明るいのに雨が降っている。

濡れてしまう。
かんちゃんが濡れてしまう。

杉浦と菅野は、雑木林の中にいた。

「こっちが近道なんじゃないですか」
菅野に誘われた。だから着いて行った。
迷った。

ビジネスホテルから南ヶ丘店へ向かう道のり。
通常なら徒歩で10分もかからない場所なのに、二人はその倍以上の時間を雑木林の中で過ごしている。

何時に到着、とは伝えていないからブラブラと散歩するのも今日ならいいだろう。
しかしにわか雨。

明るい日差しの中に降り注ぐ雨。
かんちゃんが濡れてしまう。

ぐしゅん、とくしゃみ。
杉浦が。

背後から菅野の笑う声。
「早く抜け道見つけないと杉浦さんが風邪引いちゃうな」
濡れる面積が大きいからだ、と杉浦は思った。
菅野くんは小さいからきっとあんまり濡れないんだ、と。
雑木林の中。

菅野の手を引っ張る。
「手繋ぐのって新鮮ですね。デートみたいだ」
からかう様に菅野が笑う。

デートね、デート。
ザクザクと木の葉の上を二人で歩く。
初秋のにわか雨。
寒くないのかな、かんちゃん。
小さいな、かんちゃん。
濡れてるよ、かんちゃん。

歳の差は六つ。
弟の様だし、子供の様だ。
杉浦に子供はいないが、菅野の様に明るく前向きで太陽の様な息子ならば可愛がるだろうと思った。

手を繋いで歩く。
木の葉の音。

「あ」
菅野を引っ張る杉浦が足を止める。
「どうしたんです?」
「段差が激しいよ」
1メートル程の落差がある場所に出てしまった。
杉浦は菅野の手を解き、先に降りる。
軽く飛ぶ。
下から菅野を呼ぶ。

「おいで」
手を差し延べて。

菅野は笑顔を更に笑顔にした。
「かっこいいな、それ」
杉浦は恥ずかしそうに頬を少しだけ緩め、紅くする。
「なんで?普通でしょ」
「普通『おいで』なんてかっこよすぎて言わないよ」
「いいから、おいでって」
杉浦は腕を広げる。
「僕結構重いんですよ?」
「大丈夫だよ。菅野くんの一人位キャッチできるよ」
「じゃあお言葉に甘えて」

菅野も軽く、跳んだ。
杉浦の胸の中に飛び込む。
杉浦は少しよろけながらも、菅野を受け止めた。

「あは。かっこいいな杉浦さん」
「かんちゃん小さいもん。受け止められるよ」
「かっこいいなぁ」
抱きしめられた状態で、菅野は杉浦を見上げた。
見つめられ、杉浦は照れる。恥ずかしくなる。
菅野が瞼を閉じた。
菅野の喋らない静かな口に杉浦の唇が重なる。

にわか雨。
明るい雨。
濡れる落ち葉。
静かな雑木林。
長く、口づけた。


20090530完


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