伊東テルカはバックヤードでエルデータの担当営業を発見した。

「杉浦さん、カッター台見つけられたんですね。よかったですー」

声をかけると、長身のエルデータの営業は微笑み、

「うん、よかったですー」

と答えた。


一方その頃、売り場にて武藤モコは、キョロキョロと辺りを見回すもう一人のエルデータ担当を見つけた。

「菅野さん誰探してるんですか?竹中さん?辺見さん?」
菅野はモコを見るといつものニコニコ顔で

「杉浦さん見かけませんでした?見失っちゃって」

と。


テルカは自分を棚に上げ、
「杉浦さんてポンワカしてるなぁ」
と思い、モコは菅野を見て
「どんだけ杉浦さんが好きなんだこの人」
と感じた。

竹中がそれを聞いて鼻で笑う。

「タケナカから言わせて貰えば、どっちもどっちのバカップルなんですけどぉ?」

テルカとモコは公認バカップルだった。
同性愛者である事を隠してはいない。
オープンにしていたが、付き合い初めて日が浅く、キスまでしかしていないとテルカは竹中に報告した。

「バカップルばっかりで羨ましいなー」
竹中の相方、辺見ナオコはテルカとモコを見つめて微笑む。
「辺見さんはダメンズにばっかりハマるからだよ!」
テルカが突っ込むと、竹中も頷く。
「辺見ちゃん、タケナカの行きつけのボーイズバーに行きましょう。今日行きましょ。どうせ今日もテルモコに当てつけられて、その上スギサマカンカンまでいるのよ!胃がもたれるわ!酒でも飲まないとやってられないわよ」
「杉浦さんと菅野さんはフツーでしょ?」
モコが問う。
竹中は舌打ちして答えた。
「甘いわモコさん。誰でもタケナカやテルモコみたいにセクシャルマイノリティをカムアウトしてるだなんて大間違いよ」
「仲良しなのは事実だけどね」
テルカはそう言いながら、遠方に杉浦と菅野の姿を発見した。
「エルデータのバカップル来たよ」
「うあーん。今日はスギカンいる間に契約入ればいいなぁ」
「辺見ちゃん、甘い事言っちゃダメよ!必ず契約するわよ!でないとカンカンのいつもの」

『後3台売りましょうね!!』

4人の小さな声で菅野の物真似。

「お疲れー。どう?どうって言うか、誰もいないねーお客さん」
杉浦の挨拶。
エルデータの二人が笑顔で返す。
「お疲れ様です杉浦さん、菅野さん。何食べて来たんですか?」
辺見が当たり障りの無い質問をしている間に竹中は売り場中央でエルデータ端末を眺めている客に走り寄る。

菅野はマストのスタッフであるテルカとモコに声をかけた。
「マストは新規も好調なんですよね、原田店」
「原田市はマスト天国ですもん」
テルカが答えた。
モコは思い出して菅野に言う。
「杉浦さん見つかったんですね、良かったです」
「うん、良かったです」
菅野の笑顔は固定化されているのに何故か眩しい。
そう感じながら、テルカは菅野とモコの会話を、どこかで聞いたような気がして記憶を探った。

「どこにいたんですか杉浦さん」
「3階のトイレで見つけたよ」
「…へー…」

モコがテルカの脇を突く。
余計な事聞かないのテルカさん。の、合図。

竹中がカウンター付近へ走って来る。
「辺見ちゃん、バタフライの青1台!」
「了解ー」
辺見がバックヤードに向かう。
「新規?機変?」
「MNPよぉスギサマ。ごめんねテルモコ、マストからイタダキ」
「おおー。竹中さんが珍しくやる気出してるー」
「余計な事言わないでよテルさん」
1台くらいどうって事ないもんねー。
テルカは微笑む。

「さて、テルカさん」
「はーいーモコさん」
「そろそろウチらもマストの真髄見せますか」
「そーだね。エルデータの倍新規出すよねー」
それを聞いて菅野が更に笑顔になる。
「凄いなマスト」
「バカップルパワーですよー」
「バカップルだって、杉浦さん」
テルカと身長の変わらない菅野が、覗き込む様に杉浦を見た。
杉浦が少しだけうろたえたように、テルカもモコも、見えた。



20090608完


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