辺見ナオコの同僚は、オカマだ。
名を竹中トモロウと言う。
高校の同級生だ。
竹中は高校の時からオカマである事を隠してはいなかった。
同性が恋愛対象になることも、隠してはいなかった。

「…竹中くんて、杉浦さんが好きなの?本気で?」
「そうよー。絶対落とすわぁ!」
「結婚してるよ?」
「恋と愛は違うとは思わない?」
「思わない」
「あらそう?タケナカは違うと思ってる。恋と愛、あとセックスも別よ」
「別じゃないよう。同じだよう」
「辺見ちゃん、アンタそんなんだから離婚されんのよ。堅苦しいから愛想尽かされて。カワイソウ!旦那が!」
「酷ーい。関係ないでしょ今その話!それにね、恋と愛とその、モニョモニョが別だったら、杉浦さんはどうなのよー」
「モニョモニョってアンタ、処女じゃあるまいし何かわいこぶってんのよ。そうね、スギサマとはセックスしたいわ。うん、したい!アンアン言わせたい」
「言わせたいんだー」
「そうよ。燃えるわ、考えただけで。タケナカの腕の中で快楽に悶えるスギサマ!いい感じに老けてきてる年上の背の高い上品なネコちゃん!たまんないわぁ!ヒィヒィ言わせたい!」
「そっか、竹中くんが男なんだっけ。たまに忘れるー」
「オトコよ!タチのオカマなんて珍しくないわよ」
「んー、なんで杉浦さん?菅野さんの方が顔いいじゃない」
「辺見ちゃんは可愛い顔してキツイ事言うわよね。それじゃスギサマがブサイクみたいじゃない」
「えー、だって菅野さんの方が凛々しい顔してるよぉ」
「好みじゃないものカンカン。あんな整った顔。確かに綺麗系で女にはモテそうだけど。それに年下だし。やっぱりスギサマが色っぽくて可愛いわー。年上だし上品だし」
「ふーん」

オカマの感性は理解出来ない、と辺見ナオコは思った。

「そろそろ来るかなぁ杉浦さん」
「そうね、来るわね」
「怒られるねー、売れないもんねー」
「在庫無いのに売れ売れなんて有り得ないの判っててスギサマは怒るのよぅ。それがスギサマの仕事なんだから」
「全然関係ないんだけどね、竹中くん」
「なぁに?」
「杉浦さんの私服、この前の改装の時に見たでしょ?」
「可愛かったわぁアレ。脱がせたかったわー」
「杉浦さんて身長あるから、他の服も似合いそうだよね」
「えっ?なあにソレ!面白そう!例えば?」
「作業着とか」
「ふぁああ!似合いそうよ!作業着なら青だわスギサマには!いいわ、いいわー辺見ちゃん!他には?!」
「自衛官とか、航空官とか」
「きゃぁあ!制服コスプレ!!今すぐ犯したい!!」
「お菓子?僕にも頂戴」

背後に、杉浦が立っていた。

辺見ナオコは戦慄した。
聞かれていた?
見ると竹中も青ざめている。
気がつかなかった。
話に夢中になりすぎた。

カウンター内に二人で入っていると注意を受ける。
正にカウンターで二人で書類等の整理をしながら私語していた。
これは。

「カウンターに二人で入ってるとね、マエデンから怒られるよー、僕が」
そう言いながら、杉浦は掌を差し出してきた。
微笑して。
「お菓子あるの?僕も食べたい」
「な、無いですよぅお菓子なんて」
竹中の声が上擦る。
「そうなの?お菓子の話してたから」
「あ、休憩室にあるんですっ」
辺見ナオコも焦ってフォローする。
自分のロッカーの中にチョコレートが幾つかあった筈だ。
「そうなの。じゃあ休憩の時に僕にも分けてね辺見さん」
「は、はい!」
「じゃあどっちか売り場に出てー。僕怒られるの嫌だよー」
「すみませんでした、タケナカが出ますっ」
慌てる竹中が、何も無い床で少し躓く。
辺見ナオコは笑いたかったが、笑える状況ではなかった。
杉浦は、本当に何も聞こえていなかったのか、ほんの僅かに口の両端を上げて、微笑んでいる。


20090603完


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