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White&Green
山王大通りが少しだけ渋滞している。
早朝から降り出した雪の所為だ。
ゆっくりと進む社用車の中で菅野が笑顔でこう言った。
「さて、今日は県立スケート場行きましょうか」
次から次へと菅野のサボり案が沸いてくる。
きっと独身時代もこうだったのだろうと杉浦は思う。
女性とのデートでも、菅野は次々とコースの提案をしていたのだろう。
そしてスケート場もこれまで何度も組み込まれていたスポットの一つに決まっている。
なんとなく面白くなくて、返事をしなかった。
菅野が例のアヒル口をして見上げてくる。
「どーしたんです?お返事はー杉浦さん」
無視する。運転中だから、と言う無言のオーラを出してみる。
しかしそんなものは菅野には見えないし感じられない。
土足で杉浦の中に進入してくるのが菅野だ。
「スケート、杉浦さん出来る?上手そうだなぁ」
おだてるように。
見え見えで腹立たしい。小馬鹿にされているのだ。
一切返事をしない杉浦を気にする様子もなく菅野が続ける。
「はー。寒くなってきましたねぇ。客足鈍ってるのかなぁ。本店だけでも必死になってもらわないとなあ」
助手席側の窓に向かって息を吐く。
白く曇る。
そこに菅野は升目を描いた。
3×3。
何をするのか予測できた。
「僕ねー、小学校の時ねー、バスで通ってました。スクールバス。僕らの時ってまだ子供多かったですからね。杉浦さんもかな?竹中さんと辺見さんくらいが第二次ベビーブームって奴でしたっけ。一番多い時ですよね」
そうなのか。よくは知らない。
「今は子供って少ないって言うでしょ。僕あんまり感じないんですよね。うちの二番目が待機児童って奴でさ、なんだよ子供多いから入れないかよとか思ってたら違うんですってね。入れる園が無いんだって。信じられないです。変な感じだな」
杉浦には子供がいない。
また少しだけ胸がちくりと痛むような気がする。
暗に子供が出来ないのは杉浦のせいだと言われているような気がしたからだ。
当然そんなものは気のせいだ。
「……かんちゃんとこは三人もいるからねぇ。確かに本当に少子化なのかなって思うね」
「でしょ?」
自分の所にいない分だ。
心の奥底に仕舞って置く言葉。
「でね、バス。スクールバスでね。よく友達と……こういうマルバツゲーム?って言うのかな。やりました。真ん中取ったらもう勝ちですよね」
そう言って菅野は升目の真ん中に円を描いた。
「……かんちゃんは小学生の時ってどんな子だったの?」
「えー。どうってことない普通の子でしたよー。元気でねー。夏は海行って冬は山行ってスキーして……中学くらいからかな、スノボになりましたけどね」
「スキーいいね。今度行こうよ滑りに」
「滑りに……うん、いいですね。でも僕はクロカンだったんですよ」
「ああ、歩く方なんだ」
「はい。ひたすら歩くの。何が楽しいんだかね。でも小学生の時はアルペンよりも夢中になりました。歩いて歩いて歩いて。その反動のスノボなんですよね」
「ふうん。じゃあスケートは?」
「スケートなんてやったことないですよ」
「え?」
思わず菅野を見てしまう。
助手席から菅野が笑う。
「スケートってこの年齢までやった事ないです。だから行きたいなって。もうオープンしてるでしょ?杉浦さん教えてよ」
「やったことないの?珍しいね。そういうの好きそうなのに」
「やった事無いことの方が多いですよ。僕は杉浦さんと違って経験不足なんです」
「僕は、うん、まあ……頼まれると嫌と言えないだけだからさ。浅く広くだよ。何も身についてない」
「スケート部も?」
「そんなのは無かったけど……大学のときに」
「わかった、ホッケー部だ」
「うん正解。ホッケー辛かったよ。それまではアメフトが一番辛いかなって思ってたけどさ」
「じゃあ教えてくださいね。マエデン行ったらその足で県立スケート場」
「……うん。そうだね。いいね、スケート」
「あ」
「なあに?忘れ物?」
「ううん。杉浦さんがやっと笑ったなーって」
勝手に膨れていた自分が急に恥ずかしくなって、杉浦はまた。
照れ隠しに左手を菅野の膝の上に乗せた。
20121209 完結
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