一次会でホテルに戻る。
ツインで取った部屋に菅野が残されていると思うと、飲んでいる場合ではないと考えてしまった。

ミーティング終了後、親睦会の名での飲み会が始まる。
そんな飲み会と言えば先陣切って乗り込む筈の菅野は、喉をやられていた。

風邪の様だ。
一次会さえ辞退して、ホテルに戻った。

杉浦はとりあえず出席してはみた物の、落ち着かない。
酒に強くないのを理由にして、ほろ酔いでホテルに戻った。

出来るだけ音を立てずにドアを開ける。
室内は薄暗い。
杉浦側のベッドの枕元にだけ、明かり。
静かに菅野のベッドまで進み、脇に腰を下ろす。
「ただいま、菅野くん」
寝ているだろう菅野に、小声で挨拶をする。
「おかえり、杉浦さん」
菅野の声。
「起きてたの」
「うつらうつらしてるだけで全然眠れないです…酒飲んだ方が良かったかな」
「…菅野くんがいないと、ああいう席は盛り上がらないね」
「僕がいなくてつまんなかったですか?」
「うん。皆ちょっと元気無かった」
「他じゃなくて、杉浦さんが」
「つまんないよ。僕、酒は好きだけど強く無いし…かんちゃんがいるのといないのとじゃ全然違うよ」
「早かったですね」
「菅野くんが心配だったから、帰ってきた」
「本当ですか。嬉しいなぁ」

菅野の声は渇いていた。
いつもなら流れる様に美しい明瞭な声。
喉が腫れているのだろう、苦しげに発せられる。
「無理して話さなくていいんだよ菅野くん」
「だから、僕からべしゃり取ったら何も残りませんって」
少し咳込む。
杉浦は菅野の頭を撫でた。
「喉渇いたでしょ。水と緑茶、どっちがいい?」
「水…」
「下のコンビニで買って来たんだ。ヨーグルトとか、あとケーキとか」
「…どういう組み合わせですか」
杉浦はふと考える仕種になる。
「美由紀さんが風邪引くと、こういうリクエストだから…」
杉浦の妻が熱を出した時。
菅野は眉を寄せる。

「ヨーグルトは食べたいかなぁ…ケーキはいりません」
「うん、ごめんねかんちゃん」
謝る事でも無いのに。
「杉浦さん、水」
寝たままで先輩に指令。
杉浦は微笑みながらコンビニの袋からミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。
「はい」
「口移しで。杉浦さんにも風邪引いてもらいます」
「うん、わかった」
ペットボトルの蓋を開け、杉浦は少量を口に含む。
菅野に覆い被さる様にして口を合わせる。
水を流し込む。
菅野の喉が鳴る。
「…はぁ…冷たい。もう一口下さい」
「うん」
同じ様に繰り返す。
二度目は最後に舌を絡ませあった。
熱を帯びた菅野の体がいやらしく感じられる。
菅野の匂いに、興奮してくる。

「かんちゃん、体、怠いよね」
「怠いですけど、明日は大丈夫ですよ。心配しないでください。薬効いてきたっぽい」
「そう。…今日は、かんちゃん抱いたら、ヤバいかな」
「…いいんですか」
「え」
「ホントに風邪引くよ、杉浦さん」
杉浦は慌てる。
熱のせいだろうか。菅野の大きな目、大きな瞳が普段以上に潤んで大きく見えて、愛らしい。

この顔にいつもやられてしまうんだよなぁ。

菅野は嬉しそうに笑う。
「僕ホント、性欲強すぎるんですかね。抱いて下さい、杉浦さん…あ、シャワー浴びてくる」
「いらない」
起き上がろうとした菅野の肩をベッドに押し付け、寝かす。
「かんちゃんの匂いが欲しいんだ」
「…やだよ、恥ずかしいって杉浦さん」
「恥ずかしくないよ」
菅野の首に舌を這わす。
塩分を感じる。
汗。
菅野の汗の味と匂い。
「やですって杉浦さん、綺麗な方がいいですって」
「ダメ。このままがいい」
菅野の耳を舐めると、過敏に反応した。

今日の自分はいつもより強引だ。杉浦はじんじんと酒で響く頭の中で考えていた。
菅野が大人しいからだろう。
弱っている菅野を抱きたい。
もっと熱を出させればいいんだ。
かんちゃんは元気なのがいい。
元気じゃないのも、いい。

杉浦は自分のネクタイを解いた。
その動作を菅野が見上げている。
誘っているかの様に潤む瞳。

「…こんな杉浦さんも、かなりいいね」
「そう?僕も、こんなかんちゃんもいいなって思ってる」
「じゃあ続き…」
「うん」

菅野のローブを開けた。


20090602完



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