「僕、必要?」
「必要だから来て貰ったんです」
「僕は参考にならないと思うよ」
「そんな事ないです。さぁ、好きなの選んで下さい」

菅野が右腕を大袈裟に広げる。
郊外型のおもちゃ屋にて。
南が丘店からの帰り際に寄らせられた。

菅野の二番目の子供が、明後日誕生日だと言う。
杉浦は、そのプレゼントを選ばせられる。

「好きなのって言われてもなぁ」
「杉浦さんが欲しいのを選んで下さい。僕、考えるのが面倒になってしまって」
「面倒って君ね、子供でしょ。なんで面倒なの。普通はそういうの楽しみなんじゃないの?」
「女の子って何が欲しいのかわかんないんですよ。杉浦さんなら知ってるかと思って」

なんでだよ。
杉浦は呆れる。
なんで僕がそんなこと知ってるんだよ。

「僕、子供いないからわかんないよ。まして女の子でしょ?そんなの宇宙人に等しいんだけど」
「ね。女の子って宇宙人なんですよ。上と下は男だからなんとなく理解出来る。でも真ん中は難しいです。女だから」
「菅野くんが理解出来ないのに、他人の僕がなんで理解出来るんだよ」
「杉浦さん、可愛い物お好きでしょ」

意味不明の三段論法。

とりあえず杉浦は店内を物色し始める。

「流行りのアニメのなんかでいいんじゃないのー」
「そういうのが杉浦さんの好み?杉浦さんの好きなのを選んで欲しいんですよ」
「なんで?」
「ヒアリングを兼ねて。今後杉浦さんにプレゼントをする時の為の情報収集」
「僕おもちゃなんか欲しくないよ」
「傾向を知りたいんです」

菅野は変わっている。
スタンダードで真っ直ぐではあるが、時折理解に苦しむ奇妙さも持っている。

だからこそ、僕と違うんだよな。
杉浦はそう感じている。
杉浦は、楽しい事は好きだが、特別変わった事には興味が無い。
変化は余り好まない。
変化に着いて行きたくない。
着いて行けないのではなく、着いて行ってしまった時の環境の変わり具合にストレスを感じてしまう。

変わった事は苦手なんだ。
考える事が増えるから、嫌だ。

ならば何故菅野と?
それが杉浦にとっての今の最大の不思議。
自分でもわからない。
不倫相手は男。
しかも仕事仲間。
お互い結婚している。
こんな環境の変化を、自分が楽しんでいられる事が不思議だ。


視線が、そこに集中してしまった。
壁際の一角、ぬいぐるみコーナー。
大きな黄色いクマ。
赤いシャツの、あの有名なクマ。

「これがいい」
指を指して杉浦はそのクマを指名した。
「へぇ」
菅野が嬉しそうにニコニコと笑う。
「うん、これはいいですね。うちの子も喜ぶな、これなら。さすが杉浦さんだ」
「可愛いよね、大きなぬいぐるみ。…ハウスダストとか奥さん気にしないの?子供大丈夫?」
「ええ大丈夫。うちの子供達は健康そのものなんです。病弱な所一切無し」
「なんか、菅野くんの子供、って感じだねー」

太陽。
菅野は明るく、影が無い。
腹黒キングと呼ばれてはいる物の、それは業務における菅野のイメージであり、菅野自身に裏表は無いのだと杉浦は感じていた。

「んじゃコレにします。ありがとう杉浦さん」
そう言うと菅野はクマを二頭、手にした。
大きなクマと、それより一回り小さめのクマ。
痩せて身長も高くない菅野がそれらを両手に抱える姿は面白かった。
「二つも買うの?」
杉浦が問うと、菅野はニコニコと笑い、
「ちっちゃい方は杉浦さんに」
と答えた。
「えー?僕いらないよ。僕女の子じゃないよ、かんちゃんの子供じゃないし」
「いいからいいから。杉浦さんとコイツ、セットだと可愛いから持ってて下さい」
「えええ…うん、じゃあ貰おうかな…」
家に持ち帰れば、妻が喜ぶだろうと思った。
頭の中でも盗み見たのか、菅野は今度はニヤニヤと笑う。
「奥さんにあげるんじゃないんですよ。杉浦さんにあげるんですよ。家に持って行って奥さんにナニコレって聞かれたら、ちゃんと菅野から貰ったって言うんですよ」
「な、なんで?」
菅野は小声で答えた。

「不倫相手からのプレゼントが居間にある風景って、シュールでいいなぁと思って」

菅野らしい回答。
素直過ぎるから、腹黒さを感じてしまう。
菅野を腹黒いと感じる方が、実は腹黒いのだと杉浦は今、知った。

菅野が何かを思い付いた様な表情になる。
「杉浦さん」
「なぁに」
「居間より寝室に置いて下さい。そっちの方が」
「…もういいから早くそれ買ってきて…出ようよかんちゃん。いい加減スーツの男二人でぬいぐるみ見てるの恥ずかしいんだけど」
「一人はクマまみれだしね。了解、先に車で待ってて下さい」
菅野はレジに向かっていく。

杉浦はその背中を見て、なるほど、と思った。

菅野と関係を続けられる理由。
菅野がさばけているからだ。
スイッチの切替が上手だからだ。
家庭は家庭、仕事は仕事、杉浦は杉浦。
きっちりと分けられているから、付き合っていけるのだと判った。

店の外に出る。
快晴。
あと50キロ車を走らせると、営業所に戻れる。
かんちゃんとドライブ。
かんちゃんずっと助手席で喋ってるからなぁ。飽きないなー。
晴天を見上げた。


20090604完



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