遠くから騒々しい音が聞こえて来る。
騒々しいのに、好きな音。
杉浦は心地よさの中で菅野に声をかける。

「かんちゃん何考えてるの。さっきから黙って」
菅野が振り返る。
私服。
ラガーシャツ。
ニヤニヤと、いつもの笑い方。
「ゲイカルチャーと日本のゲイシーンについて勉強中なんです」
笑ってはいるが、真剣でもある。
杉浦が尋ねる。
「ゲイカルチャーって、どんななの」
「勉強中なんですってば。興味なかったからなー。ノンケだもんな基本。ハッテンバってここらだとどこなのかなぁ」
「かんちゃんそういうトコ行くの」
「行かないですけど?ただこの雑誌に携帯の特集あったんで買ってみたんです」
「そんなのやってるの。っていうか菅野くん凄いね、勇気あるなそんな雑誌よく買えたね」
「仙台で買いました。二度と行けないなーあの本屋…やっぱ杉浦さん的にはブリーフがいい?」
思わず赤面する。
「別に気にしないよ。かんちゃんもボクサーだよね…って言うか下着はそんなに…」
脱がせてしまうし。
「褌とかってどうなのかな」
真面目に考えている菅野に笑ってしまいそうになる。
かんちゃん、多分そういうのはね。そういうイイ体型の人達が好むんだよ?
かんちゃんは、言っちゃ悪いけど痩せすぎでちっちゃくて、その手のモノは似合わないんじゃないかな。
言いたい言葉を飲み込む。
「こういう感じなのかなって思ってラガーシャツ着てみたんですけどね」
「うん、似合うよ。明治だね」
やや貧相とも言える菅野の体を、横縞が見栄えをよくしている。
何着てたって、脱がしちゃうんだけどな。

杉浦は思う。
「無理してゲイカルチャー勉強しなくたって」
自分達は少しだけ変わっているのだ。
ゲイかと言われたらそうなのだろう。
だが、他の同性にそういった興味を感じない。
女性の柔らかさの方が好きだ。
自分よりも多分、菅野はもっと女性を好む。
だが、お互いとするセックスは好きだ。

かんちゃんは勉強家だなー。
自分がそういう事に関心事を持たないと言ったら嘘になる。
菅野と関係を持つだろう直前にはネットで同性同士のセックスについて情報を集めた。
それ用の道具も購入していた。
だが、菅野の様にオープンにはなれない。

「かんちゃん、あれ?」
いつの間にか菅野の姿を見失った。
心地好い騒音が近づいて来る。

「ヒロキくん、邪魔」
何かで突かれる。
今のは。

妻の声。

目を開ける。
自宅のリビング。
杉浦の妻が掃除機をかけている。
「ヒロキくんお昼寝だったらベッド行ってて」
「ベッド行ったら目が覚めちゃうんだもん」
「もー…体大きいから邪魔よー邪魔。さっきから寝言うるさいし」
「なんか言ってた?」
「仕事の夢じゃない?菅野くんの名前出てたわよ」
「…そう」
思わず下半身を確認してしまう。
勃起していたらどうしようかと思った。

ラガーシャツを着ていたのは、自分だった。


20090604完



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