「夜どーする、かんちゃん」

営業所内で杉浦に問い掛けられ、
「焼肉」
と答えた。

答えてから菅野は、失敗したな、と思った。
今日は早く帰れそうだから、と妻に午後一でメールをした。
だがそれも構わないか、とも思った。

可愛い妻と三人の子供達。
だが、愛する家庭よりも魅力的で離したくない物がある。
杉浦だ。

どうしようもなく純朴な大人。
子供の様に素直で、汚れていない大人。
菅野は杉浦をそう認識している。
良くも悪くも天然か。
大きな子供。
それが杉浦。
愛らしくて堪らない。

杉浦と体の関係を持った時、正直思っていた事と違っていた現象が起きた。

菅野は自分が「抱かれる」側だとは思ってはいなかった。
自分が杉浦を抱くのだと思っていた。

実際事に及んで見ると、それは菅野にとっては些細な内容だった。

杉浦と肌を重ねる。
それが最優先事項。

自分を抱く杉浦は、男の目から見ても頼り甲斐ある男らしい人物。
女の様に声をあげて杉浦に縋り、杉浦の名を呼んでしまう。
考えてもいなかった現象。
だが、それも悪くはなかった。

「焼肉かー」
杉浦が考える様にして天井を見上げる。
「なんか、照れるんだけど」
癖が出ていた。小鼻を掻いている。
菅野が尋ねる。
「照れる?なんで?」
「えー…なんかホラ…つきあってますーみたいじゃない」
いつの時代の思考回路なんだろう。
これが六つ年上の発想と言う物なんだろうか。
「誰も男同士で焼肉食べたって、付き合ってるだろみたいな発想になりませんよ」
「そうかなぁ」
「そうですよ。杉浦さん考えすぎですよ」
「セックスしてます僕達、みたいに見えないかなぁ」
「見えないですって。見えてもいいじゃないですか」
「…ん。そうか。見えてもいいかな」
「いいですよ」

菅野は杉浦の考え込む表情を見て、ニヤけてしまう。

可愛いんだよなぁ、杉浦さん。

大きな体をして、少年の様に素直で。
自分には無い真っ直ぐさで。
だから、杉浦に夢中になる。

「杉浦さん何時に終われそう?」
「んー…22時…」
「僕が手伝えば?」
「2時間前倒し。かんちゃん優秀だから」
「了解、手伝います。余った2時間僕に下さい」
「いいよー。僕はかんちゃんのいいなりだからさ」

笑いながら菅野は席から立ち上がり、杉浦のデスクへ向かう。
杉浦から書類の一部を受け取る。
立ち去る前に杉浦の頬にキスをすると見せかけて、耳を軽く噛んでやった。

杉浦は驚いた様に体をくねらせ、耳に手を当てる。

「ビックリするよ菅野くん」
「ビックリさせたかったんですよ」

だって杉浦さんが可愛いから。


20090601完



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