杉浦さんの事で俺の頭の中は一杯だ。
俺、と自分を表現するのが照れくさい。
杉浦さんの前では、僕、と言うから。
杉浦さんも自分を示すのに「僕」を使う。
あの人が使う「僕」は品が良くて美しくて、当たり前の様にそれを口かにするら、耳に心地好くて、俺は何度も杉浦さんに話し掛けてしまう。
会話の中の杉浦さんの「僕」を聞きたくて。

「って事で、どうかなかんちゃん。本店は秋山さんに任せておけば問題無いでしょ?」
言わないなぁ。
「秋山さんにはかんちゃんから伝えて貰えるかな」
言わないなぁ。
「僕の言う事は皆聞いてくれないもん。かんちゃんの言う事は聞くのに」
あ、やっと「僕」と言った。
杉浦さんの「僕」は愛らしい。愛おしい。可愛らしい。
187cmの長身から発せられる「僕」。
「かんちゃん?どしたの、珍しいな、ボンヤリして」
向かい側のデスクから、杉浦さんの呆れた様な声。
導かれる様に、杉浦さんの顔に視線を送る。
杉浦さんは、少し顔を赤らめる。
まだ俺に見つめられるのに慣れていないんだ。
「杉浦さん」
「ん?どうしました?」
「杉浦さんて家に帰っても僕って言うんですか?俺、とか言わないの?」
「…あー…そうだね、言わないね。僕…だね」
「可愛いですね」
本心からそう思うから、言ってみた。
けど杉浦さんは俺のこの言い方を曲げて受けとったんだろう。
「かんちゃん、こう見えても僕先輩なんで…先輩に対して可愛いとか…僕、かんちゃんより六つもおじさんなんだけどなぁ」
「…年上に好かれるでしょ杉浦さん」
「かんちゃんほどじゃないよ」
「男じゃなくて、年上の女に。って、奥さん年上ですもんね」
「そうですよ」
「ですよねぇ」
どうにもならない会話をしている。
自分にも妻がいるのに嫉妬なんか。
そう、俺は嫉妬している。
杉浦さんに。
可愛い可愛い杉浦さんに。
俺だけを見てくれない杉浦さん。
杉浦さんは、本当の所はどうなんだろう。
俺の事はどう考えているんだろう。
杉浦さんは俺を間違って認識してるに違いない。
そうだ。俺は杉浦さんに「誤解されている」。
俺は決して杉浦さん以外の男は恋愛対象にならない。性欲も沸かない。これまでそうだった。所謂ノンケ。そしてこれからも。
杉浦さんだからこそ、なのに。
杉浦さんは誤解している。
きっと誤解している。
それでもいいさ、とも思う。
どう言い訳したって、杉浦さんは俺をそんな風に思っているんだろうから。
思わせておけばいい。
俺が杉浦さんを特別に思っている事は、俺だけが知っていればいいんだから。
「かんちゃん、秋山さ…」
「はい、任せて下さい。僕が杉浦さんの言い付け守れなかった事がありますか?」
さっきから秋山秋山うるさい。
いつも笑顔、が俺のスタイルなのに。
つい仏頂面で答えてしまった。
杉浦さんが不思議そうに、苦笑しながら言った。
「かんちゃんは僕の言い付け守んないよ…前だってあれほど言ったのに仙台会議の休憩の時に襲うし…」
「ちょっとトイレでキスしただけじゃないですか」
「…あんだけ止めてねって言ったのに、原田店に向かう前にホテル経由させられるし…」
「あれは杉浦さんも同意の上でしょ」
全部俺のせいにする。
そんな所も、杉浦さんの可愛い一部だと俺は思ってる。



20090504完



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