆どの菅野を知る人物から言われるが、杉浦もいつも微笑んでいる。
その表情からの変化は少ない。

杉浦は静かにシールを剥がす。
杉浦の周囲の空気はとてつもなく穏やかだ。
それがとても菅野は気に入っている。
落ち着いた大人の空気。
大騒ぎの前の静かな空気。
杉浦を包む空気はとても穏やかなのに、杉浦自体はいつか爆発するのではないかと言う危機感も持っている。
その危うい感じもまた、菅野は好きだ。

窓の外。
隣のビルと、快晴の青い空。
こんな良い天気に、自分達は暑いスーツを着て、ネクタイを締めて、書類の整備だ。
馬鹿らしくなる。

「…遠くに行きたいですね」
「例えばどこに?」
杉浦は菅野に背を向けて、プリンターから出力される書類の山を眺めている。
二人共、集中力を欠いていた。
「そうですね。山とか海とか」
「かんちゃん泳ぐの得意そうだね」
「得意ですよ」
「僕も泳ぐの大好き。海なんかしばらく行ってないけど」
「キャンプとかバーベキューとかしたいですね」
「山だと圏外になりそうだよね」
「うちはここいらエリア狭いですしね…あー遊びに行きたい…」
杉浦が振り返る。
「かんちゃんもそういうこと言うんだね」
「えー?」
「かんちゃんは仕事の事しか考えて無いのかと思ってたよ」
「仕事も好きですけど、遊ぶのはもっと好きです」

杉浦さんと遊ぶのはもっと好き。
瞳で伝える。
杉浦を真っ直ぐに見つめる。
すると、杉浦は視線を背ける。
はにかむ表情が好きで、いつも真っ直ぐに見つめてしまう。

赤いシール。
杉浦の肘の裏に。
「また着いてる」
「え?どこ?剥がして菅野くん」
菅野は杉浦に近づいて、シールを剥がした。

何でもないこんな時間も、本当は楽しい。


20090610完

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -