携帯電話企業エルデータ。
その量販店販売員の制服は、ネイビーを基調としたマリン風のポロシャツ。
スポーティかつスタイリッシュなイメージでデザインされている。

競合企業も同じくポロシャツだが、鮮やかな緑を基調とした企業と派手なピンクの企業、それから目に痛い程の黄色の企業と、シックなパープルの企業。

それぞれのイメージカラーで作られている。

杉浦はそれを着用した事が無い。
似合うのかな、と想像しては見る。
似合わないな、と客観的に思う。

菅野は似合っていた。

他社のスタッフが下に黒のパンツを合わせるのに対し、エルデータだけは白いパンツの着用を基本としていた。
女性スタッフには改善を何度も要求されていたが、ネイビーのマリンポロに白いパンツは人目を引き目立っていて、杉浦はそれを気に入っていた。

二度目に会った時、菅野の制服姿は今まで杉浦が見た誰よりも着用者に似合っていると感じた。

最初に菅野と会ったのは、面接の当日。
少しだけ履歴書を眺めただけで、後は派遣会社に任せるつもりでいた。

菅野はその日、当然スーツを着ていた。
何よりも最初に、小さいな、と思った。
菅野も杉浦に対し、大きいな、と思ったらしい。
緊張している様子は伺えなかった。

営業所内。
「結婚してるんですよね」
杉浦が尋ねると、菅野はニッコリと笑い、
「はい。子供は二人。早く仕事したいです」
と答えた。
職歴を見る。
前職から今日までの期間が一年近く開いている。
何かあったのかと問うと、
「貯金とバイトで繋いでいました」
と菅野は答えた。

深くは触れず、前職について幾つか質問し、今月末に研修に参加し来月頭から働いて貰う旨を伝えた。
それを聞いた菅野は、終始微笑していたその頬を緩めて、
「ありがとうございます」

はっきりとした口調で。
意思が強そうだな、と杉浦は思った。

「カンノ…ヒデキさん」
「はい」
「関係無いですけど、私はヒロキなんです」
笑わせるつもりではなかった。
なのに何故か派遣会社の担当と菅野が吹き出す様に笑った。
似てるな、と思ってつい口から出ただけなのに。
杉浦は少しだけ恥ずかしくなった。

その時に見た菅野の笑った顔を忘れられない。
最初の微笑より、次に見た笑顔より、その耐え切れず吹き出してしまった自然体の表情が。

ああ、いい顔するな。
この子は売るな。
そう感じ得たのだ。

そうして、マリンポロを着た菅野を確認すると、杉浦はその予感を更に強く感じる。

菅野ヒデキが本店に入った翌日。
様子を見に行った。
遠目からでもオーラが違うと思えた。

背筋を真っ直ぐに伸ばし、前を見て、菅野よりも年若い先輩に笑顔で受け答えし、誰よりも先に客へ挨拶をし、アプローチを掛けて。

なかなかいないんだよなー、こういう積極的な新人。
拾い物だな、これ。
それが杉浦の感想。

菅野の傍に歩み寄る。
杉浦に気がついた菅野は、ニッコリと笑った。
杉浦に会えた事を喜ぶかの様に。

「お疲れ様です杉浦さん」
「お疲れ。どう?慣れた?」
「今日で二日目ですよ、緊張してます」
「そうは全然見えないけどな。制服似合ってるからかな。違和感無いなぁ」
本心から褒める。
菅野が嬉しそうに笑う。
杉浦も釣られて笑顔になる。

「頑張ってね、バンバン行っちゃって、売っちゃって」
「はい、バンバン行きます。損させません」
「いいねー。頼りにしてるよ菅野さん」
「はい、頼りにされます」
受け答えもわかりやすい。
この子は大事に育てよう。きっと売れるスタッフになる。きっとじゃない。

必ず、だ。

小さな菅野を見る。
菅野も真っ直ぐに視線を返して来る。
初めてそこで気が付いた。

大きな目、瞳。

吸い込まれそうな。





菅野がマリンポロの制服を脱ぎ、代わりにスーツを身に纏い、杉浦の「部下」から「後輩」になるまで、これから1年強の時間を必要とする。




20090606完


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